2】見込みどおりだったらしい僕 -2
僕は、変な視線を感じて振り返った。
振り返ったそこに――彼女がいた。
……いや。「彼女がいた」と表現したことは、彼女には伏せておこうと思う。そして彼女の名誉のために言い換えよう。
振り返ったそこに、彼女が隠れていた。
本当はこの表現すら間違っている。だって、「隠れていた」という表現から分かるとおり、僕は彼女の存在にすでに気づいている。けれど、彼女が隠れようとしている対象はまず間違いなく僕だ。その証拠に、今この瞬間でさえがっつり目が合っている。瞬きもなく、だ。だから僕は本来なら沢瑠璃さんが「隠れている」ことすら気が付かないはずなのだ。
「沢瑠璃さん……」
僕は、その言葉の続きを言えなかった。
なぜ。
なぜ彼女は、僕の膝上くらいの丈しかない盆栽の陰に座って? 隠れて? いるのだ。そんなものでは彼女の身体の半分くらいしか隠せていないのに。なにより、今こうして目が合っていることは彼女にとって、見つかっていることの判断基準に入っていないのだろうか。つまり彼女は、まだ見つかっていない、と思っているのだろうか。
「……」
僕は――何も言わず歩き出した。沢瑠璃さんの方へではなく、僕の家がある方へ。とりあえず、帰宅を再開してみることにした。
そうする理由は、彼女の行動に何の意味があるのかを知るためだ。本当はストレートに本人へ訪ねてもいいのだろうけど……というより、これは僕だからいいようなもので、僕以外の人間なら、盆栽の陰にストレンジャーが座っている案件へと直結しているだろう。まあ、そんなことを考えている時点で、僕の中でもやんわりとそれに結びついてるのだろうけど。
とにかく、ストレートに聞きづらいのでこちらの動向にどういう反応を返してくるのかを知ろうと思った次第だ。
はたして。
……ついてきた。
沢瑠璃さんは、隠れる努力を怠ったような隠れ方で、僕の跡を尾けていた。僕はスマホをいじる振りをしながら前面のカメラを動作させて、尾けてきている沢瑠璃さんの所作を盗み見ているのだけど。
……両肩をすくませて身体を小さく見せるというただそれだけの、それ以外に何もしていないその行動に、どれほどの信頼を置いているのだろうか。せめて物陰から物陰へ移動するなどしてくれれば、まだなにがしかの対応も考えられるのに。
スマホで盗み見ながら、試しに立ち止まってみる。
……え、近づいてくるの!? あ、止まった。え、でも立ち止まるだけ? なぜに仁王立ち?
彼女は本当に尾けてきているのか? たまたま帰り道が同じなだけなのかもしれない。そう思いたくなる、彼女の不審行動だった。
ダメだ。これ以上は何かがダメだ。何かに対して、我慢できそうにない。
僕は、沢瑠璃さんに声をかけることにした。
いやぁ。悪ノリ、我慢できませんでした。そのまんま沢瑠璃さんに投影しました。沢瑠璃さんにも、ごめん。