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「…というようにステータスは6つに分かれており、各々のステータスカードで

確認出来る様になっている。なお、これらの値は…」


長く輝く銀髪を揺らしながら教鞭を執る少女、ジェスタ・クライヌイッシュ

この世界の栄養基準は不明ですが、その身長は入学した村の子供達と然程違いがありません

教師として聊か不釣合いな身長ではありますが、何人もの有能な冒険者を育て上げたこの道数十年の

ベテランです。

幼さの残る口から発せられるその言葉は若人が未来を切り開く金言そのものなのですが、自分の机で

休み時間のぼっちの様にうつ伏せになっている者の耳には殆ど届いていません


ジェスタは溜息をつくと指先に火の玉を作り出し、不届き者に向けて勢い良く飛ばします

火の玉が命中した頭部がカチカチMountainになったぼっちは悲鳴を上げて転げ回ります

実際のぼっちが授業中にこんな奇行をすれば、さぞ白い目で見られる事でしょうね


「初日から居眠りとは良い度胸だなぁ…?そんなに眠ぃんなら保健室行くかぁア゛ァ!?」


途端に幼さの残る風貌は鳴りを潜め、額に青筋を張らせ、目じりを吊り上げます

ドスの聞いた重低音の声色と、その手の上で轟々と燃え盛る炎は【子弟団体】が裸足で逃げ出しかねない

威圧感を撒き散らしています

ヒトによってはご褒美に感じるかもしれませんね


「そ、それだけは勘弁して下さい!」


直立して許しを請うぼっち

多少は消火されましたが、その頭には未だ残火が燻っており、ダイナミックアフロとでも言うべき

髪形に変わっています

ここまで来るともう便所飯は確定してしまいますね


「だったらレオン、今の所を一字一句違わず言ってみろ。間違えたらまた楽しい楽しいかけっこだ」


現在は授業初日の2時間目

満身創痍なのはぼっちだけではありません、

他の3人も何とか意識を保てている程度の余力しか残っていないのです

これらの原因は1時間目の授業に他なりません


「あんなの連続でやったら本気で死にますって!」

「馬鹿か手前は馬鹿野郎、その為の保健室だ馬鹿野郎。それに特科の長い歴史の中で死者は

一人も出てねぇ、遠慮せず逝け」


在校生と勘違いし、出会い頭にいきなり口説こうとして吹っ飛ばされたぼっちは

この小さな教師に頭が上がりません


ちなみにウリボとは猪の子供でうり坊と名前こそ似ているものの、全長は40~50cmと

中々に大きく、牙こそありませんが足が速く、その突進力は大人でも怪我を負う危険性を孕んでいます


一時間目の内容は20キロの装備を着用の上、大量のウリボから只管逃げ回る事

ウリボの突進はその大きさから大体ヒトの脛辺りに命中します

一撃でも貰えば悶絶し、動きが止まってしまうのは間違いありません

そこを2匹、3匹が四方八方から来てしまえば立っている事はまず不可能でしょう


ですが心配はいりません

特科の生徒は命に危険が迫ると自動的に保健室に転移するようになっており、

どんな重傷も一瞬で治療してもらえます

勿論後遺症など一切残りません


「い、嫌だ!あんな…あんな、あ、あば、あばばばばばばばばば…」


その性質上、多少の苦痛を伴いますが、とても些細な事です

例え自主退学の理由の8割を占めていたとしても、些細な問題に過ぎません


「あぁこりゃ大変だ、今すぐ転「言いまス!言わせて下さい!」」


合法ロリ教師の慈愛溢れる説得によりやる気を取り戻したレオンは教科書を強く握り締めます

その表情は先程とは打って変わって真剣そのものでした


「ぼ、冒険者の身体能力はステータスと呼ばれる。

ステータスとは【攻撃】【防御】【魔攻】【魔防】【技量】【素早さ】の6つに

分かれており、これらの値はFからA、AA、AAA、Sで表示される。

自分のステータスはステータスカードにて確認する事が出来る」


緊張と恐怖と疲労で震えながらもなんとかレオンは言い終えます


「ふん、まぁ初日だかんな、大目に見てやろう。

優しい先生様に大いに感謝しろ。ジン、続き読め」


「Fは訓練経験の無い一般人、Eは才能無し、Dは苦手、Cが冒険者としての平均値、

Bは高水準、Aで才能アリ、AAは極めて高い、AAAは最高峰等と言われている。

この中でも特に【魔攻】【魔防】の2種は生まれ持った魔力と才能に寄るものが大きく、

他に比べ、才無き者が後天的に底上げするのは極めて難しい。

Eの場合は生涯掛けても精々D、奇跡的な確立でCが限度と言われている。

よって一流冒険者でも【魔攻】【魔防】がEなのはさして珍しくない。

尚、一般的な冒険者のステータスはE~Cの間で纏まっているが、その上の

BとAの間にはE~C以上の隔絶した差が存在する。その為、Aを持っている冒険者の数は

グランド全体で見ても圧倒的少数である。

その上は更に希少で、AAは地方に一人、AAAは世界に一人居るか居ないかと言われる程で、

Sに至っては建国から今日まで一人しか確認されていない。

…先生、これ初日でやる内容なんですか?普通は読み書きから入ると思うんですが」


「んな基礎の基礎でたった3年しかねェボーナスタイムを潰すなんざ非効率的過ぎんだろうが。

特科は在学中読み書きには困らぬようになってるし読解力も強化されてる。

現にテメぇら問題無く読めてんだろ?

