-13話- いきなり派遣?~派遣がやるのはだいたい損な仕事4~
「じゃ、こうしましょ。ケットンちゃんを探してくれた方に依頼料は払います」
仲良く三人で探して山分けしましょうには至らなかった。
マダムは上手い事を閃いたと言わんばかりの表情で、高らかに宣言する。
「じゃ、降りますさよなら」
「なっ!」
あっさりとした俺の一言にケティが驚いた。
そして踵を返して立ち去る俺の足を掴んで放さんとする。
「あだだだ、足があああ! ちょ、ちょっと待ってくださいシマ。一体どうしたというのですか、マダムはこんなに困ってるんですよ? 色んな汚点の中に血も涙も無い童貞が追加されてしまいますよ」
「うるせー、あいつ猫人族ってやつだろ。お仲間さんじゃねーか、お仲間さんが迎えにいくっつってんだから、これはもうそっとしておいた方が良いだろうがほれほれ足突くぞ」
「あう、あ、いやぁ……! あ、あんまりつっつかないでくださいぃ」
必死に縋るケティの痺れた足を絶妙な力加減で突っついてやる。プリーツスカートから除く白いおみ足は、絶対領域を死守したままビクンビクンを震えていた。
一つ、言っておくが。
俺達はどうせ時給なんだから、黙ってカフェでボーッと時間を潰して、夕方頃になったらごめんなさいお宅の猫さん、いつのまにか家に帰って来てました。
って感じで、よろしい具合に報告書上げちゃえば良いのよ。どうせあの幼上司はギルドマスターの個室で仕事してるか、離れのコタツでみかん食って粗茶飲んでるだけだからな。
「……あらそう、困ったわね。アリエル様に、今回は時給歩合にするから報酬額はそのまま渡しちゃってって言われてたんだけど。まぁこっちとしても面倒くさくな——」
「お任せあれマダム! スーパー派遣社員の俺に任せてくれれば、こんなネコマジンよりも素晴らしく早く見つけ出してあげますよ!」
ちくしょうあの幼女!
歩合制で支払報酬貰っていいなら最初から言えってんだよ。
「何よアンタ! まけないわよ!」
「望む所だ! うおお自由に使えるお金の為にいいいい!」
この貯金も出来ない異世界派遣、少しでも待遇を返る為に、というよりも自分の生活改善の為にこの仕事だけは頑張る事を決めた。
いくらご飯は賄ってもらってるとは言え、ギルドの荒くれ者が毎日飲んでるあのシュワシュワした発砲タイプの飲み物を俺も飲みたい。
顔を赤くしたガチムチ共が飲んでるアレを俺も飲みたい飲みたい。
俺はその為だったら頑張れる。
「ちょ、ちょっと待ってください足がまだ痺れて」
ミスチェと俺は一目散に町の中へと走り出して行った——。
——ケットンちゃんは、見つかった。
見つからないオチでグダグダするなんてことは無かった。
無かったのだが……。
俺は思わず息をのんだ。
そう言えば、食べられちゃうってどこぞの貴婦人が言ってたよな。
「ええ、言ってましたね」
風水猫ってさ、名前の雰囲気からして小型のペルシャ猫を想像していたんだけど、町という垣根を越えて、近所の森の奥地で化物ガエルを貪るそれは、……明らかに虎だった。
ケットンちゃんじゃなくて、ケットンさんじゃねーか。
「デフト・ストレンジ……あれはれっきとした猫よ」
いつのまにか俺らが隠れている茂みのすぐ近くにやって来ていたミスチェが、その奇天烈猫に付いて説明をしてくれる。
和訳するとすれば、奇天烈が上手な猫。
という感じか。
「虎の様に見えるけどあれはまやかし……、でも虎に変身できる程の魔力を宿しているなん、流石、マダムの所有する猫ってところね」
彼女は続ける。
「ま、アンタらは下がってて……アタシに任せなさい」
スポブラにスパッツ姿の猫耳少女は、胸を張ってそう勇むと茂みから駆け出して行った。
