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彼女とネコは高いところが好き  作者: 二ツ木線五
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1】隣の教室の沢瑠璃さん -3

 彼女なら知っている。沢瑠璃穂花、女子の中でも背が高いほうで(165センチの僕よりも高い)、さっぱりとしたショートカットとちょっと凛々し目の顔つきがが印象的な子だ。スポーティな外見だけどその外見と相反してスポーツは苦手らしく、体育のバスケのドリブルで親指以外を突き指するという伝説があると聞いたことがある。


 外見と相反する特徴はもう一つ。

 人付き合いがうまくない、ようだ。

 教室移動の際、うちの教室の前をよく通るのだけど、いつも独りの彼女がこの教室の窓から窓へ通り過ぎていくのをよく目にする。イジメにあっているのかというとそうでもなさそうだけど、とにかく彼女が誰かと話をしたり歩いていたりしているのを見たことがほとんどない。それでも彼女が暗そうな表情をしているところは見たことがなかった。イジメはなかったと思える要因はそこにあるのだけど、その表情がここ一ヶ月ほどは陰りがちになっている。いったいどうしたのだろうか。


 理塚くんが頭の後ろで手を組む。複雑そうな表情は変わらない。

「な? だから言いづらかったんだよ。お前だって、変な学生ていうのが自分の好きな子パサパサァ!」

 僕は疾風迅雷、理塚くんの口を押さえていた。僕の本能は失言のより確実な鎮圧方法を選んだのだろう、押さえるだけでなくメロンパンの包装をその口へ押し込んでいた。理塚くんの声が最後のほうでビニール音に変わった。


「理塚くん。軽い口というのは良い人生を送るうえで切り捨てるべき不要物と思うんだよ」

「べっぺっ、だ、だからってゴミを口に突っ込むかよ!」

「鮮度の高いゴミだから大丈夫だよ。それより」

 僕は教室のすみに設置されたごみ箱を持ってくると、机の横にそっと置く。

「口を滑らせるごとにゴミの鮮度と使用方法が変化するから気をつけて」

「口に入れる以上の選択肢があるのか!? 悪かった、今のはオレが悪い」

 理塚くんが素直に非を認めてくれたので、安心して僕は持ってきたゴミ箱を元の位置へと戻した。


 そうなのだ。

 いや、そうなのだと言いながら自分でもいまいち分からないのだけど、沢瑠璃さんのことが気になるのは確かだった。ただ、これが好きというものかと聞かれると、これまでそういう気持ちを経験したことがないのでやっぱり分からない。

 しかし、そんな奇行に走っている女子性は、本当に沢瑠璃さんなのだろうか。


 ただ、それが本当に彼女なのであれば、僕が目撃した

 ケサノイチブシジュー

 もまた、彼女の可能性がある、と言うか高いレベルでそうなる。

 なぜ? なぜ彼女は

 アンナトコロー

 にいたのだろう。さっきも考えていたとおり、気まぐれのお気楽気分で行く場所ではないはずだ。つまり、なにがしかの目的をもって

 アンナトコロー

 に行ったのは間違いないと思うけれど。


 本人に聞くのが一番早いのだけど、奇行少女の正体が彼女だと確定したわけでもない。もしそうでなかった場合、彼女からすれば初対面の人間から「おでん、と叫ぶ奇行少女ですか?」と問われるわけで、その瞬間、彼女から見た僕の価値は、使い終わったセロハンテープの芯より下だろう。後は捨てるしか方策のない存在よりも下になるのは、どうしても嫌だった。


 考えてもあまりいい案が生まれそうになく、仕方なく僕は理塚くんに意見を求めることにした。

「理塚くん、相談なんだけど」

 と思ったら、前の席に座っていたはずの理塚くんがいなくなっていた。昼食のゴミも綺麗に片付けられている。

 どこに行ったのだろう、と途方に暮れていると、机の上に紙切れが一枚残されていることに気がついた。それは理塚くんの書置きだった。


『何回か声かけたけど、反応がなくなったんで席外します』

 メールの文面ではいつもなぜか丁寧語になる彼の書置き。

 掛け時計を見ると、昼休みが終わりに近づいている。

 どうやら僕は彼を置いて長考に陥っていたようだった。

 僕は――謝るべく、走って彼を探しに行った。

自分で書いてなんですが、パサパサァ!の部分は自分でも大好きです。理塚くんごめん。

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