あぁ、卒業する頃には外でも出来る様になってるから心配無用だゼ。

鍛錬に関してもそうだ、仮に育成科と同じ内容であっても比べ物になんねぇ成果になるし、

気づいてねぇだろうが疲労の回復速度も数倍に跳ね上がってる。

お前らが思っている以上に特科の環境ってのは並外れてンだよ」


蛇足ではありますが入学時の書類もこの技術が流用されており、

読み書きが出来ない子供でも問題無い様に作られています


「ボーナスタイム、というのは?」

「種族によって差はあるが、ヒトは大体12歳~15歳辺りが一番成長する時期だ。

同時にここを逃すとそう簡単にステータスは上がらなくなる。

だからこの時期をどう過ごすかで将来が決まると言っても過言じゃねェ。

…話しを戻すぞ、つまりステータスがB以下しか無い者は一山幾らの凡人っつーことだ。、

無論例外はあるがな。ま、どちらにせよ今のテメェらは凡人にも劣るわけだ。

んで、その例外っつーのが次だ、ゼハード」


「は、はい、大多数の冒険者はどれか一つに特化している。

これは冒険者がパーティで活動する事が前提である事と後述の体質が原因である。

ステータス全てが高水準…Bの場合、単独での戦闘力はA持ちと互角かそれ以上の場合が多い。

だがパーティで活動する場合は圧倒的にA持ちが優れている」


「ここで勘違いしがちだがオールBは別にパーティに不向きって訳じゃねぇ。

勿論Aには遠く及ばないが、戦闘中に空いた穴を埋める遊撃的なポジションとしては

極めて優秀だ。フリーの奴が下手な才能持ちより人気が有るのも珍しくない。

最後にゼット、いけ」


「うす…極稀にA以上の能力を複数持っている者がいるが、これはAA以上に希少である。

これはそれぞれに必要な力が互いに相殺し合う為である。

魔獣を一撃で屠る力と強烈な攻撃を受け止められる力の質は同じようで全く違う。

魔力も同じ理由で、筋力と魔力は体内の容量を圧迫し合う為、高次元(A)での両立は極めて困難、

故にそれが出来る才能を持つ者は研究対象としても注目を集めている」


「こういう連中は天然の純真無垢な美少女並みの絶滅危惧種と思ってりゃ良い」

「天然の純真無垢なんて言葉聞いた事無いですよ!!」

「アホかお前このアホ、女ってのは演技、計算、打算で出来てんだ。

笑顔の裏で冷徹に男を見定めて、競争相手の女を陥れる算段を常に練ってんだよ」

「そんな生々しい話聞きとう無かった!」

「女に幻想を持った大人になると痛い目見るぜぇ?ま、純真は無理でも従順な女なら

娼館に行くか奴隷を買えば手に入る。良かったなぁ、童貞捨てるのに苦労はしねぇぞ?」

「いや、俺はもっとこう…甘酸っぱい恋愛をですね…」

「ようはモテたいんだろ?なら強くなって甲斐性持て、そうすりゃ向こうからわんさか

寄ってくる。そしてここは強くなる為の施設だ。

何、甲斐性有る男が女を囲うのは当たり前だ、一夫多妻は国も認めてんだ、

誰憚る事無く好きなだけ囲えば良い」

「なんか、なんか違う…なんかこう、もにょもにょする…」


彼が少しでも美人局やハニトラの類に引っかかる可能性が下がれば、という意図で言ったのですが、

伝わったのかどうかは怪しいものです

レオンが理想と現実の違いに身悶えするのとほぼ同時に授業の終わりを告げるベルが鳴り響きました


「…おっと、横道に逸れ過ぎたな。

最後に言っておくがステータスは個人情報だ。

自分の型スタイル位ならかまわんが、信用出来る者以外には極力見せんなよ?

