-5話- いきなり派遣?~ゴブリン系って誰もやらない糞仕事2~
「飯くらいは食わせてやるのじゃ」
そう言いながら連れて来られた場所は、ギルド内にある食堂だった。必死過ぎて腹の虫に気付かなかったが、休日含めるともう二日間も何も食べてなかった。
「ほれ、好きな物をえらべい」
珍しく気前の良いアリエル。彼女が席に座ると、近くに座っていたガチムチの冒険者達がみんな席を立つか、馬鹿話を止めて静かに飯を食べだした。
食堂のメニューは結構豊富にあるのだが、異世界素材のメニューなので一体何を食べたら良いのかわからなかった。
オーク生姜焼き定食、トントン角煮定食、トウギュウカルビ丼……あ、何となくわかるわ。
「おばちゃん、肉団子三つね」
「あるかたわけ!」
テーブルに突っ伏した幼女にツッコまれたので、大人しくオーク生姜焼き定食を注文した。オークのイメージが人型の魔物であるから、少し躊躇してしまったのだが、だいたいどこの異世界書籍でも、オークは意外と美味しい事が定番化している昨今。
きっと、美味しいはずである——、
そして美味しかった。ごちそうさまでした。
俺達の食事はマンガで例えるなら僅か三コマ程で終了した。最低限の四コマ漫画にすらなり得ない。そんなレベルでしょうも無い食事風景だったと思う。
「二十九歳のオッサンが子供の様に貪り食う姿。いささか見るに堪えないものじゃったの」
俺の食事風景をジッと見つめていたアリエルが言う。
「仕方ないだろ、二日も何も食べてなかったんだ。一日五食くわせろ」
「この世界は二食じゃ」
う、嘘だろ。一日一食の頃も生き存えて来た訳だし、特に気にする事でもなかった。自分で思ってて悲しい現実だった。腹が膨れたので良しとする。
「少ししたら今日の仕事じゃが……」
アリエルがそう言いかけた所で、俺達の会話に一人の少女が割って入った。
「ちょっと、貴方は一体何者ですか!? なんでアリエル様と一緒にお食事をしてるんですか? こ、こんな無精髭まみれのゴミクズでなんか平日昼下がりの公園で一日中ボーッとしてそうな奴が——アリエル様、説明してください」
初対面でこれ程罵倒されたのは初めてだった。いや、君の言ってる事は全て的を当ててるけど、公園の子供だってそこまで酷い事は言わない。ただこちらをじっと見てるだけだし。
自分と同じ様に桃色の髪をツインテールにした女性を見て、アリエルは心底面倒くさそうな顔をしてあしらう。
「なんじゃローライズか、帰って来とったんか」
名前を呼ばれた事に感激したローライズと呼ばれた少女。少女は俺に見せたゴミクズを見る様な目を一転させ、蘭々に輝く瞳をアリエルに向けて喋る。
「はい! アリエル様の一番弟子のケティ=ローライズ、ただいま修行の旅を終えてアリエル様の元へ戻りました!」
新卒社員の様な、ハキハキとした挨拶だった。新卒だったことは一度も無いのだが、多分そうだろう。周りの視線が集中するも、全く気にしてない様子なのが、俺と似てる部分を感じた。あくまで対極に位置する者として。
「うむ、ご苦労さん。もう下がってよいぞばいばい」
「え……」
流石にそれは酷いんじゃないだろうか、口には出さないけど。小動物の様に震えるケティの目には涙が溜まって行く。
「じゃ、またどこかでじゃな。おいゆくぞ」
「お、おう」
心の中では良いのかなと思いつつも、触らぬ神に祟りなしという事で俺はアリエルの後に続いて食堂を後にしようとする。
「ちょっと待ちなさい!!!」
嫌な予感が的中する。
当たり前の様に、彼女の矛先は俺の方を向いていた。
「貴方は一体なんなんですか!?」
「……恐れ多いゴミクズなので、どうかここは一つ見逃してください」
平身低頭に接したつもりだったのだが、逆効果だったようで彼女の逆鱗を逆なでする形になっていた。因に俺の後ろでアリエルは笑いを堪えている。
「貴方アリエル様のなんなんですか、ゴミクズですか、カスですか、雰囲気的に凄くゴキブリに近いと思うんですけど?」
「いやゴキブリは——」
「黙ってください、貴方は羽を毟られた羽虫の中でもさらに手足を捥がれた様な存在なのを自覚してるんですか?」
俺、この女嫌い。二十九歳にもなって、上辺で接するのも嫌になる程の逸材に出会えた。
何を言い返してやろうか考えていると、アリエルがにやっと笑いながら間を割って歩いて来た。
「なんじゃいローライズ、お前は食後の一服もさせてくれんのか?」
幼女が人睨みすると、この女はシュンと縮こまる。
そしてアリエルは少しの間をおくと、ぽんと手を叩いて言った。
「よし、なんか面白そうじゃし、ケティ=ローライズよ、お主も今日から派遣社員じゃ」
俺は頭を抱えた。この幼女、本当に読めない。
マジで災難を運んでくる天災以外の何者でもない。
ツインテール教信者1でました。
ツイッター@tera_father