2】見込みどおりだったらしい僕 -6
でもネコだよね、という言葉は飲み込んだ。
そう。ネコだった。沢瑠璃さんから見せられた写真には、まごうことなき一匹のネコが写っていた。彼女のものとおぼしき部屋の、彼女のものとおぼしきベッドの上で、白と茶色の毛が混ざったネコが一匹、リラックスして寝転んでいる。それはなんの変哲もない、猫のいる風景を切り取った写真で、だから僕は「ネコ?」と聞いたのだけど、返ってきたのは今しがたの無言の鞄だった。
いったいなにが彼女の怒りの琴線に触れたのかまったく分からなかったけど、でもネコだよね、の言葉は鞄の災厄の再来を呼び起こしそうだったので押しとどめた。
でも、これで少なくとも一つの疑問は解決した。ネーミングセンスはさておき、おでん、はネコの名前だったのか。
でもそうと分かれば、僕の中での選択は早かった。
ネコが懐きやすい僕なら役立ちそうだし、なにより沢瑠璃さんのお願いだ。彼女と出会ってまだ五分くらい? だけど、彼女の性格が少し分かった気がする。変わった性格なのは間違いない。まったくもってまず間違いない。でも同時にこうも思ったのだ。「面白いコだな」と。確かにクセは強いけど、それもなぜか気になってしまう。
だから僕は、「いいよ」と頷いた。「おでんを探そう」と頷いた。
――次の瞬間の、沢瑠璃さんが見せてくれた笑顔は。
僕より少し背が高くて。ショートカットに髪をそろえて。ちょっと凛々し目な目尻の女の子。綺麗な顔立ちのその子が見せてくれた笑顔は、とても。その。――可愛かった。
「ホントにっ!?」
飛び跳ねるような明るい声が上がった。可愛らしい、沢瑠璃さんの声だった。それが聞けただけでも、手伝うと言って良かったな。
僕のそんな思考を遮って、ガチャン、という音が響いた。
沢瑠璃さんの両手が僕へ伸びていた。握手でもしようとしたのか。でも彼女はそのポーズのまま止まっていて、視線だけが下を見ている。その視線を追うと。
たぶん、鞄が当たったのだろう。盆栽が落ちて割れていた。
――僕たちは、話の続きをする舞台を移すことにした。
盆栽が被害者となる回です。
彼は何も悪くありません。ただ、運が悪かったのです。




