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旋律の怪物  作者: ときあめ
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プロローグ

 東京には日本の首都機能を任されているが、もしも、東京が壊滅的ダメージを負うことでもあれば日本の全てにおいて機能が麻痺する。そのために、首都機能を大阪、愛知に分散された。そして、ついに事件は起こる。


 一〇月一五日、午後一時二七分。

 警視庁刑事部第二強行殺人犯捜査第1係5班所属の清水しみず 思織しおり巡査部長は、同じく5班の班長、水戸みと 光輝こうき警部と共に最近新設された高校、新帝都高校の教師に話を聞きに来ていた。


「この方、そちらの学生さんで間違いありませんよね?」


 そう職員室の客室席に座っている清水は言って、ある男の子、羽柴はしば こうの写真を見せた。


「えぇ、今日は学校に来ていないようですが」


 そう答える女性の教師。


「今日は来ていない?」

 

 清水は自分でも驚くくらいに大きな声を出した。

 先ほど、私たちは羽柴 神の家に向かい、学校へ向かったという母親の情報を元にここに来たと言うのに、これでは無駄足を踏んだことになる。急がなくては危険だというのに。

 そんな不安な心情を読み取ったのか、水戸警部は私の肩をポンッとたたいた。

ここから先は任せろっと言わんばかりに。


「実は、羽柴君が大阪都を中心に活動している第一種危険宗教団体、九頭竜会くずりゅうかいの一員である可能性が高いようなんです」

 

 水戸警部が羽柴 神を探している理由を、写真を見せた女性の教師に話した。


「く…九頭竜会!?」


 女性の教師が声を荒げるのも無理はない。九頭竜会は昔、日本で大規模テロを起こした宗教団体に似ていることで、警察は九頭竜会を新たに新設された第一種危険宗教団体として認定した。第一種危険宗教団体とは、入っている信者をその団体から抜け出せる状況を警察で作り出すこと。そして、抜けた信者を、約一年警護をつけること。そして、その団体に法律上可能な限り、出来るだけ入信させないこと。そのために広告等、宗教名を売りに出す行為を禁止している。もちろん、テレビで報道されることも禁止されていたのだが、あまりにも信者が増えていたので、危険宗教団体として報道させた。しかし、それが逆に信者を増やすきっかけとなってしまい、全都市から大阪都に人口が流れていった。

 そのため、大阪都警おおさかとけいでは九頭竜会対策本部までが置かれる始末。大阪で大規模なテロが起きないよう警視庁でも大阪都警に支援していたのだが、最近になって、九頭竜会の狙いがこの東京の可能性が出てきたのだ。九頭竜会の者が東京へ何十人も向かったという大阪都警の連絡により、事態が急展開。警視庁では捜査一課と所轄の刑事課を合わせ全力で九頭竜会の人物を一人でも多く探していた。


「きょ、いえ、校長を呼んできます」


 自分一人では対応できないと感じた女性の教師は席を立ち走って行った。

清水はため息をついた。最近、この九頭竜会のせいで寝ることができていないから少し肌が荒れていることが清水の頭を悩ましていた。それに、この場は学校だ。

生徒たちに笑われたりしていないかな?

 少しばかり清水は自分の容姿を気にしていた。


「清水」


「ひゃい!」


 不意に水戸警部に話しかけられ、清水は変な声を出してしまった。

赤面する清水に水戸警部は微笑し、そして、すぐ真剣な眼差しに戻る。


「気をつけろ。すぐ彼を見つけないと、嫌な予感がするんだ」


「それも、刑事の勘…ですか?」


「そうだ」


 清水は刑事の勘というものを全く信用していなかった。その様な合理的でない考えは、清水は好きではなかったのだ。しかし、同時に馬鹿にも出来なかった。水戸警部が刑事の勘と言って外したことが一度も見たことがなかった。


