-3話- いきなり派遣?〜荷物運びは簡単じゃないお仕事です3〜
本日は後一回更新。
処女作のVRMMOテラ神父もよろしくお願いします。
「ヤバイな! ”下からドン”が着たぞ!!」
トロルの上から周りを眺めていたレンが飛び降りながらそう言っていた。彼女の視線の方向を眺めると、立派な角を持った巨大なヤギが、目を真っ赤に興奮させてこちらを見ていた。
《ダズゲデエエエエエエ!!!》
トロル! お前もうるせぇ!
白目を向いて喚き続けるトロル。こんなのが本当にレアモンスターなのだろうか。俺には文字通り喚き続けるモンスターペアレントにしか見えないんだが。
「シマさん! シマさんはトロルの上に登って避難しててください、早く!」
「いや、お前ら自分の言ってた事覚えてんの? トロルいると湧くんだろあのヤギ。だったらトロル狙ってんじゃん、絶対向こうの岩陰に行ってた方が良いじゃん」
ジョンが必死の形相で俺の背中を押す。
「さぁ早く!!」
「話聞いてんのかてめー! トロル狙ってるっつってんだろあのヤギ!!」
抵抗する俺にミルンが、
「いいえ! アンタは私達が必ず守るわ……、命にかけてもね」
「小便中に炎撃って来た奴に言われたくねーよ! このクソビッ——」
《アヅア”アアァァァアア!!》
火が飛んできた。
止めてトロルが!!!
見るに耐えんので、大人しく登って待っている事にした。その時、レンが凄く何か言いたげな顔をしていたが、これ以上話しが拗れてもどうしようもないので無視。
「くっ、トロ——いやシマさんはやらせないぞこの魔物め!!」とジョン。
「そうよレアな魔石——じゃなかったわ。預かったポーターをみすみす死なせる程、落ちぶれていないわ!」とミルン。
「ええと、とにかく二人と同じ気持ち!!」今回も出遅れたレン。
三人は三角の陣形を取る。どうやら巨大ヤギの突撃をジョンが鎧で受け止めて、その隙に残りの二人がヤギの横っ腹に全力で攻撃を当てるつもりらしい。
あの巨大ヤギ、どう考えてもぱっと見ジョンの三倍くらいあるんだけど。頑丈そうな鎧を付けているとしても、ジョンはどちらかと言うと、ガチムチ勢ではないスピートタイプの様に見える。そのくらいギルドに居た冒険家の中でも細いのだ。
「大丈夫! 僕にはパワーブーストってスキルがあるんです!」
誰も聞いてないんだけど。
「まだ余り使いこなせないですけど、力は1.5倍に増すんです! ——来たな魔物! パワーブースト!」
淡く光るジョン。
猛然と突撃するヤギの魔物。文字通り、下から抉り込む様な一撃だった。柔道で言う内股、その鋭い角度の突き上げにタマひゅんした。
「……だよな。絶対1.5倍じゃ足りないだろ」
彼はそのまま突き上げられて気を失ってしまった。
「く、仇は取るわよ! ——ファイヤアロー!」
「た、ただの矢!!」
魔法の詠唱にわざわざあわせなくていいのに。
そして当然ながら、——二人も蹴散らされる。
「おい!! どうすんだよこれ!!!!」
器用な事に、三人揃って川の字に伸びている。そんな様子を尻目に、巨大なヤギの魔物である”下からドン”は、人面岩石モンスターであるトロルを木っ端微塵にせんと、スピードを増す。
「ちくしょー! 荷物持ちが武器なんて持ってるわけねーだろ!」
俺はバックに入っていた魔石を投げつける。意外な事に、コントロールは悪いが数打ちゃ当たる、そこそこ固く重たい魔石が顔にヒットするとヤギも少し怯んでスピードを落としてくれた。
「や、やめてよ報酬が減る……んーむにゃむにゃ」
このクソビッチ!
