-2話- いきなり派遣?~荷物運びは簡単じゃないお仕事です2~
本日は三回更新。
春眠暁を覚えずと言いますが、住所不定無職だったわたくしめは、夕方まで寝てしまうと大体近所のガキにいたずらされてしまいます。ネカフェに避難しても、隣の人から臭いと言われて追い出される事もしばしばです。
ああ、こんな星の元に生まれてしまった自分の出自を呪いたい。
夢ですよね。夢であって欲しいんですが、今目覚めて公園のノラ犬に小便をかけられていたとしても、全て許容する。全力で犬許すし、神認定して崇拝してやるから頼む、起こせ。
——残念ながら現実です。
夢じゃない、夢じゃなかった。
「うごごごごご!! 助けてト○ロー!」
「ちょっと邪魔! しゃがんでなさいよ、——ファイヤアロー!」
頭を抱えてうずくまる。
こんな断崖絶壁なんて聞いてないんだけど。
荷物運びって事は、所詮採取依頼だろうが、森の奥から少し手前あたりでお花でもつんで、ちょっとこちらへ遊びに来たゴブリンとかコボルトとか雑魚っぱな魔物と文字通り大人の遊びを教えてやる仕事じゃないのか。
「お、すごいねシマさん。私より先にトロル見つけるなんて」
「ト○ロだボケー!!」
あんなゴツゴツした顔デカゴーレムみたいなやつじゃねーよ。
パーティメンバーのレンは、飄々とした様子で岩壁を駆け上がって行く。彼女は《鷹の目》というスキルを持っているんだとか。
エルフではなくハーフエルフという種族らしく、固有の精霊魔法が使えない代わりに、人間という丈夫な身体を得て、森の狩り人と言ったら判りやすいのだろうか。弓を使う。
「大手柄ね! トロルの魔石は純度がすごくて高値で売れるのよ」
岩肌を闊歩するヤギのような魔物を火属性魔法で蹴散らしていたミルンも崖をよじ登って行く。全くたくましいものだった。
俺は道を譲ると、彼女のケツを眺めながら後に続いて登り始めた。ヤギの魔物から取れた魔石がエナメルバッグに大量に詰め込まれていて肩に食い込むのだが、鉄の塊を三年間運び続けた俺からすれば軽いもんさ。
「トロルは、別名崖の人と、呼ぶのさ、意志を持たない、ゴーレムと違って、発生がレアな分、その魔石は、かなりの純度を誇っていて、——はぁはぁ、ちょ、ちょっと待ってくれるかい?」
「あ、うん。無理しなくて良いよ」
頑強な鎧を付けて岩壁を這い上がってくるジョンは、息も絶え絶えといった様子。このEランクパーティ”明くる日の朝焼け”は、魔法使いミルンがチームの火力役。いわゆる鉾である。
そして、ハーフエルフであるレンがチームの索敵を行う目の役目。鎧を身に着けたジョンは、盾役と言ったところ。うむ、バランスの良いチームだ。崖を登れないジョンの手を引いてやりながらそう思った。
「ありがとう、いや本当にシマさんはすごいね。普通それだけの荷物を抱えたまま、この岩壁を進むのって不可能だと思うよ。いやぁポーター手配してもらってよかった」
俺は中々の働きをしているらしい。そう言ってもらえると、社畜精神がもっと仕事を寄越せと語りかけて来る様だった。褒められて伸びるタイプなの。
「前の工場長は怒鳴ってばっかりだったから」
「は? え?」
「いや何でも無い」
辛い日々の思い出が口に出てしまっていた様だった。そんな事よりもと、先に行ってしまった女性二人を見据えながら俺はジョンに聞いた。
「いつもあんな感じなのあいつら」
「ハハ、まぁそうですね」
ジョンが苦笑いしながら返す。正直言って、このパーティの良心はジョンだけだ。ここまで付き合って、いかに彼が苦労しているのかがよくわかった。
——まず魔法使い女子。
魔物がいればどこでも火属性魔法をぶっ放すクソビッチだった。俺達が近くにいてもおかまい無しに燃やしまくる。
