-22話- みんなで派遣?~魔物の暴動は、流石に一人じゃ無理5~
森の中を闊歩するゴブリン、オーク、オーガの軍勢。
丁度、遠くに町が見える丘の上に一人の王冠を付けたオークが居た。
《ぐはははは!!》
そのオークは高らかに笑いながら、更新する軍勢を見ながら言う。
《いいぞ、このままあの最果ての町を拠点に、俺様の軍は更なる高みを目指す!》
サングラスにチョビ髭がよく似合うそのオークは、たまたま襲った冒険家から手に入れたタバコに火をつけて一息つく。
長く眠っていた様だった。
狩るもの狩られるものの中でも下の方に居たオーク族が、ここまでの進化を遂げる事が出来たのは偶然だった。
森を支配していたあの巨大な蛇共が消えて。
残っていたゴブリン、オーク、オーガでの覇権争いが森の奥で密かに行われていた。
《飛べないオークは、ただのオークだ》
俺は飛ぶ。
自我が芽生えて初めて見たものは、満身創痍で仰向けに倒れた状態で、眼前に大きく広がっていた空だった。
そこから俺様の野望はスタートした。
この溢れる様な力と、新しく進化を経て得た固有能力。
空を自由に操る力とも言える。
この力が在れば、強い力を持つオーガでさえ、従える事が出来た。
《ゴブリンの繁殖力は使えるな、一時期ゴブリンの王も生まれていたらしいが、何の因果か俺様が生まれる前に消えてしまったと聞く》
実に運がよかった。
後は隠れて森の中を進み、冒険者達に奇襲をかけるだけだ。
《武器は奪え、命も奪え、仲間を増やせ、そして塔を建てろ!!!》
その塔の頂点に、空高くそびえるが建設されたあかつきには……。
空の王、ポルコオークと名乗りを上げよう。
《ぐははは進軍進軍!》
行くぞ空へ、その前にまずは地上を統べる。
人間共の技術を使い、俺様は必ず空へ行くのだ。
—
「来たぞ、……多いな」
冒険者の一人がつばを飲んで言った。
弱気の一言で周りがざわついて行く。
「森の入り口に見えているだけでも、かなりのもんだ」
「オーガストさん……、指揮が」
オーガストは頷いた。
そして言い放つ。
「おい、最果ての荒くれ共! 俺の声が聞こえるか!?」
皆の視線が集中した。
エルゴッドは一番戦闘に立って目を瞑りながら、深く瞑想をしながらオーガストの声に耳を傾けている。
「敵はゴブリン、オーク、オーガが寄り集まった千の軍だ。掻き集められたひよっこには、些か強烈な光景だろうがよ……、それがどうしたってんだ!」
手を握りしめ、力こぶを作る。
オーガストの太い二の腕には大きな傷が入っている。
「いいか、これはチャンスだ。ここで負った傷なら、俺達冒険家に取っちゃ箔になる! 恐れんじゃねぇ! 生き残るってことも考えんなよ! 逃げたら負けだ! 俺らが普段狩ってる雑魚共が、集団つくって仕返しに来てるってだけだぜ!!」
そしてオーガストは息を目一杯吸うと高らかに叫んだ。
「舐めたことしやがる奴には、——千倍にして返してやれ!!!!!!」
うおおおおおお、と人の雄叫びが鳴り響く。それは森から進軍してくる魔物達よりもずっとずっと大きく空に鳴り響いた。
一匹の気弱なゴブリンが、冒険者の気合いに当てられて持っていた錆びれた武器を落とした。
——小石に当たった金属音がスッと広がる。
「……時は来た。開戦だ」
その音で、エルゴッドの目が見開かれる。
その音で、冒険者が武器を構える。
魔物の声が聞こえた。
森から初めの隊列が数十体躍り出て、思い思いに武器を掲げて突進する。
「僕の後に……、続け! 勇者の戦友達よ!!!!」
エルゴッドを先頭に、駆け出した冒険者達。
冒険者の集団は、一面に広がる壁の様な魔物の大群に対して、突き刺さる槍の様な三角の陣形で、文字通り突っ込んで行った。
—
第一印象は、なんだあのブタ。
小高くなった丘の上に真っ赤なオークが一人佇んで叫び声を上げていたのである。
《ぐはははは! 飛べないオークは、ただのオークだ》
はい、アウト。
いい加減にしろ、怒られるぞ。
「たぶん今回のスタンピードを巻き起こした張本人だと思います。あの紅い皮膚は、普通のオークでは有り得ません。何らかの進化を重ねたと思われます」
「……進化したら、サングラスとかチョビ髭とかタバコとか付属オプションついてくんの?」
「チョビ髭なら有り得ないことも無いですが……、たぶん襲った冒険者から奪ったんじゃないでしょうか? 許せませんね」
放送コードがある意味ギリギリな紅色のオークを見て、俺はやる気が少し下がった。
丁度魔物のほとんどが進軍してしまって、遠くで打つかり合うけたたましい音が聞こえて来た。どうやら戦いは既に始まっているのか。
「よし、ならここは私が雷の斬撃、——ライオットゴロゴロピカドンで鉄槌を……」
「いや、お前叫びながらつっこむからダメだ。座ってろ」
自分でもかなり冷たい声が出たと思う。
シンディは曲がった槍を構えて今にも飛び出しそうな雰囲気だったが、俺の一言でシュンと落ち込んで、後ろにある木の根元にしゃがんで顔を伏せて体操座りしてしまった。
いじいじと地面に指で字を書いている。
馬鹿は放っといて、俺はミスチェに話しかける。
「よし、ニャ閃光許可する、フルパワーでいけ」
「……まじ?」
「マジだ。安心しろ、帰りは引きずって帰るから」
「そこはお姫様抱っことかしてよね!?」
「なに、姫は私の特権——「黙ってろ!!!」
俺の様子を見たケティは「流石に怒鳴るのはいかがなものかと」と口にしていたが、知らん。
事態が大きく転がってしまう前に片を付けると、そう決めたんだ。
「……しょうがないなぁ、アンタ今度なんか一つ言うこと聞きなさいよ」
そう言いながら、ミスチェは腕をクロスさせて力を貯める。
そして大きく両腕を上に掲げると両手に光が宿っていた。
くそぉ俺もそういうのしてぇよ。
そう思いながら事態を見守る。
「ニャ閃光! 波————!!」
光の塊というより、エネルギーの塊が、大きく空気を揺らしながら、丘の上に立つオークに向かってポーヒーと音をたてて飛んでいく。
《!? な、なんだ!? ハァッッッ!!!》
寸でで気付いたオークは、大きく後ろに飛ぶと、迫り来るニャ閃光に向かって手をかざす。
その時、何かがオークの手の先に集まって行くのが見えた。
そして大きな爆発が起きる。
オークは若干焦げていたが、五体満足で立っていた。
「あ、後は頼んだニャ」
「そう言う時だけ猫要素出すのはやめろよ」
倒れたミスチェは、ケティが引きずって木の陰に休ませてあげる。
「ねぇちょっと、一応一番槍なのよ? これ食らって大丈夫なモンスターなんていないわ、私のお陰なのよちょっともっと優しくね?」
相手健在だよ。つかえねー。
《……誰だああああああ!!!》
激昂したオークは、俺達を発見すると、丘を飛び降りるように疾走して向かって来た。




