表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に派遣されたお仕事です!  作者: tera
一章-捜索依頼編-
15/26

-14話- いきなり派遣?~派遣がやるのはだいたい損な仕事5~

れんぞくこうしんの舞!





 あの人型球根、何故かケティの言う事だけは大人しく聞き入れる。

 いいか、最初にお前を燃やそうとしたのは、あのヘッポコツインテールだぞ。


 と言いたいのだが……。

 お前もどうせケティの不憫さに同情して一緒に居てあげる事にしたんだろ?


 ——そうなんだろ?


「だったらこの蔓を放すように親達に言いやがれ、このエセマンドラゴラ!!」


 360度、全方向から蔓が伸びて巻き付いて行く。

 ガウガウ抵抗している虎にも伸びて行く。


 それは当たり前だと思うんだが、何故俺の足まで巻き込んで逆さ吊りにする必要があるんだ。


「あ、まだ自分の立場がわかってないんですね? ベビちゃん馬鹿にしてますよ、あの汚いゴミクズを縛り首にしてあげましょうねぇ、うふふふ」


「なんでそうなるんだよ!」


 喋る人型球根もとい、ベビートレントをマンドラゴラだと罵った瞬間、締め付ける力がより一層強くなった。ごごご、ごめんなさい!


 召喚契約結んでる魔物ゼロの召喚師の癖しやがって……。


 とっくの昔に、虎は縛り付けて力を失って元の小さな黒猫に戻っているというのに、絶大な力を身につけたケティの人格はすっかり変わってしまっているようだった。


「ねぇちょっと、アンタなんとかしなさいよ! 早くしないと……」


 一緒に吊るし上げられているミスティは、逆さ吊りの状態で黒猫に戻ったケットンを抱えながら、俺に抗議に声を上げる。


 しらんがな、抗議ならあのファッキンツインテールに言ってくれ。

 すると彼女の猫耳がピクピクと激しく動き始めた。


「言うのを忘れていたんだけれど……、ジャンボフロッグの血肉はとある魔物を呼び寄せるの」


 既にカオス状態になってるこの状況で、まだなんか登場人物増えるのか。これ以上登場人物が増えたらどうなると思う……まず派遣社員である俺が切られるだろが。


「うおおおお! トラウマが刺激するううう!」

「もうおわりね、アタシは耳がいいからわかるわ、ジャンボフロッグに釣られて呼び出された大蛇、ジャイアントスネークの数は、それはもうかなりの数よ!!!」


「ジャイ○ンとス○夫?」

「ジャイアントスネークよ!」


 蔓の他に這いずる音が響いて来た。

 と、トレントさん何とかして。


 お子様は、お子様はちゃんと面倒見ますんで!

 すると、願いが叶ったのか蔓がするすると元に戻って行った。


 そして誰かが倒れる音がした。

 ケティだった。


「申し訳ありません、魔力が切れました。あれ、この音なんですか? もしかしてヤバイ系ですか? お願いします助けてください、もう二度とゴミとかカスとか言いませんのでお願いします助けてください」


「ちょ、ちょっとアタシもあわよくば連れてってよね! ね? お願い一応仲間でしょ? なら放さないわよこの黒猫、だからアタシも黒猫と一緒に連れて行きなさいよバカ!!」


 な……、何なんだこの状況。

 揃いも揃ってカスばっかじゃねーか。


 こんな状況流石にライン工の派遣やってても陥ったこと無いぞ。

 派遣社員でもアルバイトでも、与えられた仕事はきっちりこなすぞ。


「うぐ、ひっく」

「こらぁ! あ、ああアタシも、ふぇ、たすけなしゃいよぉ! ひ〜ん」


 無視だ無視。


 ジャイアントスネークとか言う、いかにも異世界の森に全域には住んでますよとか思われる大蛇は、周りを取り囲む様にこちらを見ていた。


 流石に喋らないよなこいつら。


 どうやって切り抜けようか考えていると、彼等の後方で、王冠を付けたジャイアントスネークが瀕死の状況で伸びているのを見つけた。そのジャイアントスネークは、鱗の一部が黒焦げになっていて——、


「ただのお礼参りじゃねーかああああああ!!!!」


 怒りのフラストレーションを右腕に集中させる。


「よく見ておけよそこの猫耳小娘」

「ふにゃ?」


 衝撃に備えて、ケティとミスチェを俺の後ろへ避難させる。「ちょ、引っ張らないでください」とか「レディーは大事にしろ」とか、今後に及んでまだ贅沢なことを要求する彼女らには、過酷な条件かで、それも最前線で戦っている派遣社員の根性を叩き込まなきゃならない。


 “シマさん、お互い頑張りましょう”

 “ああ、どっちが先に正社員に上がるか勝負だ”


 田中と励まし合った記憶がよみがえる。あいつが居なくなっちまってから、俺の派遣社員ライフにはぽっかり穴が空いてしまったように感じるんだ。


 “おい、田中の部屋はお前が片付けとけ”

 “工場長……あいつ、きっと戻って来ますよ”


