-8話- いきなり派遣?~ゴブリン系って誰もやらない糞仕事5~
まだまだ連続更新です。
「逃げろケティ! あれは多分ヤバい!」
「きゃ!?」
咄嗟にケティを突き飛ばす。
ゴブリンキングの攻撃は、俺を標的としていた。
脇腹に衝撃があってすぐ、肺の空気が全て抜ける。
背中に強い痛みを感じた、猛烈な勢いで木にぶっ飛ばされた様だった。
《ほう、硬いな》
巨大なゴブリンがそう呟いた瞬間、俺の後ろの木がミシミシと音を立てて圧し折れた。
風を取り込み大きく燃え上がる。
《人の身でよく我の一撃を受けた、ギアを上げて行くぞ》
誰も異世界バトルしにきてねえし、俺はただのしがない派遣社員だって言うのに。
もの凄い痛みはあるが、幸いな事に骨折はしていなかった。
身体を起こして再び迫り来るゴブリンの一撃から逃げるべく大きく横に跳び出す。
背もたれにしていた木は、跡形も無く木っ端微塵に消え失せた。
ちくしょう何がゴブリンだ。
結局現代知識チートでゴブリンを蹂躙するどころか、逆にゴブリンに蹂躙される展開になっちまった。
辟易するよりも先に身体が動く。
死んでたまるかと。
「うおおおおおおお!!!!」
泥水すすってでも生きてきた派遣魂が大きく身体を動かした。
迫り来る巨大なゴブリンに合わせる様に右手を振り抜く。
《勇猛と自暴自棄は違うぞ、人間》
拳が当たる寸前で、巨大なゴブリンはステップを踏み真横に身を翻す。
ボウッと風を切る音と共に、正面にあった木が二〜三本倒壊した。
燃えて耐久力が無くなっていたんだろうか。
《……恐ろしい。本当に人間か?》
その光景を目の当たりにしていたゴブリンは《だが遅い》と呟くと、俺の前から姿を消した。
「ぐおッ——」
いつのまにか頭上にいた。
頭を鷲掴みにされて、地面に叩き付けられる。
《いずれはベルゼブブ様の脅威に成りかねないな、今の内に叩き潰しておくか》
奴が頭部を潰そうと拳を振り上げた。
——その時。
ゴブリンの頭に木の破片が投げつけられる。
「その人から、離れてください!!」
杖と一緒にベビートレントを抱きかかえたケティが目の前に立っていた。
泣きそうになりながらも、必死に足の震えを抑えて虚勢を張っている。
「は、離れないと私の召喚魔法が火を噴きます!」
ゴブリンは俺の頭を押さえつけたまま低く唸る。指の隙間から顔を見上げると、そのゴブリンキングは良くある映画に出て来そうな太々しい醜い体つきではなく。
戦いの為だけに鍛え上げた筋骨隆々の身体。
剥き出しの牙、口からは酷い臭気が漂っていた。
ギョロ。と眼球が動く。
「ひっ」と後ずさりするも、ぐっと堪えるケティだった。
《面白い、では召喚魔法とやらを見せてみろ》
「しょ、召喚魔法! スラちゃんお願いします!」
後に引き下がれなくなったケティは、顔を赤くしながら召喚魔法を行使した。
杖の先端に魔法陣が浮かび、そしてポンっと音を立てて小さな青色のスライムが姿を表した。
《ス、スラァッ〜〜!》
「ああ! スラちゃん!」
召喚されたスライムは、巨大なゴブリンを見ると、文字通り飛び上がる程の鳴き声をあげて、一目散に燃える森の中を逃げて行った。
ケティが不憫でたまりませんとの事よ。
《ふははは笑止!! 全くもってつまらんな小娘、消えろ》
「ふぐ、ひっく、たった一匹のスラちゃんがぁぁぁ」
「もう泣くな!!」
俺はそう言いながら必死の力を振り絞って立ち上がった。
ケティ助かったぜ。
気を逸らしてくれたお陰でゴブリンの押さえつける力が弱まっていた。勢い良く立ち上がった影響で、ゴブリンはバランスを崩して転倒する。
《迂闊だった。だが二対一だと強気になっても、共闘する小娘は雑魚スライムにも》
「うるさい、これ以上言うなよ。アイツ泣くから」
パチパチと音を立てて燃えた枝が地面に落ちる。
それを合図にゴブリンに跳び出す。
直線的なタックル。
格闘なんてテレビやDVDくらいでしか見た事無い。まるで素人の俺には大きく振りかぶってぶん殴るか、死にものぐるいて突撃するくらいしか攻撃方法が思いつかないんだ。
《さっきの一撃は無いのか? 我の心を大きくかき立てる様な改心の一撃は出せないのか?》
お前が想像するような超絶バトルものでも格闘ものでもねぇ。生きるか死ぬかの瀬戸際で、しがない派遣社員でしかない俺にはとてもじゃないが、——戦いを楽しむ余裕なんてねぇ!
「喰らえ目つぶし!」
腕を大きく広げて待ち構えるゴブリンの顔目がけて、立ち上がる時に掴んでおいた砂をお見舞いする。
勘違い野郎にはコレで十分だった。
「クソ真面目に生きてたら大体こういうしっぺ返しをくらうんだよバーカバーカ。誰がてめぇの言葉に乗ってやるかよ! よし、この隙にさっさと逃げるぞケティ!」
目を抑えたゴブリンのすぐ横を駆け抜ける。
ケティの目が最初のゴミを見る目に戻っていた。
ハハ、ワロス。
そんな場合じゃ無いってのに。
「少しだけですけどカッコイイと思った私が馬鹿でした。返してください」
「なにを!?」
ちくしょう、余計な時間を食った。
このままじゃ、回復したゴブリンに追いつかれてしまうというのに。
《我を……我を本気で怒らせたな愚民共がああああああああ!!!!!!!!!》
「おい! 宇治金時ガチギレじゃねーか! どーすんだよ!」
「なんですかそれ知りませんよ! 元を正せば貴方が洞窟なんか燻すからこうなったんじゃないですか!」
ああもう、とケティの手を引いて全力疾走する。
《どこまでも愚弄するのか、我はゴブリンの王ウジキングであるぞ!》
俺からすればウジキングもム○キングもゲ○キングもかわんねーよ。ヤバイヤバイヤバイヤバイ、あいつ速いよ、やっぱりゴブリンの王って自称するくらいのことあるよ。
グングンと距離を詰めてくるゴブリン。これは、さっきみたいに攻撃くらってもすごい痛いだけじゃ住まされない気がする。
「ひいいいいい!!」
「あはは、必死な顔が余計に気持ち悪いですね」
ざけんな!
何でコイツ余裕なの? ねぇ何でコイツこんなに余裕綽々してんの!
《平等院鳳凰堂天上天下天下無双葬—————!!!!!》
「お前も馬鹿にしてんのか! なんで知ってんだよ! それちげぇよ! いや間違ってはいないけど、とにかくややこしい名前で攻撃してくんじゃねぇええええええ!!!」
俺達を助けてくれるかの様に、丁度あいだに邪魔するように、倒壊して崩れ落ちて来た森の木々。だが、ゴブリンはその木ごとひと振りの拳で粉砕し、燃えていた破片の火の粉を纏って突っ込んでくる。
「ヤバイですよ、あれはすごく強そうです!」
「んなこと言ってる場合か! 万事休すだぞコラ!」
いよいよ迫り来るゴブリンキング。
その時、——空から一人の幼女が姿を表した。
ブクマ評価ありがとうございます。
モチベになってます!
がんばります!
ツイッター@tera_fether