小便してる時に正面の木の傍にファイヤーアローを飛ばされた時は、本気で呪う事を考えた。いくらコボルトが近寄ってたって、一言いってくれればいいのに。
”汚いものブラブラさせて走り回られても困るわ。まぁたとえ燃え移ったとしても加熱消毒できてよかったじゃない”
——だとよ。
パーティを組んだ当初はジョンもやられたらしい。
そして意外な事に、天然だったハーフエルフのレン。お前人の常識通じてんのかよってくらい、狩り対象がいたら問答無用で仕留めてくるタイプだった。
”ねぇねぇシマさん、そこに鳥がいたんだけどさ、これ見てよ”
脳天に矢が命中して絶命した鳥を見せびらかされても、「あ、うん……、すごいね」くらいしか言えんだろう。
ぶっちゃけ日本でそれやったら捕まるか、精神病院送りになるのが落ちだ。因にこれ、かなりソフトにした表現だけど、本来であれば目とか脳とか……ぉぇ。
「でもですね、ここまでランクを上げられたのは、彼女達のお陰なんです」
いいやつだなジョン。
涙ちょちょぎれそうだぜ、お前は事なかれ主義かもしれんけどな。
「逆に、他の所だったら即クビになってるだろうよ。絶対にそう——うぉっ!」
愚痴を言っているとファイヤアローが飛んできた。
「こらー! そんなところで油売ってないで、早く来なさいよー! 特に荷物持ち早くガラドンの魔石拾って来なさい!」
「うるせー! いきなり炎飛ばすんじゃねえこのクソビッチーーーー!!」
そう言うと雨あられの様に火の矢が降り注いだ。来い来い言う割に先に進ませる気ゼロだろこれ。それでも燃えなかったエナメルバッグさんがすごい。
「ジョンも急ぐんだ。早くしなければ、奴が現れてしまう」
顔デカ岩石、もといトロルの上に乗ったレンが、遠くを見渡しながら心配そうに言っていた。と、言うかこのヤギ達はガラドンっていう名前なのか。
ってことは——、
「おいおい何だ? トロルを放置していると上位種のガラガ○ドンでも出てくるって言うのか?」
俺の言葉にミルンが噛み付いてくる。
「なに? アンタの地元じゃそんな名前で呼んでるの? こっちじゃ”下からドン”って呼ぶのよ? 覚えておきなさい」
「下から突き上げる様に”ドンッ”ってする魔物ですからね」と、ジョンが補足する。
お、おい何かがおかしいぞこの世界。なんでガラドンの上位種が下ドンなんだよ。
「因に下ドンは雄で、メスは壁ドンだ。角が無い分固くなった頭蓋骨で”ドンッ”ってするのだから」
「いやその、ガラドンなんだから。ガラ増やしちまえば良いだろ? なんか俺しっくり来ないんだけど。別の単語のイメージ強過ぎてしっくり来ないんだけど」
そう口走っているとミルンが、
「何言ってるの? ガラガラガラガ○ドン? ——言いにくいわね噛んじゃうわよ」
一個多いんだけど。
そして悪のりする様にジョンが、
「ならメスはガラガラガラガ○ドンドン?」
ああもうガラガラドンドンうるせーんだよ!
そこへ天然のレンが、
「何言ってるんだジョン。メスならビラビラビラビラマンマ——」
「おいいいいいい!!! もううるせえええええ!!!」
叫び声に反応する様に、地面が揺れた。そしてトロルの何かを訴える様な叫び声が響く。
——まるで、お前らちゃんとしろよと叱咤している様に感じた。
と、言うよりも。
《オヴィイイイイ!!! ボゲェェエエエ!!! ジャンドジロォォォオオ!!!》
トロルがツッコミ入れてる件について。
お、俺は一体、どう対処したら良いんだ。
「ヤバイな! ”下からドン”が着たぞ!!」
トロルの上から周りを眺めていたレンが飛び降りながらそう言っていた。彼女の視線の方向を眺めると、立派な角を持った巨大なヤギが、目を真っ赤に興奮させてこちらを見ていた。
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