「水戸警部は九頭竜会がこの東京で何か起こすとお考えですか?」


「少なくとも、君の父親はそう思っているみたいだよ?」


 父親も警察官だったので水戸警部は私の父親を知っていた。何しろ私たちの上司だからだ。


「父親の話はしないでください」


 父親がある理由で嫌いな私は大声で答えた。その答えに驚いたのか水戸警部は一瞬、目を見開いた―――ような気がした。

 その直後だった。この職員室にいる教師、そして、私達全員の携帯が一斉にそれぞれのメールの着信音らしきものが鳴った。

 違和感を感じながらも携帯を見た。来ていたのは地震速報などを知らせる緊急メールというものだった。しかし、内容は地震速報等緊急メールらしき内容ではなかった。


>我々は国民に訴える

>目を覚ませ国民よ

>革命の時だ。


 その内容に、私、いや、日本の警察全員が嫌な予感を感じたことに違いない。

そして、その直後だった。物凄い爆音が東京都内を襲った。そして、何度も何度も爆音が続く。すぐに私も水戸警部も席から立った。


「これって…」


 そう呟いた瞬間だった。今度は自分だけの携帯が鳴った。先程とは違い着信音だった。相手は父親のようだ。

 少し電話に出ることに躊躇してしまう清水。例え、この緊急事態でも電話に出たくないと思ってしまうほど、自分は父親のことが嫌いだったのだ。


「おい、早く出ろ、清水参事官だろ」


 水戸警部に言われて、渋々電話に出る清水。その間も爆音が止まる気配はなかった。


「思織!無事か!?」


 電話越しに聞こえる自分を心配しているかのような父親の声…。なんて憎たらしい声なのだろうか。清水は今この一瞬ですら、話したくはなかった。とはいえ、自分は刑事。我儘は許されない。


「それより、この爆音は?」


 なるべく感情出さないように話したので、棒読みのようになってしまったが清水は少しも気にしなかった。


「あ、あぁ、東京都内のあちこちで爆弾テロだ、おそらく九頭竜会のやつらが…」


 爆弾テロ―――、あぁ、これが父親の電話でなければ私は大声を出していただろう。清水はそんな爆弾テロよりもこの電話を終わらすことだけに集中していた。


「そうですか、では」


「あ、おい、待て―――」


 父親の声も聞かず、電話を切った。


「君は大層父親を嫌っているんだな」


 今の電話のやり取りを聞いて、水戸警部は先程のことに納得がいったのだろう。そう結論付けた。


「何か問題でも?」


「いや―――」


 そんな水戸警部の言葉に被さるように大声である教師が叫んだ。


「刑事さん!一体これは何なのですか!?」


 水戸警部も清水も職員室全体に目をやると、その場にいた教師たちがこちらに今後の対応求めているかのように思えた。

 その教師たちの目が清水を我に戻した。


「そうだ水戸警部!この爆音、爆弾テロらしいです!!」


 今更ながら、事の重大さに気づいた清水はつい大声を出した。その清水の言葉は職員室内の隅々まで届いた。


「ば、爆弾テロぉ!?」


 職員室にいた教師たちは慌てふためいた。その様子を見て自分のしてしまった失態に後悔する清水。


「皆さん落ち着いて!まずはこの校舎から生徒を避難させましょう。この校舎にも

爆弾を仕掛けられている可能性は否定できません!」


 清水の失態を取り戻すかのように水戸警部は叫んだ。そのおかげでこの職員室での混乱は収まった。こういうところは、水戸警部が上司であることに感謝していた。


「避難させるにも、まさか、爆弾が仕掛けられている可能性があるからなんて言えませんが…」


 教師たちの中でも一番ベテランらしき男性教師がこちらに話しかけてきた。

確かに、有りのまま言ってしまうと校舎内は混乱に陥るだろう。しかし…。


「そんなの!火災が発生したとかでなんとかなるでしょう!!」


 この学校は新設されたからだろうか。こういう緊急時に対する対応力が少なすぎる。清水はそのことに少し苛立ちを感じてしまった。


「そういうところは君のほうが、頭が回るな」


 水戸警部は先程のことに少し感心したような目でこちらを見てきた。


「茶化さないでください。それよりも私達も避難誘導手伝いましょう」


「しかし、俺達は校舎の構造も知らない。逆に足手まといになるのでは?」


「いえ、それなら大丈夫です。この校舎の構造はもう把握しています」


 清水は客室席に座る前に、校長の席らしきところに置いてあった学校の構造書を一瞬だが見ていた。一瞬のことでも見たことはすぐに記憶に残すことが清水は出来た。それは清水にとって一番の長所だった。


