-23話- みんなで派遣?~魔物の暴動は、流石に一人じゃ無理6~
後二回で完結。一章が。
「お前らとりあえず避難してろよ!」
猛然と迫り来る赤いオーク。眉間には相当な皺をため、その鋭い目つきはかなりキレていることが伝わってくる。
横薙ぎの一撃を、左手で受けきる。
このレベルまで進化した魔物の膂力はかなり強かった。
最初に見たゴブリンも、同じ様な強さだったと思う。
いやこのオークはそれ以上かもしれない。
俺達を中心に大きな衝撃が風となって広がって行く。
森がざわざわと音を鳴らしていた。
「いけーいけー」とケティ。
「ふれーふれー」とうつ伏せに倒れたミスチェ。
シンディは、
「そにっくぶーん! そにっくぶーん!」
と槍を一生懸命振っていた。
《どうしたせっかく応援を受けているというのに、力が弱まっているぞ!》
「——おぐっ!?」
右脇腹に大きな衝撃が走って、俺は木を二〜三本折りながらぶっ飛ばされた。
くそ、肋が折れたくらいの表現を使いやがれってんだ。
まぁ折れないけど。
《ぐはは、死んだな。おい、貴様らの雄は死んだぞ?》
オークは口から涎を垂らしながら、凶悪な顔で笑い、集まった三人に近づいて行く。
身構えるケティ達。ツインテールが震えている。
「おのれ! 覇王の魂を受け継ぎ特殊な格闘技を操る我が夫をおおおおおお!!!」
シンディが、曲がった槍を掲げて走った。
《なんだそれは、何がしたい》
わかる、気持ちはわかるぞオーク。
でもトロくさいけど彼女なりにすごく頑張って走ってるんだ。
「食らえ! 天より威でし雷鳴の剣! ——ライトニングランサアアア……ぁっ」
彼女は自分の片足に引っ掛かって転んだ。
なんて不憫だ。
右足が左足に絡まるなんて、生まれたての草食動物でもまず無いぞ。
《ぐあああああああああ!!!!》
——奇跡が起こった。
転んで勢いがついた槍、の丁度曲がった部分が、オークの右目に直撃したのだ。
「や、やった! 初めて必殺技が成功した!」
喜ぶのも束の間。
オークの逆鱗に大きく触れてしまったシンディに、強烈な一撃が襲い来る。
「ぐあっ!」
「「シンディ!」」
鎧が大きくへこんでいた。そして大きく身体を圧迫しているようで、彼女はうめき声を上げている。
ケティとミスチェが心配そうに駆け寄って行く。
《邪魔だ雑魚共》
「許しません! ベビちゃん! お願いします!」
蔓がオークに伸びて行くが、すぐに千切られてしまった。
《はっは、トレントなんぞ恐るるに足らんわ!》
「な……ぁ……」
頼って来たベビートレントの力すら届かなかった。
ケティの身体が恐怖で震えていた、だが、目にはまだ光が宿っている。
《強い女だ。俺様と共に空へ行かぬか?》
「誰が、私は派遣の中では最弱、ただの落ちこぼれ召喚師ですが……、まだ彼が居ます」
そう言ってにやりと笑う。
俺の出番だな。
「遅かったじゃないですか!」
「すまん、スカイフィッシュ狩ってた」
そう言いながら俺はつなぎについた汚れを払いながら、赤いオークの前に姿を表した。
「スカイフィッシュ……?」
とケティは首を捻る。
「ああ、これだよこれ」
そう言いながら俺は握りしめた細長いヒラヒラが付いた透明な生物を見せた。
悲鳴を上げるケティ。
《……貴様、いつ気付いた?》
「しいて言えば、異変に気付いたのは最初。完全に謎が解けたのはぶん殴られてから」
手に集まる何かを視認した所までは良かったが、それがなんなのかはわからなかった。
だが、最初の一撃の時、衝撃と共に身体を駆け抜けた風にブーンの何か羽音のようなものが聞こえた。