「超最強超天才の猫人族のアタシの力を持ってすれば、しょせん化け猫のまやかし如き子供のお遊びみたいなものよ!! ——とばすわよっ!!!」
その様子を見ながら、良い大学出て来た勉強だけできる新卒社会人とかあんな感じだったよね、とか思っていた。あれはアカンだろ。
「そう言えば聞いたことがあります。猫人族というのは、他の獣人と比べて力が弱いことで有名ですが、それを補う様に不思議な力を使うことでも有名です」
一体不思議な力というのは何なのか。ケティの神妙な語りを聞いて、何だか何かやってくれそうなミスティの雰囲気、握りしめた拳に自然と力が入った。
彼女はギュッと拳を作ってクロスした両腕を、気合いの掛け声と共に解放。光りだした両手を自分の前面へ、そして手のひらを虎の方へ向けて重ね合わせると、——叫んだ。
「波————————!!!!!」
閃光が恐ろしい程のスピードで、カエルを消滅させながら虎の真横を通り過ぎていった。そのまま上昇する様な軌道を描き、森の木々を激しく抉りながら空に消えていく。
「……ニャ閃光、相手は死ぬ」
そう言いながらミスチェは倒れた。
いや、外してるから。
外してる上にお前がやられてるんですけど。
「アタシのニャ閃光はね、あまりにも高い威力のお陰で一発で体力を消耗してしまう、お兄さん達から使うなよって言われてるのよ。……でも実際人に見せるの初めてだから気合い入れてつかっちゃった。テヘペロ」
うつ伏せで倒れ込んだ状態のミスチェの尻尾が嬉し恥ずかしそうに揺らめいていた。
「もういい、俺らだけで逃げるぞケティ」
「はい、わかりました」
「ちょ、ちょっと待って! お願いだからちょっと待ちなさい、逃げるならぜひアタシを背中に抱えて行きなさい、最悪ローブ引っ張って引きずってでもいいから! お願いだから! お願いお願い死にたくない!!」
「自分で招いたピンチだろお前!! だいたい同じネコ科なら言葉通じるんじゃないの? 和解しろ和解」
殺人光線を向けられたケットンさんが、お前を許してくれる様にはとてもじゃないが思えんがな。そして恐らく、ケットンさんはかなりキレている。
「通じるわけないじゃないの!!! ちょっとやだやだ殺されたくない!!!」
今まで貪っていたジャンボフロッグの内臓や血液を、顔中から滴らせた凶悪な表情をして、虎は雄叫びを上げながらミスティの方向へ飛びかかる。
《グルルウガアアアア!!!》
「ひいいやあああああ!!!」
ミスティはとんでもない悲鳴を上げる。手足を必死にばたつかせるミスティを嘲笑う様に、虎は前足を背中に乗せてマウントを取る。
「あの、流石に助けた方が……」
俺の袖を引きながら、ケティが上目づかいで申し訳無さそうな顔をした。
大丈夫だ、これも予定通りっつうもんだ。
「よし、気を取られてる隙に捕まえるぞ」
「鬼ですか貴方」
作戦は、この間のケティに懐いた森の管理者であるトレントの赤ちゃんにお願いして、トレントの蔓で縛り付けてもらうという実に他力本願な物。
「貴方、こんな小さな子に働かせて、自分は日陰でのうのうとしてるんですね。流石ゴミクズですね、人で無しですね」
「良いからやれ、あの猫耳がどうなってもしらんぞ」
そう言うと、脅すんですかそうですか。と更に目の輝きが無くなったケティは渋々ベビートレントにお願いするのだった。
「ベビちゃん、あのゴミクズの言う通りにするのは癪に触りますが、あの猫耳さんを助けるにはベビちゃんの力が必要です。——力を貸してください」
人型球根の鳴き声が小さく響いた。
すると、森の木々がざわめき始める。
シュルシュルシュル、と沢山の蔓が俺の足を掴んだ。
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