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彼女とネコは高いところが好き  作者: 二ツ木線五
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6】二階アパートのトタン屋根 -1

「ではこれでホームルームを終える。委員長、号令」

 起立、礼。

 そして着席した瞬間、僕は自分の鞄に教科書を詰めこみ、その鞄をかっさらって教室を飛び出した。理塚くんの「頑張れよー」の声を背に受けながら。だから、下校時間になって約二十秒後には沢瑠璃さんのいる隣のクラスの前で僕は急ブレーキをかけていた。

 窓越しに教室を覗くと、B組も同じタイミングで終わったらしく教壇にはまだ先生がいて、生徒たちも思い思いに席へ座りなおして帰る準備をしている。僕はその中から沢瑠璃さんの姿を探す。……けど。


 ……ん。あれ?

 ざっと見たかぎりで、あのさっぱりとしたショートカットがどこにもいないような。彼女はたしか廊下寄りの前のほうの席だったはず。

 もう一回見渡してみたけど、やはり見当たらない。沢瑠璃さんの姿が、彼女の教室であるこの部屋の中で見当たらない。

 もしかして学校を休んだ……?

 それしか想像できるものがなく、そしてなぜだろう、彼女がいないことに妙な胸騒ぎがする。昨日あのことがあっての今日。どうしてだろう、得も知れないなにかイヤな予感がする。


 僕は不意に持ちあがってきた暗い焦燥感に追いたてられて耐えられず、教室入口の一番近くにいた女子へ思いきって声をかけてみた。

「あの、僕、隣のクラスの織野て言うんだけど、沢瑠璃さんて今日はお休み?」

 すると、僕を不審に思ったのだろう眉を少ししかめた目で、その女子はこう答えた。

「沢瑠璃? もう帰ったよ」

「もう帰った!?」

 分かってる、こんな大声出せば教室の皆に迷惑がかかるし目立ってしまうことは。でも出さずにはいられなかった、いやだってこっちは最短だよ? 着席から急ブレーキまでなんのロスも落ち度もなかった僕よりも早く帰るなんて有り得る? B組の前に階段はあるけど、教室を出る姿すら捉えられないなんて。


「う、うるさいなぁ」

 分かっていたとおり、その女子が不快感もあらわに思いきり顔をしかめたのを見て、僕は「ご、ごめん、ありがとう!」と謝罪と感謝を伝える。

 と、その女子がなにかに気がついたように「あ」と小さく声をあげて、あまり気分の良くない笑みを浮かべた。

「もしかして、あんたもあの子から頼まれたの?」

「え?」

 僕はおもわず聞き返してしまった。

「それってど、どういうこと?」

 僕がその質問で聞きたかったのは、沢瑠璃さんが僕に頼みごとしたことをなぜ知ってるかということではなく、なぜ「僕も」という言い回しなのかというところだった。それはつまり、沢瑠璃さんは僕以外の人にもおでん探しを頼んでいたことを指している。


 そのことを尋ねると、その女子は辛抱たまらないように吹き出して笑った。

「一ヶ月前くらいかなぁ、あの子ったらね、ホームルーム終わったらいきなり前に立ってさ、誰でもいいからおでんを探してくれって、いきなりだよ? 大声でさ」

「それでどうなったの?」

「そんなの誰も手伝うわけないじゃん、こっちからしたらおでんてなんだよ、だしさ。べつに友達でもないしさ。あ、でもそっからだよね、バッカみたいに早く帰り始めたの」

「そう。分かった、ありがとね」

 これ以上聞いていてもあんまり良くない気がしたので、僕は礼を言うと靴底から煙が出る勢いですぐさまきびすを返した。


 僕は、帰宅部の僕にできる限界の速力で階段を降りた。沢瑠璃さんが僕よりも早く帰ったことは予定と予想と想像の範疇外だったけど、僕より早く教室を出たことと追いつけないことはイコールではないはずだ。だから僕はかなり久々にダッシュした。

スマホで書いてますが、親指の動かしすぎで腱鞘炎ぽい症状が。なかなか痛い。アップするスピードがちょっと下がるかも知れません。

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