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あ、どうぞ

作者: Ryosuke Hujisawa



その日は、菜々にとってハッピーな1日になるはずだった。カーテンの隙間から差し込む光に照らされ、気持ちよく目を覚ます。


窓を開けて、スーッと鼻から吸い込んでハーっと口から吐き出した。自然と口角は上がり、昨日のモヤモヤが嘘のように奈々の心は晴れ渡っていた。とんがったハイヒールでコツコツと音を鳴らしながら歩く。


モデルウォークをヒッソリ意識して歩いていた甲斐あって、昨日、恵美から「モデルさんみたいに綺麗に歩くね」と言われて嬉しかった。


地下鉄の窓ガラスに映る自分の影は、いつもならブサイクに見えるのに、今日は目鼻立ちの整った美女に見えた。


すれ違う女達を値踏みすれば、私の方が綺麗に思えて優越感が湧き上がってくる。駅で電車を降りた時、すれ違う若い男と目が合った。


ニッカポッカを履いた職人風のその男は、ガラの悪い髪型をして真っ直ぐに菜々を見つめていた。


目が合った瞬間、男の細くツリ上がった目が下に落ちた。照れたのだ。真意はわからないけど、嬉しかった。


いい女になった気分だった。全然タイプじゃないのに少し気になってしまう。その日の仕事を終える間際、同僚の岩井からさり気なくご飯に誘われた。


「今日はお疲れ~、なんかお腹減っちゃったね~」回りくどくいな、しかも自然じゃないな。


下手くそね、心の中であざ笑いながら、菜々は岩井からのさり気ない誘いをキッパリ断った。もっと稼げる男になってから私を誘ってちょうだい。嫌な男じゃないけど、論外だった。


恵美を誘って六本木へ。六本木という街は、どうしてこうも外人が多いのだろうか。そして、どうしてこうもいい男風なのが多いのだろうか、奈々は、ついつい街ゆくいい男風な男を目で追ってしまう。


もっぱら、お目化しした奈々のことを男たちは捉える。そんな瞬間、奈々はわざとらしく目線をサッと横に反らすのであった。


なんだろう、これまでもずーっと自分が綺麗だったんじゃないかと今夜は錯覚に陥る。


恵美だってそこそこの美人だから、私たちはイケてるチームね、と心の中で恵美のような可愛らしい友人を持ったことを誇りに思った。


お洒落なバーを見つけ中に入る。驚くことに、中にはいい男風な男であはなくて、確実にいい男な二人組がテーブル席で酒を飲んでいた。


私たちはそちらを気づかれないようにチラ見する。


「ねえ恵美、」


「うん、かっこいいね」


私たちの意思が疎通したようだった。あっちから近づいてきてくれれば楽なのになあ、と奈々は思う。でも、あれぐらいいい男が あっちから近づいてきてくれるとは思えなかった。


そもそも、飢えてる男というのは目つきで分かる。彼らが飢えていないことも、視線と表情から容易に読み取れるのだ。


二杯目のハイボールが空になる頃、二人組の女達が店に入ってきた。二人共UNIQLOで固めたと思われるラフな服装にNIKEのスニーカーを履いていた。


ここら辺に住んでるのかしら?リッツカールトン?まさかね。


女達は男達の隣に腰掛けると、4人でお喋りを始めた。期待した自分がアホらしく思い、連れがいたのかと思うと急に男達が憎らしくなった。


2人は、何事も起こさぬままに店を後にすることにした。


「いこっか」


「そうだね」


恵美と席を立とうとしたときだった。手洗いから戻ってきたと思われる女の1人と相対した。「あ、どうぞ」と先に通り道を譲られて何故か平常心が乱された。


一瞬見上げた後、私が言った「ありがとうございます」は無愛想に映っただろう。背が高くて色白な美しい女だった。


恵美と駅で別れ、疲れてコンタクトがシバシバする目を擦りながら電車に乗り込んだ。心にモヤモヤが湧き上がっていることに、奈々はその時気が付かいた。いつもアレだ、


ハッと顔を上げた時、夜景に反射して映る自分と目が合った。不細工だった。垂れ下がった頬と、への字に曲がった口角、取れかけた2重のラインが醜かった。周りをチラ見する。


奥の方で笑い合うカップルたち、ヘッドフォンで音楽を聞く男、疲れた顔のサラリーマン、部活帰りの学生、


ウォークマンの男と一瞬目が合う。男は、サッと横に目をそらすとウォークマンに視線を戻した。

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