「そうか。君は本当にすごいな」


 そんな水戸警部の感心した目を無視して、清水は大声を出して訊く。


「先生方!我々警察も避難誘導に当たりたいのですが、構いませんか?」


「ぜ、ぜひお願いします」


 その男性の教師の言葉と共に清水と水戸警部は顔を見合わせ、すぐに職員室を出ていく。

 すると、出てすぐ清水たちは目を丸くした。

 なんと職員室を出てすぐの少し広い広場には、二クラス程度の生徒の数と一人の教師が避難しようと来ていたのだ。


 早くない―――?


 避難を指示する放送もまだなのに避難しているクラスがある事に清水の胸中は疑問だらけだった。


            ☆


 時間は少し遡って午後一時二四分。

 昼時だというのに物凄い寒気団がこの日本を襲っているため全く暖かくない。それにこの学校は新設されたばかりだというのに、今日に限りエアコンが故障したらしく、教室をクラスのみんなで体温を少し分けて温めていた。


「―――で、あるからー」


 そう数学の先生が積分の解法を白い息を吐きながら説明している。先生とはいえ寒いのか黒板に書くチョークを持った手は幾分震えているようにも見える。


「なぁ、今日寒すぎないか?」


 授業中だというのに気安く話しかけてきたのは隣の席に座っている桜井さくらい ぜん。女子にある程度人気のある顔はそこまで悪くなく、良くもないが悪くない体型。それに誰とでも気安く話せる性格に表情豊かな彼には誰にでも好かれるようなクラスのリーダー的存在だった。基本一人でいた俺、時雨しぐれ はやぶさにも仲良くしてくれる良い奴だった。


「エアコンが故障しているらしいからな」


 時雨は一応、先生の視線を気にしながら答えた。


「あー、だからかー」


 他愛もない話だが時雨にとっては楽しかった。この一瞬一瞬の楽しさを身に染みていた。あと三ヶ月後には受験が待っている。このメンバーで一緒に勉強できるのもあと僅かだった。だからこそだった。

 おそらく桜井もそう思って俺に話しかけたに違いない。自惚れかもしれないが勝手に時雨はそう思っていた。


「羽柴…大丈夫かな…」


 ポロっと桜井が呟く。その呟きは時雨にとって無視できるものではなかった。

羽柴 神。俺達のクラスの中で一番頭がいいともてはやされていた男子生徒だった。前髪は目にかかり、目も半目くらいしか開いておらず、いつも眠そうな顔をしていたが、どうしてだか、クラス、いや、学校の中では一番頭がよかった。

 俺の勝手な推測かもしれないが、彼は九頭竜会に入信している恐れがあった。

だから、彼と共につるんでいたメンバー全員を今調べている。受験前なのにこの様な事をしている場合ではないのだが、九頭竜会が関わるということは、この学校に災厄をもたらしかねない問題だ。

