-9話- いきなり派遣?~ゴブリン系って誰もやらない糞仕事6~
「昔、平等院近くで食べた宇治抹茶アイスは美味しかったのう」
気が緩む様なそんな口調で、ゴブリンと俺達の間にアリエルがフワフワと降りてくる。ゴブリンは驚いて急停止する、そして警戒しながら戦闘態勢を取った。
「ろりばばあ!!!!」
「な、なんて失礼な事を言ってるんですか! 謝りなさいゴミムシ!」
思わず感激して本音を叫んでしまった。
それと同時に後頭部にケティの杖が大きく振り下ろされた。
あの、貴方も十分失礼なんですが。
《ふん、ろりばばあとやら。その魔力、かなりの強者とお見受けした》
アリエルの姿を見て、ゴブリンキングは武者震いする。
あかん!
こいつそう言う奴だった!
「お、おい。あんまり調子に乗るなゴブリンさんよ」
俺が殺されるだろうが。
《はは、お前は殺してやりたい程に我を愚弄してくれたが……それよりももっと強い仲間を、戦士を呼んでくれた事は感謝している。もう殺しはしないから邪魔にならん内に消えろ》
そしてゴブリンは高らかに叫んだ。
“ろりばばあとやら、——血を血で洗う戦いをしようぞ!”
とな。
対するロリババアもといアリエルは、妙に静かだった。
いや違った。
ロリを象徴する様な彼女の黒いツインテールが、プルプルと揺れていた。
こ、これは一体どういう感情の現れなのか。
チラっと横目で俺の姿を捉えたアリエルの目は、冷酷そのもの。
彼女の口が、静かに動いた。
“あ と で コ ロ ス”
——出来る事ならどっちも自滅してくれるとありがたい。
そしてこのまま逃げ去る様に現代日本へ戻り、心変わった様に真面目に働くから許してください神様。
《どうした! こないのかろりばばあ! なら我から行くぞ!》
「もうやめろおおおおおお!!! 俺のライフはゼロだから!!! SAN値ガンガン削られてるんだからあああああああ!!!」
流石にケティも冷や汗流している。
アリエルは一つ溜息を付くとひとりごちた。
「はぁ、時間がかかり過ぎとるのうと思って見に来てみれば。こんな雑魚相手に何を苦戦しとるんじゃ……まぁでも住所不定無職童貞には流石に厳しいかのう?」
「元を付けろ元を、今は派遣社員だろ一応」
「童貞に元を付ける必要は皆無じゃろ」
ききき貴様!
言ってはならん事を!
絶対に口に出してはいけない一言を!
「どどど童貞……ボッ///」
ケティは顔を赤くしていた。
流石に処女には刺激が強過ぎたか。
《貴様……、我を雑魚だと言ったな?》
ゴブリンキングの浅黒い緑色の肌から蒸気が噴き出ている。
明らかに激高していた。
「ああ、言ったのじゃ」と無い胸を張るアリエル。
《ならば受けてみろ、我が最高最強の技——、》
ゴブリンキングが腕を広げた。すると、周りの燃えていた木々から彼の腕、身体に次々と蔓が伸びていき締め付け始めた。おびただしい量の蔓が奴に伸びて行き、蔓人間の様になって行く。
「な、何の魔法だ!?」
そうやって驚く俺にアリエルは「ちっちっち」とムカつく表情をして舌を鳴らす。
《ぐあああ!! な、何だこれは!? 一体、一体我に何をしたああああああ!!!!》
え、どゆこと?
アリエルは、ケティの胸に抱えられるベビートレントを見ながら言った。
「お主は森を燃やし過ぎた。そしてその子供を脅かした。——森を治めるトレントの怒りは恐ろしいぞ」
意志を持って蠢く蔓をつたって、火の手がゴブリンキングを包み込んだ。火が、繭の様にゴブリンを包み込み、その中から苦痛に苦しむゴブリンの声が響き渡る。
《な、何故だああああ!!! 大体この森を燃やしたのは——》
「うおおおおおお!!!! いっけぇえええええええええ!!! コイツは俺達が守ってたベビートレントを狙ってきやがったんだああああああ!!! なぁケティ!?」
「え? 森を燃やそうって言ったの貴t——」
だめだこいつ話について来てねぇ。
「うおおおお!! 可哀想に!! こんなに怯えてしまって!! くっそぉ!! こんなに綺麗な森が、燃やされて行くのをただ黙って見ているだけだなんて!! 俺はなんて無力なのか!!」
そして俺は、いかにも無力そうに跪いて、ギュッと土を握りしめながら、身体を大きく嗚咽混じりに震わせて、涙を流した。
これが二十九歳派遣社員の演技力だ。
チラっとアリエルの方を確認すると、ゴミを見る様な視線を向けていた。
でもこれで良い。
生き残る手段がこれしか残ってないから……。
もしプライドはあるのかと聞かれたら、逆に聞いてやるよ。
プライドが金になるのか、プライドで腹が膨れるのか、プライドで雨風が凌げるのか。
そんなもん捨ててやる。
「これが森の怒りだああああああ!!!!」
このギリギリな物語に終止符を打つべく。俺は大きく右手を振りかぶって、焼き焦げて膝をついたゴブリンキングに駆け出した。
「プライド捨てた派遣社員の拳は、ちっとばっかし響くぞ!!!!」
《無念。だが、その一撃を求めていたのだ》
アリエルが片眉をもたげて口笛を吹く。
振りかぶったと同時に大きな突風が吹いた。
山火事が一瞬で消えてしまう程の、凄まじい威力の衝撃が生まれた。それだけでは飽き足らず、ゴブリンの集落とされていた洞穴も、その盛り上がった地形ごと消滅して、一瞬にして荒れ地になった。
「——へ?」
放心する俺に、アリエルが言う。
「でも少しは威力を抑えんかいたわけ」
うそだろおい……。
オラ、地球育ちのサ○ヤ人だったってのか。
落ちが弱い。(確信
ツイッター@tera_father
処女作、テラ神父の方もよろしくおねがいします。
『Real Infinity Online』VR初心者ゲーマーがテラ神父
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