名の知れた冒険者の情報に千金積む者も居る位だ、

漏れたら何に利用されるか分からん、十分注意しろ。以上」


ジェスタはレオンの将来を案じつつも教室を出て行きました













「はぁ…」


廊下を歩みながらジェスタは溜息を付きます

その溜息はぼっちに呆れた時に出たものとは全く違うものでした

彼女は昨日の出来事を思い出します













「テメェから呼び出しを受けるたぁなぁ、明日は槍でも降ンのかぁ?」

「いやぁスミマセン、早めに御伝えしておいた方が良いと思いましたので」


日が落ちた頃、彼女はウィトラ司書に図書館に来るよう告げられました


「引き篭もりに招待されればどんな事案か興味が湧くだろうが」


ジェスタの言うとおり、ウィトラは図書館から出る事は滅多にありません

これは彼の本職にも関係ありますが、単に出不精なだけでもあります

こんな時間に自室とも言える場所に平然と女性を呼び出し、お茶も出さない様な者の口から

どんな言葉が飛び出すのか、ジェスタの好奇心がくすぐられます


「まぁ、遠回しに言うのもアレなので簡潔に」


その後、彼から発せられた言葉は今でも彼女の頭痛の種です


「新入生のジン君、恐らく禁器を持ってますよ」


ジェスタは暫し無表情のままでしたが、後に俯き、眉間に手を当てます

彼の言葉を信じたくはありませんでしたが、ウィトラが冗談を言う為に人を呼び出す様な

男で無い事は良く理解しています


「…根拠は?」


悪あがきとも取れる一言を搾り出すように呟くのが精一杯でした

ウィトラは無言で手に持っていた本を差し出します

その本はジンが図書館で最初に手に取った本でした

ジェスタは本を受け取るとまじまじと表紙を観察し、パラパラと流し読みします


「…何の本だ?」

「歴史書です。分かりませんか?」

「俺は考古学者じゃねぇ、古代文字なんざ分かる訳ねぇだろ」


ジェスタが持っている本は古代書と呼ばれる本で

グランド内外のダンジョンや遺跡で稀に発見される過去の文明を知る為の貴重な資料なのですが

文字の解読は遅々として進んでいません。

これは古代書自体が見つかりにくいという事もありますが、一番の理由は一冊一冊の

文字や書き方、読み方が全く違うからです

例え同じ場所で発見された同じ外見であってもそうなっている為

考古学者達の頭を長年悩ませています


「ところが彼はそれが歴史書である事を理解出来ていましてね、ブラフにも引っ掛かりませんでした

念の為に他の原本の写しを数冊渡しておきましたが、まずそちらも読破するでしょう」

「…出回ってた翻訳本を読んでいた可能性もあんだろうが」

「確かに解読が終わり、問題無いと判断された物は一般に流通していますがね、

その本の解読が終わったのは2日前で、翻訳した書類は私の手元と王立大学に提出した

2つしか無いんです。

仮に出版されていたとしても学者や一部の好事家にしか需要の無い本が地方にまで

出回るなんて事はありえませんよ」


そこまで聞いてジェスタは大きな溜息を付きました


「まぁ、既に前例が有る訳ですし、さして問題になる事も無いでしょうが」