 そう思考を巡らしていたとき、後ろからシャープペンシルの先で俺の背中をツンツンと突いてきた。


「どうした?」


 一応、先生が黒板に積分の解法を書くのに時間がかかりそうなのを確認してから後ろを振り向いた。


「羽柴君の事、考えてたでしょ?」


 彼女は結城ゆうき れん。髪はセミロングでストレート。目に髪がかからないように七三くらいで左分けに前髪を分けていた。一応―――可愛いとは思う。


「どうしてそう思う?」


 時雨は質問に質問で返した。


「だって、桜井の呟きを無視したもん。今のあんただったら絶対反応するし」


「弱ったな」


 ここまで蓮に読まれていた事が、少し気恥ずかしかった。


「何々?俺の話?」


 俺達のやり取りにのっかかってくる桜井。


「うるさい桜井」


 蓮は大層桜井を毛嫌いしていた。本当に嫌いってわけではないだろうが、明るい蓮とうるさい桜井では相性が悪いらしい。


「蓮には聞いてない!時雨に聞いたんだよ」


「そこ、うるさいぞ!」


 ついに先生の御声がかかってしまった。とりあえず、反省しているかのような顔をして前を向く。


「まったく…桜井のせいで」


 蓮は桜井に文句をつけている。


「あのなー」


 先生が何かを言い始めたとき、その言葉に覆いかぶさるようメール着信音らしき音が一斉に鳴った。

 緊急メールか―――?

 そう思い、時雨は一応携帯を確認した。しかし、メールの内容は地震速報を知らせるような緊急メールではなく、異様な内容のメールだった。


>我々は国民に訴える

>目を覚ませ国民よ

>革命の時だ。


 そして、そのすぐ後、大きな爆音がこの校舎を襲った。妙な胸騒ぎが時雨を襲う。

 羽柴 神、九頭竜会、そして、この爆音。


「先生!今すぐこの校舎から出ましょう!」


 自然と時雨の口から出た言葉は避難することだった。


「時雨?」


 不安そうに呟いたのは蓮。


「時雨…?しかし、これは」


 言葉を濁す先生。自分一人では決められないという事なのだろう。しかし、時雨はそれでも説得しなければ取り返しのつかないことになるような気がした。

 その間も爆音は鳴り響いていた。


「これはどう考えても爆弾が爆発する音です。この校舎にも爆弾が仕掛けられている可能性があります」


「しかしなー」


「先生!」


 時雨は焦っていた。先生がここまで頑なで応用力のない大人だとは思ってもみなかったのである。仮にも自分より一回り、いや、二回りも年上な大人がこの異常事態に気づかないとは…。


「先生。俺も彼に賛成です。これは普通ではありません」


 桜井も俺に同調した。クラスの中でリーダー的存在の桜井の言葉はクラスメイトたちの心に響いた。


「先生、避難だ!」


 あるクラスメイトは先生に避難を促し


「これは普通じゃないよ!」


 あるクラスメイトはこの異常さを訴えた。

 クラス全体が避難を支持すれば、あの頑なな先生も流石に折れるというものだ。


「わかった。廊下に整列。急ぐぞ」


 全員が廊下に即座に整列する。一ヵ月前に避難訓練をしていた俺達にとっては避難することは、多少のざわめき等はあったが、そんな混乱もなく下の下の階に降り、ある広場に到着した。

 残念ながら俺達のクラスだけ他のクラスと離れていたため、避難している音やざわめきが聞こえなかったらしい。全くと言っていいほど他のクラスは避難してくる気配すら無かった。

 しかし、全く関係のない、俺達の教室の一つ下の階にいた一クラスが避難してきていた。


「あ、時雨さん!」


 こちらの姿を見つけ、駆け寄ってきたのは少し話したことがある程度の後輩男子、如月きさらぎ 音恩ねおん。すらっとした体型で、整った顔立ちなのだが、少しボサボサな髪がマイナス。他は、女子的には及第点といったところだろう。


「如月。これはお前が?」


 時雨にはなんとなくだが、このクラスの避難を先導したのが如月のように思えた。特にこれといった理由はない。


「はい。この校舎にも爆弾が仕掛けられていると思って」


 時雨は黙った。こいつは天才だ。なぜか。


 これを爆弾と見抜いた―――。


 もう何人もクラスメイトは校舎を出ていた。その光景に少しだが安堵した。

 すると、広場のすぐ近くの職員室のドアが勢い良く開いた。出てきたのは目を丸くした二人の男女。

 男性のほうは三十代前半といったところか、引き締まった顔つきに、鋭い眼光。全身黒のスーツである程度の長身。彼がこの学校関係者ではないことを時雨は直感した。

 女性のほうは正直、俺達とそう変わらない歳に見えた。髪はロングっぽく後ろで髪を束ね、前髪はおでこが見えるくらいに分けている。少し肌は荒れているが、それでも綺麗な肌艶で切れ長の目がその女性をとても美人にしていた。細身な体型で隣の男性と同じ様な黒いスーツを着ていた。彼女もこの学校関係者でないことを時雨は直感した。


