6】二階アパートのトタン屋根 -2
僕は、帰宅部の僕にできる限界の速力で階段を降りた。沢瑠璃さんが僕よりも早く帰ったことは予定と予想と想像の範疇外だったけど、僕より早く教室を出たことと追いつけないことはイコールではないはずだ。だから僕はかなり久々にダッシュした。
階段で一階まで降り、先生から「走るな!」と注意を受けながら廊下と渡り廊下とさらにもう一つの廊下を経て正面玄関へ、そこで自分の下駄箱で靴を履き替えて、そして目的地である学校の正門へと僕はたどり着く。
時間にして、三分強といったところか。
その三分強にあった一連の流れを聞いてもらえたら、お分かりいただけただろう。
つまり。
「なんで、なんで追いつけないの……?」
誰もいない正門にもたれながら、そして絶え絶えの息で肺からの放熱作業を繰り返しながら、僕は喘いだ。
なんで追いつけない!? この状況からして沢瑠璃さんはまず確実に、校内に存在する知的健康生命体の中で一番先に下校していた。彼女はいったいなんだ、空間を操る魔法使いかなにかなのか? もしくはカート系ゲームにありがちなショートカットの開拓に成功したのか?
どうするべきか、と考える。今日はいったん諦めるという選択肢は用意することすらしなかった。さっき訪ねた女子のあの話では沢瑠璃さんの超音速下校は今日に限っていないし、かと言って放課後以外で話をするのは彼女に迷惑をかけてしまうだろう。そしてなにより。
僕の気持ちが収まらない。
あ、そうだ! とスマホを取り出す。そう言えば昨日、おでんの写真を送ってもらっている。無視されるかもしれないけどメールに返信して……
僕は正門の柱を使って反省のポーズをとった。
送ってもらってない……その直前で怒らせたんだった……
僕はとにかく、沢瑠璃さんが昨日見せてくれたあの白地図を思い出した。実は、僕は一瞬見ただけで詳細まで憶えることができるというあの映像記憶能力を持っていなかった。まあつまり、普通におぼろげながらしか記憶してないものを思い出そうとして、やっぱり思い出せなかった。
だから僕は、昨日行ったマンションの方向へと歩き始めた。あの地図を見たかぎり沢瑠璃さんはしらみ潰しに探し回ってたっぽく、だったらデタラメな方向には動かないだろうと考えたことと、もう一つ、気になっていることがあるからだ。
五分もあれば息も整ってきたので、たどってきた昨日の帰路から逸れる。この方向にはたしかマンションがあったはずだ。見つけられる自信はないけど、僕は頬を叩いて気合いを入れなおすと、「よし!」の一声とともに走りだした。
そして、こけていた。
コケたのでなくこけたのだった。手の平にすり傷ができたことから分かるとおり、普通にこけたのだった。
こけた原因は一つだけだった。僕はじんじん痛む手をさすりながらおもわず大声をあげた。
「さ、沢瑠璃さん!?」
そう、沢瑠璃さんを見つけたからだった。沢瑠璃さんを二階アパートの屋根の上で見つけたからだった。沢瑠璃さんを屋上だとか屋根に取りつけたベランダだとかでなく、手抜きなしで掛け値もなしの二階アパートのトタン屋根の上に立っているのを見つけたからだった。
「え、なんで!? なんでそんなとこ!?」
極大の違和感しかない光景だった、アニメとかで人が屋根に登ったり走ったりするのはたまに見たりするけど、リアルなこの世界で人が屋根に立っている光景はもうなんか違和感しかなかった。
沢瑠璃さんの新たなスキルが判明。
超音速下校。
とにかく早く下校したい気持ちが糧となる技ですね。