何気無く発したウィトラの言葉でジェスタの何かがぷつりと切れました


「ドアホが、このドアホ!!あの糞ガキが何やらかしたのか忘れたかドアホ!」


先程までと打って変わって声を荒げる合法ロリ

その顔は怒りで真っ赤になり、額に幾つもの青筋が浮かんでいました

それに引き換え、対峙する社会不適合者は眉一つ動かす事もしません


「勿論覚えてますよ、歴史に残る記録保持者レコードホルダーになったんですから。

今も立派に活躍しているそうですし、先生もさぞ鼻が高いでしょう?」

「あの後始末にどンだけ奔走させられたと思ってんだ!!

未だに俺まで恨まれてんだぞ!!とばっちりもいいとこだ糞ったれが!!」

「ははは、可愛い教え子の為じゃないですか、苦労の一つ二つは安いものでしょう?

私なんて彼と余り接点がありませんでしたから、忘れられてないか不安ですよ。

先生が羨ましい限りです」


ウィトラの言葉は本心から出たものですが、ジェスタには皮肉としか聞こえません

わなわなと震えるジェスタにウィトラは全く気づきませんでした

こういう人をKYと言います

心当たりのある方は十分注意しましょう

注意できないからKYなんですが


「話を戻しますが、着いて早々ここに来たということは、彼自身何かしらに気づいていると思います。

そこはマル君とは違いますね。一先ず本の返却時にでも説明しようかなと考えてますが」

「…いちいち言いふらさねぇよ…学園長には確認でき次第お前から報告しろ、それと…」


髪が逆立ち、全身に怒気を纏うジェスタ

彼女がもし男で、バトル漫画の主人公だったなら、上半身の衣服が弾け飛んでいる事でしょう


「一発殴らせやがれ!このgfxjbxfjzh!!!!!!!」


特科の校舎はとてもとても頑丈に出来ている為、少々揺れる程度で済みましたが

暫くの間図書館は立ち入り禁止になりました










久方ぶりに全力を出しましたが、未だジェスタの気は晴れません

禁器

この単語が彼女の頭に重く圧し掛かっているからです






先程ジンには他より長く難しい箇所を読ませたが、一度も詰まる事無く言い終えていた

語句の音程にもおかしな所は無かった

読み書きと読解力が強化されても完璧になる訳ではない

噛むのも間違えるのも極自然の事

今まで文字に触れる機会が無かったなら尚更


田舎の生まれで両親は学者という訳でも無く、然して裕福だった訳でも無く、

学問を修めた形跡は皆無だというのに明らかに本の扱いに手馴れていて、両親の死因も不明


ウィトラを否定したくとも状況証拠が揃い過ぎている


ジンがもし本当に禁器を持っているのなら、そろそろ自身の異常に気づいている筈

釘は刺しておいたが、希望的観測は捨て置いた方が良い


「呪われておるのは俺じゃねぇのか…?」


溜息を付きながらとぼとぼと廊下を歩く後姿は、見た目相応の少女にしか見えませんでした
















【攻撃】F【防御】F【魔攻】―【魔防】―【技量】E【素早さ】F


書き溜めはここまで


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