金の事しか考えてないのかこの馬鹿共。
命が惜しいが、荷物持ちとして仕事を任されている以上、彼等の報酬源になるこの大量の魔石を無闇矢鱈に投げ捨てる事など到底できなかった。
——足下のトロルに、さらに下から鋭い突きが襲いかかる。
——すると、心に声が響いて来た。
“俺を心配してくれたのは、お前だけだぜ”
トロルゥゥゥ———————!!!
トロルは砕け散った。
ヤギの化物は、次の標的を俺に定めて再び抉り込む様なアッパーカットを決めるべく、しゃがみ込んで力を溜めている。岩の魔物を一撃で粉砕する角だ。
「起きろよ三バカ! くっそぉおおお! 異世界転移初日でジ・エンドとか」
トロルと一緒に救い上げられた俺は、
どうする事も出来ず重力に任せて落下して行く。
走馬灯が見えた。
派遣切りにあって、ろくな仕事も探せず住所不定無職になって、やっとの思いで仕事を見つけたと思ったら変な幼女に騙されて異世界連れて来られて、挙げ句の果てには最初の仕事で魔物にぶっ飛ばされて殺される。
角が腹に突き刺さった。
——そしてヤギの角が折れた。
「いってえええええええええ!!!」
同時にヤギの悲鳴も聞こえる。
ってかヤバイそれどころじゃない、内臓破裂したかもしれん。いや、実際には破裂した事なんて無いし、人生で大怪我した事なんて派遣先の新年会の黒歴史でしか無いんだけど、この痛みはヤバかった。
ほとんど痙攣に近い動きを行う腹筋をラマーズ法ばりの呼吸を使い、何とか抑えようとする。
《ひっひっふぅうう! ひっひっふぅううう!》
俺の様子を見たヤギが、ラマーズ法真似しだした。
畜生、どこまでも人を馬鹿にしやがってこの世界。
とにかく、今の内に逃げなければ。命は惜しい、奴の武器である角が粉々に圧し折れてダメージを負ってるうちに、俺は急いで寝転んだ三人の元へ向かう。
「……す、すいません。危険な目にあわせてしまって」
良いから早く起きろよ。力のあるジョンを先に起こすと、それぞれ伸びてる女子二人を叩き起こす。
「……お前はそのまま寝とけ」
「起きてるわよ!」
クソビッチ魔法使いは元気だった。良かった。
ジョンの方も、頭を抑えたレンを抱えて元来た道を下ろうとする。
「ちょっとまって、トロルの魔石! 無傷で残ってるわ!」
捨てとけよそんなもの。
この所業には、ジョンもレンも有り得ないと言った風に目を見開いていた。トロルの巨大な魔石が、この巨大なヤギの魔物”下からドン”を誘き寄せる事にまだ気付いてないのか。
ああ、たった理解したぞ、この女思考するよりも先にファイヤー撃ってるから、頭がてんで成長してないんだ。きっとそうに違い無い。
「ああ!? あいつ角が無い、なるほどメスか! ならビラビラマn——」
「ちょっと流石に黙った方が良いよレン。あとミルンも早く逃げて」
ナイスだ。
そろそろツッコミ役が足りないと思っていたんだ。
相変わらずドでかいヤギの図体が、一直線にミルンに襲いかかる。
目紛しく変わりゆく状況の中で、俺の身体は咄嗟に動いていた。
「例えクソビッチでも目の前でやられそうになるのを見過ごせるか!」
過去が住所不定無職だったとしても、魔法使いにリーチ一発チャンスだったとしても、いつだか忘れたけど親父に言われた……その、なんだっけ。とにかく、そういう色々を捨てちゃいなかった。
「次元超越した派遣社員なめんじゃねえええー!」
ほぼ横割りする様な形で、俺の拳がヤギの横っ面にクリーンヒットする。
その瞬間、
横から——、ボンッ!
ヤギの身体がバラバラになって弾け飛んだ。
「「え?」」
ミルンと俺の声が重なった。
そしてミルンは言う。
「あ、あなた……何者よ」
「ふ、俺か? ……俺はしがない派遣社ウィン……ぁっ」
噛んでもうた。
ツイッター@tera_father
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