 田中が居なくなってから、俺の財布が紛失した。——でも俺は信じてたんだ。


 田中、きっと戻ってくるって……。

 絶対あいつは金返しにくるって……。


「例え騙されてもな、俺達派遣は仕事をこなさなきゃいけねーんだ。田中の分も」

「いや貴方、すぐサボ——」

「じゃかぁしいっ!!!」


 今良い所なんだよ。邪魔すんなよ、二十九歳でもカッコつけたい時とかあるじゃん。例えば今からこの絶望な状況を切り抜ける画期的な俺のチート能力。


 そう、地球でどれだけゴミクズだったとしても、地球人のポテンシャルと言う物は——、この世界で想像を絶する力を発揮するらしい。


「派遣社員の本気をなめんじゃねえええええええ!!!!!!」


 ——駆けた。

 もし現世に帰れるとするならば、田中よ。


「金、返しやがれええええええええええ!!!!!!」


 握りしめた拳を全力で、一心不乱に振り抜いた。


 ニャ閃光とかいう、マジュ○アをもろパクった様な技よりも、もっと巨大な空間がゴッソリと抜け落ちる。ジャイアントスネークはかなりの数が巻き込まれて消滅した。


 これが、最近わかった俺の能力である。

 二十九年を我武者らに生きた、派遣の拳。

 それは——、覇拳。








「……申し開きがあればいってみるのじゃ」


 いつもの会議室に集められた俺とケティとミスチェ。テーブルを挟んで正面に座るのは、おでこに血管を浮かび上がらせた悪魔ようじょ、じゃなかった幼女ありえるだった。


「…………。」


 何も言い返せなかった。


「たかが猫一匹捕まえるだけの依頼で、なんで森の一部が消し飛ぶのじゃ!」


 ごもっともです。

 でも、たかが猫ではなく、虎でしたよ。


「情状酌量のよちはないのか、みんな頑張ったんだ」


 頬をピクピクと震わせているアリエルに進言する。依頼が依頼なだけに、それぞれが自分の出来る限りの事をしたんだと。反省と称してあの蛸部屋に缶詰にされるより、何とかこの場でお通しどころを見極めた方が得策だろう。


 これが二十九歳派遣社員の器量である。

 お前ら、俺の事はこれから班長と呼べ。


「ゴミクズ……」

「チンカス……」


 こ、こいつらあああああ!

 どうなってもしらんぞ、この幼女怒らせるとヤバいぞ。


 見てみろあのツインテールを、えらいピクピクしているだろ。俺くらいの第一級ツインテールソムリエになればな、ツインテールのその日の調子で女の子のその日の気分がわかるようになるんだよ。


 ちなみにケティはツインテールが汗塗れ、相当焦っている。隣のミスチェは、部屋に飛び回る虫を興味津々に目で追っていた。こういう時だけ猫になりきろうとする魂胆か。


「ってかな、俺だって不満はあるんだぞ」

「なんじゃ? 契約内容に関しては受け付けんぞ?」


 アリエルは目配せする、その視線の先には金属でできた箱があった。鍵も何も付いてないその箱は、魔法金庫と言われる物で、アリエルの魔力でしか空かないようになっている。


 いくら何でも厳重にプロテクトされ過ぎ。

 そんなに信用無いのかな俺。


「あたり前じゃ、この間は山火事起こして、丘一つ消し飛ばして……、なんじゃ今回は森の一部を消し飛ばしおって、おまけに住み着いとるジャイアントスネークも森から出て行きおった。森の生態系が変わってしもうたからギルドの冒険家達からのクレームが多いんじゃぞ」


「不慮の事故って言うか、死にものぐるいで今まで生きて来たんだから仕方ないだろうが、何が派遣社員だ、前の暮らしより不自由だぞ。つーか前から言ってるだろ契約内容は今更かえなくても良いけどさ、寮とか二十部屋も入らないだろ」


 くそ狭い部屋が二十部屋も連なっている状況で、空き部屋は十八部屋。俺とケティしか入寮してない状況で、最悪壁ぶち抜いてでも広くしてやりたいくらいだ。


「こ、これから人を増やす予定なのじゃ!」

「ならなんでてめぇの事務所が十二畳にコタツとみかんとその他諸々のオプションが付いてんだよ!」


 因に、テレビ、ラジオ、その他インテリアまで、コイツの日本趣味の雑貨がワラワラ置いてある。

 今更思ったんだけど、召喚魔法の無駄遣い過ぎる。


「それとな」


 狼狽え始めたアリエルに、俺はあの時感じた違和感の正体を突きつける。


「おまえ、依頼書改ざんしてるだろ?」


 散々俺を罠にハメて、半分いや九割九分九厘、騙して異世界に連れて来たこの女が、依頼書の改ざんなんか悪びれも無くやってのけるに決まってる。


 どうせ、“冒険者ギルドの依頼調整の手段じゃよ”とか上手い言い訳でも考えて常套手段と化しているに決まってる。ギルマスなら簡単だろうしな。


「う、ぐ……、冒険者ギルドの依頼調整の手段じゃよ」


 図星だった。痛い所を突かれたアリエルのツインテールは大きく揺れていた。

 そして彼女は、


「もういい、お前の言いたい事はよくわかったのじゃ」


 そう言ってと立ち上がると、

 ドアを閉める直前に、


「いろいろすまんのじゃ、明日は休みとする。ハメを外すなよ」


 扉が静かに閉まる。

 無音の空間が、気まずい雰囲気を作っていた。


 ケティがぽつりと言った。


「あの、流石に言い過ぎだと思いますが……」

「ケティ、事態を重く受け止め過ぎだ。いいか……」


 明日は休みだ!

 よっしゃあああああ!!!


「あいつ、本当に心臓に毛でもはえてるんじゃないの?」

「……ゴミムシですから別の外骨格で覆われてるんじゃないかと」


 そんな二人の言葉を無視して俺は町へ繰り出した。


お読み頂きありがとうございます!

ツイッター@tera_father


処女作、テラ神父の方もよろしくおねがいします。

『Real Infinity Online』VR初心者ゲーマーがテラ神父

http://ncode.syosetu.com/n4162cj/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