-18話- みんなで派遣?~魔物の暴動は、流石に一人じゃ無理~
明日も更新しまーす!
——縁の下の力持ち。とは美徳の限りである。だが、よく考えても見てほしい、そう言った甘い言葉に誘われて、進んで人が嫌なことをする人間がいるもんですか、あんまり居ない。
だが縁の下って、絶対に必要な物なのですね。
そう、高層ビルを建てるのだって地盤にデッカくて太い杭をしこたまうたなきゃいけないし、君、杭の気持ち考えた事ありますか?
この文章をアリエルに叩き付けてやりたいと思うこの頃。
お前杭の気持ちわかんのかって。
言わば派遣は杭。
いや、人柱。
もっと細かく言えば、鉄筋コンクリートを作る際のセメントに混ぜられる水みたいなもんです。
用途・状況に合わせて適量に使える。
セメント、砂、砂利といった必要な物じゃなくて、この世に限りなく溢れている水。
……余ったらドブにでも流せば良い。
これで上司が工場長だったら、異世界チート能力でぶっ飛ばしてた所ですが、今の上司はまだ水を大事に取って置くタイプのようで、居心地が悪くないです。
でも、怒らせるとマジて怖いとのことで敬具。
「うーん、人手が足らんし、わしは採用でいいんじゃけどな」
いつもの、あの場所で椅子に座ったアリエルが首を傾げている。部屋にはケティとベビートレントのいつものセットが一組。そして、その隣に二人、見知った顔が並んでいる。
「あたしは一応、アンタと依頼こなしてるからオールオッケーよね?」とスポブラとスパッツに身を包んだミスチェ。
「わ、私だって魔物を狩る時に一役買ったぞ!」とボコボコのフルプレートメイルを未だに着込んでいるシンディ。
ああ、魔法学校の制服を名残惜しく身に付けている中退女がまともに見えてくる不思議。
冒険家が鎧を日常的に身につけている異世界で、そんなこと考えても仕方ないのである。
「ダメだ。これ以上厄介ごとが増えても困る」
「それは一体どういう意味ですか?」
ケティのゴミを見るような視線が突き刺さった。
だがしかし、俺は平日は派遣の仕事して、休日は異世界チートで冒険者するって決めてるんだ。毎回毎回、厄介ごとを運んでくる奴らの子守りみたいなことさせられて、この会社にコンプライアンスは無いのか。
「ずずずずず」
「粗茶飲んでんじゃねぇ、俺は認めないからな!」
アリエルは、
「さて、主の上司は誰じゃ?」
出ました伝家の宝刀。
俺はテーブルの上に乗り上げて抵抗する。
「そうやってすぐ権力で押し付けてくる。人を恐怖で支配できると思ったら大間違いだぞ!」
「……契約書がある限り、そんなもの無用じゃ」
黒い魔法金庫を見ると、その箱は嘲笑うかのように自己主張しているように思えた。いつか絶対ぶっ壊して中身の契約書燃やしてやると心に誓う。
「年功序列で時給上げてやろうと思ったのにのう、残念ながらいつまで経っても平社員な事はかわりないのう……」
「すいませんでした!!!」
二十九歳になって、初めてテーブルの上で土下座した。
時給上がるんならなんでも構いません上司様。
ええ、ゴミムシでもチンカスでもゴキブリでも受け入れます。
「ま、検討しとくかの……で、今回の派遣先じゃがとある高貴なお方から直々に頼まれ事があってじゃな、とある貴族の館の警備補助をお願いできんかと」
付け加えるように、普段ならこういう依頼は、最低Cランクからの上の冒険者パーティに振り分けている、とアリエルは言っていた。
護衛依頼って言うのはそこそこ信頼度の高い冒険者パーティじゃないとなかなか成立しない。荒くれ者の比率が大きい業界だからである。
何故、そんなご大層なもんが隙間産業である派遣冒険者に回って来るのかというと、
「最近何やら魔物が活発に動きだしとってのう、腕利きのパーティらは全部深い生息域まで調査に向かわせとる……さて、なんでじゃかわかるか?」
「……知らん」
口をつぐむ俺にアリエルは「たわけもの」と呟いた。
ケティが手を挙げる、
「はいアリエル師匠、多分最近魔物が巣くう森の生態系が大きく変わってしまいましたので、それの影響もあると思います!」
「ご名答じゃ」
満点、と褒められたケティのツインテールがぴょこぴょこと跳ねていた。
それを見たミスチェが反応してうずうずしている。
「で、私は雇ってもらえるのか。正直実家に仕送りしないといけないので今すぐにでも働きたいのだが」
おい、設定崩壊してんぞ姫騎士とやら。
シンディは何やら込み合った事情があって面倒くさそうである。
「わしはギルマスの仕事があって忙しいからの、とりあえず雇用契約はこっちで処理しておくから言って来い」
「恩にきる」
あかん、コイツはあの悪魔幼女の術中に既に引っ掛かっている。
鬼の様な鬼畜契約をコイツは笑顔で結んでくる正真正銘の悪魔なんだぞ。
まぁ、面倒だから放置するけど。
そうして仲間が増えた。
なし崩し的に冒険者の復業がてら派遣入りしたミスチェは「アタシには契約書後でみせてよね」とちゃっかりアリエルに話しているのを見かけた。
あ、今舌打ちしたぞ幼女。
時給と言うものは、異世界では斬新でありがたいと思われているようだ。
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