-7話- いきなり派遣?~ゴブリン系って誰もやらない糞仕事4~
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「一体どうするんですか?」
後ろをチョロチョロと付いて来ていたケティが俺に言葉を投げかける。
現在、ゴブリンの集落がある横穴の真上の部分に着ていた。傾斜の激しい丘の様な地形になっていて、ケティを連れて登って来るのに一苦労した。
そこにエナメルバッグをおくと、とりあえず持って来た荷物を整理する事にした。エナメルバッグの中に入れている物は、アリエルに一応持たされた野営セットだった。
「火は、起こせる?」
ケティに一応聞いてみた。
「……うぐ、ひっぐ」
「泣くなああああああ!」
もちろん火を起こす代用品はある。何しろ、剣と魔法の世界だ。現代で言うライターの代わりになる様な便利な物が入っているはずだ。一応ランプも入っていたが、お目当ての物は、エナメルバッグの片隅にある巻物の様な物。
火起こしのスクロール。
【お主がつかえるかわからんが、使ったらその分経費から差し引くからの?】
とかいう、くだらんメモ書きは火がついたら燃やしてやる事にする。
「い、今から何をするんでしょうか」
ゴク、と息を呑む音が聞こえて、ケティが恐る恐る尋ねて来た。
「汚物は消毒だ。ってことで今から山火事を起こします」
「や、山火事ですか!」
一応ここは見晴らしが良い。すごく遠くに見える町が一望できた。ってか、ここにもしゴブリンの上位種とか現れたらとんでもないんじゃないか。近くの町が一望できるこの位置に何か建てられると、攻め入れられたりしかねないんじゃ……。
そう言う訳で、とりあえず今ある手段を活用すると山火事起こして後は風の様に逃げ去る。現代知識も糞も無い最も古典的な方法をとらざるを得なかったのである。
「いいか、ここに来るまでの道は、発見した冒険者が作った偵察用のくねくねした獣道だったろ」
「はい」
「でだ、すごく遠くに町が見えるだろ。あの位置を覚えておけよ」
「はい」
すっかりイエスマンに成ってしまったケティ。
でも心の中で、あれ、冒険者ってもっと颯爽に魔物を倒すお仕事なのでは、と思っていそうにクビをかしげていた。
残念ですが、冒険家ではありません。
人がやらない所を無理矢理やらされる異世界派遣会社です。
上司は悪魔です。
幼女の姿をした何かです。
「いいかケティ、君は一応女の子なんだ。そして召喚魔法もスライムしか出せないか弱い女の子。そんな女の子がゴブリンに捕まったりしたらどうなると思う?」
「ひええ、もしかしてあの不衛生は洞穴の中に連れて行かれて、大量のゴブリン達に汚い手でもみくちゃにされて、それでいて、汚物を色々な場所に……わ、私の純血が、ま、まだなのに!」
「お、おう」
別に脅すつもりは無かったのだが、勝手に一人で震え始めた。このくらいビビっとけば、もし凶悪なゴブリンが本性を現したとしても、死ぬ気で逃げるだろう。本当に死に直面した人間の逃げ足って早いんだぞ。
たった一つのミスで加工ラインを止めて、その場にワラワラ人が集まってくるならダッシュで逃げ去っていった田中君の足の速さ。アレは鬼気迫るものがあった。
「は、早く逃げましょう」
「落ち着け田中まずは火を起こすんだ。幸いにも入り口付近のガキゴブリンしか居ないみたいだし」
大人だと思われるゴブリンは未だ姿を見せない。外でギャッギャと可愛くない声を上げながら遊ぶ子ゴブリンのみである。
「誰ですかタナカって」
「逃げ足の速い奴の事を俺の故郷では田中というのさ」
そんな事を言いながら、その途中で薪の代わりに成る古木や枝を拾いつつ、最初の位置に戻る為に丘を織り出した。
——さて。
スクロールの使い方は、ご丁寧にスクロールに記載されていた。
「最初に敷きます」
「はい、しきました。……次はどうするんですか?」
え、使った事無いのコイツ。火属性魔法使えない人の為にこういう便利道具ってあるんじゃないの。それをつつくと多分無くかもしれんので放っておく。
「次に上に燃えやすい物を置きます」
「枝とか古木ですね。あ、後どうしますか、トレントの赤ちゃんも拾って来ましたが——」
それは返して来なさい。
怒られたらどうするんですか。
とりあえず、ベビートレントはその辺の切り株に寝かせといて。
「そうしたら魔力を込めます。はい、俺は詰んだからお願いします先生」
「先生っていう響き、素敵ですね」
すると、パチパチパチと音をたてて、古木や枝に火の粉が上がる。一緒にスクロールも燃えてしまったが、コレは中々に便利だと思う。
そして、ケティに拾わせてる間に作っておいた、燃えそうな枯れ草を蔓で縛り付けたもの。枯れ草にはランプのオイルをしみ込ませてある。手拭いは何も持って無い俺からすれば貴重な財産なのだ。
火の保ちが良いかと言われれば多分一瞬で消えそうな予感がするが、最悪燃え広がれば良い。
「行くぞケティ、ファイヤーだファイヤー! 魔法を使ってる気分で燃やしまくれ!」
「はい! ゴミクズみたいな作戦ですけど、それもそれでアリだと思います!」
生木を燃やすとすげー煙が出る。どういう原理かは知らんけど、田舎で焚き火するジジイとババアが煙臭いのは、そのせいだとずっと思っていた。
「すごい煙です! これからどうしたらいいんですか?」
「煙はあんまり吸うなよ。風上に来い……見てろよ、丁度風で煙が洞窟の方にも」
派手に騒ぎだした俺達にビビって、外で遊んでいた子供ゴブリンは喚きながら洞窟の中へと逃げて行った。そして、煙は洞窟の中へと進んで行く。
「ふははは、中は煙で外は山火事。ゴブリン共はコレで終わりだ」
「うわぁ、えげつないですね。貴方本当に人間ですか? ゴキブリの魔族とかじゃないんですか?」
本当に調子がいい奴だと思う。
すぐ泣くくせに。
ともかく、これで一網打尽。そんで山火事の炎でこの臭い匂いもまとめて消臭。はは、現代チートの力ってのはざっとこんなもんよ。
——ドシン、ドシン。
はえ?
「あ、あの、この地響きは……?」
不安そうに俺のつなぎの袖を引っ張りながら、ケティがツインテールを少し揺らした。杖を握りしめる手が震えている。
「つかぬ事尋ねますけど、元学生さん」
ゴブリン上位種の発生条件ってなんですか?
ケティは、
「ある一定の集落、社会性を築いたゴブリンは、その中から一人の王を選定します。選定されたゴブリンは進化し、率いる様になる。と、教科書で読みましたが見た事無いです。でも過去には蠅の王と呼ばれたゴブリン・ロードも誕生したんだとか」
それはそれは、ご大層でヤバそうな名前だったりする。
彼女が説明してすぐ、洞窟の奥から巨大なゴブリンが姿を表した。
《我が子らを脅かすのは貴様らか、我が名は蛆の王-ウジキング-》
——安直だなおい。
でも、すごい強そうだった。
蛆の王を名乗る巨大なゴブリンは、ものすごい勢いで洞窟をとび出して来た。
ツイッター@tera_father