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彼女とネコは高いところが好き  作者: 二ツ木線五
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9】ハヂメテノコユビー -1

 さて。

 まず二つあるうちの結果の一つを先に伝えておこうと思う。

 僕たちは、おでんを発見することができた。

 ただ発見までであって、そこからは逃げられて捕まえることはできなかったのだけど。


 本当を言うとおでんの姿を見かけるまでは半信半疑だった。ここへ来るまでの道すがらで聞いた話では、沢瑠璃さんはこれまでのマンションやビルで何度かおでんを見つけ、そのたびに上へ上へと逃げて、結局は見失っていたそうなのだけど。屋上まで探しに出たのは、僕の家の前にあるマンションが初めてだったらしい。


 先に発見したのは、僕の半歩先で階段を上がっていた沢瑠璃さんだった。「あ、おでん!」という大声とともに沢瑠璃さんが急に階段をかけ上りはじめ、高所恐怖症を回避する拠り所をなくした僕がへたりこもうとしたところ、いつのまに回り込んでいたのか次はすぐ下の階の廊下へ茶色と白の毛が走って消えていくのが視界のすみをかすめて、なんとか発した大声で沢瑠璃さんを呼び止めた。沢瑠璃さんがすぐに引き返してきてその階を見回ったけど、結局それ以降おでんの姿を見つけることができなかった。


 沢瑠璃さんは悔しながらも「お前を見込んだ私の目に狂いはなかったな!」と喜んでいた。

 そして僕は、

「惜しかったね、でもまだ次があるよ!」

 と体面上のねぎらいの声を沢瑠璃さんにかけていた。なぜ体面上だったのか。決まってる、おでんを探すあいだは、沢瑠璃さんと手をつなげるからだ。だからおでんが見つかったということは、また明日も手をつなげるということであり、いつかは終わりが来るということだ。

 まあつまり、それが今日出した、もう一つの結果だった。



「小指だけなら許しちゃる!」

 ありがちだけどどこの地方のか分からない訛りで、沢瑠璃さんがそう怒鳴った。

 その頬は熟れた桃みたいに赤色がこげついていて、それが彼女の中の照れ度最上級にして最終形の表現であることはもう聞かないでも分かった。

 そんな沢瑠璃さんは、なんというかもう、とにかく本気で可愛かった。


 だから僕も人生史上最高に照れてしまい口巧みに話せず、「あ、ありがとう」などとと簡単にしか返せなかった。すると沢瑠璃さんは勢いよく僕へまた背中を見せる。

「か、勘違いするなよ! もっかい言っとくぞ、これはおでんを探すためであって、お前のためなんかじゃないんだからな、喜んだりするなよなっ!」


 もう使われすぎて版権の所在が不明なんじゃないかという感じのセリフが、彼女のシュッとした背中越しから届いてきた。沢瑠璃さんのスボーティあるいはボーイッシュな見た目にいわゆるツンデレ風なセリフは健気な方向へマッチしていて、「ああこういうセリフって意外と現実でも使えるんだ」と場違いかつ妙な納得をしてしまった。さらには「ふんっ!」と言いながらそっぽを向いたときはもう、沢瑠璃さんは分かって狙ってしているわけではないだろうから、ああもうこれは現実でないのでは、と僕は夢見心地になった。ホントに沢瑠璃さんは意識してないのか? してないなら彼女はまさにナチュラルボーンツンデレラーじゃないか。……いや違う。沢瑠璃さんはデレてない。あのお礼を言われたときの笑顔はもう何度でも思いだしたいくらいだけど、ただの一回ではデレと言わないのでは。だからデレてないと思う。ただツンであるのはたしかだ。だから言うなればこの場合、沢瑠璃さんはナチュラルボーンツナーだった。


 ……いや、名称を考えることに気を取られていたけど、ナチュラルボーンツナー。その意味を冷静に考えると、それはただの欠点だった。

 僕が「分かりました」と返事をすると、沢瑠璃さんはくるっとまた振り返ってきて、まだほのかに赤みは残っているけどいつもの状態に近い沢瑠璃さんが「よしじゃあ行くぞ」とマンションのこぢんまりとしたロビーを先に歩きはじめた。


 ロビーを抜けてすぐにあったエレベーターホールはそのまま通りすぎた。沢瑠璃さんいわく、屋上だけが出現ポイントではないらしかった。一番初めに捜索した雑居ビルでは、二階でおでんをすぐ見つけられたらしい。その逃走経路が徐々に上階へ伸びていって、僕の実家の前にあるマンションでは結果的に屋上へ出ることになったそうだ。さすがの沢瑠璃さんもびっくりはしたらしいけど、その一方で

 カゼガキモチヨカッター

 そうだ。ちなみに、昨日のマンションでは姿すら見かけられなかったそう。


 まあつまり、通り過ぎてしまうだけの、しかも窓から覗ける範囲でしか探せないエレベーターはほぼ使っていないそうだった。でも、と言うことは一フロア一フロア順に探していくことになるのだろうか。

 そう考えると、沢瑠璃さんには絶対言わないけどどうにも半信半疑になる。ネコ――今だけはそう呼ぼう――を探す場所をマンションやビルに限定することに、いまいち現実味がない。まあそれでも、沢瑠璃さんが現実におでんをこういう所で発見してるのだから間違いはないのだろうけど。

手をにぎるとというただそれだけのことが、すごく冒険だったあの頃。

……いつのことだか思い出せない。

いい青春しなさいよ、二人ともー!

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