ぶっ飛ばされてから、意味不明に俺の身体を吹き飛ばし続ける”ソレ”を手に掴んでから納得いった。
大量のスカイフィッシュが俺の身体を一生懸命押していた。
《少しばかり身体能力に自信があるようだが……、俺様の天界力はこの空全てから吸収できる》
こいつ、スカイフィッシュ如きに天界力とかご大層な名前を付けてやがる。
まぁ……、俺も似た様なもんか。
こいつのスカイフィッシュはかなり強い、ソレこそ、本気を出せばウォーターカッターのようにかなりの質量と圧力で色んなものを切断してしまえる。
特別仕様の身体じゃなかったら上半身と下半身がグッバイしてた。
《ふん! 食らえ!!》
「残念だが……、喝!!!」
ぶわっ、と紅いオークの髭が揺れた。
異世界チートその二、気合い。
魔力がどうこうは、まだ誰にも習ってないのでわからんけど、力の入れ具合によって、生まれる衝撃が違うことがわかった。
いつだか、ゴブリンキングとの戦い。
トレント達の蔓の脅威がこっちに向かないように必死だった。
アリエルの激怒を有耶無耶にしたくてとにかく必死だった。
ソレくらい必死だった結果、丘と周辺の森一帯が消し飛んだ。
《な……、何が一体……!?》
いきなりの出来事に口をぱくぱくとさせるオーク。
「沢山集まって結束されたら流石にきついけど、操る前のバラバラの状態ならただの丈夫な早い虫でしかないしな」
高速でバイクを走らせてると、フルフェイスのヘルメットにカナブンが打つかって来る時がある。
それと変わらん。
《ぐ……、俺様は空を諦めんぞ……、俺様こそがあの空に一番近い者だ!!》
オークは大きく手を空にかざすと、スカイフィッシュを集め始めた。
無からスカイフィッシュを生み出す能力なのか、それとも本当にこの世界にはスカイフィッシュが一杯居るのかわからないが……、
「そんなに空がお望みなら行かせてやるよ!」
オークに接近すると、その巨体を大きく蹴り上げた。
太々しいゴム毬みたいな身体が大きく空中に飛び上がった。
《ぐあああああ!!!!》
夢見るのも良いが、大概にしろ。
地に足つけて、生きてるんだろ。
後先何も考えず、俺は遥か上空のオークに向けて飛び上がっていた。
飛び上がった箇所は、地面に大きく地割れが出来てへこんでいた。
「よぉ、空はどうだい?」
《……限りなく広く自由だ、心地よい》
そう言いながら紅いオークは、服で壁を作ってタバコに火をつけた。
そして、吐きながら言った。
《だが、広過ぎる。これは、俺様には無理だ》
人は、地に足付けて生きて行くだけでも精一杯だ。
雑草みたいにしぶとく根を張って生きて行く。
それが出来てやっと一人前なのに、なかなか難しい。
「下を見てみろ」
《小さいな》
「お前も一緒だ、地上で生まれたんだからな」
オークは綺麗な目をしていた。
付き物が取れた様な目を。
《お前は不思議だ。何故だかずっと話していたい……、だが、俺様は魔物だ。……やれ》
オークは太陽が眩しいからこれだけはやらんぞ。
といってタバコとライターを投げ渡した。
「ま、俺も地上のブタと、変わらん扱いされて生きて来たしな。少なくとも人を恨む気持ちは持って無いが、自分を恨む気持ちは誰よりも強いさ」
右手を振りかぶって、大きく振った。
《さらばだ》
それだけ言って、紅のオークは消滅した。
「お疲れ様です、かっこうよかったです、見直しました」
「お疲れさま、猫人族より高く跳べるなんてすごいのね」
「流石我が夫、覇王の意志を受け継ぐ天空王」
三人が滅多に見せない良い印象の感想を口々にもらして集まって来たが、俺は黙ってタバコを口にくわえると、火をつけた。
初めて吸うけど、悪くない。
そう思った。