 そうか、彼らは刑事か―――。


 羽柴 神が九頭竜会の信者である可能性を俺は親父(警察官で管理官という職に就いているらしい)に話していた。その為に捜査員を派遣したというところだろう。偶然ではあるが助かった。

 刑事なら、とんでもなく馬鹿でない限り、この異常事態が九頭竜会によって行われていることを推測するだろう。そして、羽柴 神が九頭竜会の信者の可能性から、この学校にも爆弾が仕掛けられていると推察するはずだ。おかげで職員室に行って説得する必要がなくなった。


「ねぇ、時雨。他のクラスは避難させなくて大丈夫かな?」


 先程の心配事と同じことを蓮は考えていた。そこまで同じことを考えられると全て読まれている様な気がして気恥ずかしかった。


「大丈夫だろう。向こうの二人、刑事っぽいし、多分、避難放送の指示はしているさ。まぁ、一応確認してくるけど」


 時雨はそう答え、刑事らしき二人に駆け寄った。


            ☆


 私達に気づいたある男の子、水戸警部より少し小さいくらいの長身で、この状況に冷静で何一つ表情を変えない整った顔立ち。真っ直ぐ伸びた鼻筋に、鋭い目つき。そして、若干の癖毛がまるで、時雨管理官の若いころのように清水は感じてしまった。


「刑事さん、ですよね?」


 その男の子の第一声がそれだった。清水も水戸警部も再び目を丸くしたのは言うまでもない。


「君は?」


 そう答えたのは水戸警部だった。清水には水戸警部はその男の子を睨み付けているようにも思えた。


「俺は時雨 はやぶさ、時雨管理官の息子、とか言えばわかるかな?」


「え!?」


 清水は自分でも驚くような素っ頓狂な声を出した。すごい偶然が重なるものだと清水は思った。

 なるほど、時雨管理官の面影があるわけだ。


「私たちはあなたの言う通り刑事です。それにしてもこれは?」


 清水は避難しているように見える生徒たちに目線を移した。時雨君もそれに気づいたのか避難している生徒たちのほうを見た。


「あぁ、俺と如月って奴が避難するよう無理矢理説得したクラスです」


「あー、君たちは気づいたんだ。これ」


 清水はなんとなく納得がいった。どうして避難放送もしていないのに、これらのクラスだけ避難が早いのか、それは時雨管理官の御子息だからだろうと結論付けた。

 時雨君は今の清水の言葉を聞いて安堵の顔をした。その安堵の顔に清水は疑問に思ったが、口にはしなかった。


「それはどうしてだ?」


 水戸警部は清水が付けた結論には至らなかったようで時雨君に食ってかかった。


「それよりも時雨君、早くこの校舎から出てください」


 水戸警部の問いを無理矢理遮って、とりあえず避難させるよう勧めた。別に時雨管理官の御子息だからと思っているわけではない。


「分かっているさ」


 時雨君は水戸警部に食ってかかられたことに少し不満そうな顔をし、そう言い捨て校舎を出て行った。


「水戸警部、どうしたんですか?」


 時雨君が立ち去った後、すぐに動こうとした清水だったが、水戸警部は動こうとはせず、顎をさすっていた。


「おかしい」


 水戸警部はそう言うと時雨君の方、駐車場近くのコンクリート状の場所に避難している生徒たちの方へ走って行った。


「待ってください。どうしたんですか、水戸警部?」


 清水も後を追う。すると、水戸警部は拳銃を取り出した。


「え」


 あまりのことに清水は言葉を失う。


「警察だ。そこのやつ、手を挙げてこちらに来い!」


 水戸警部が怒声を発し、皆の輪から離れていた一人の生徒に拳銃を向けた。その生徒は髪が長く陰湿そうな男だった。


「ちょっと、どうしたんですか水戸警部!やめてください!」


 清水は堪らず水戸警部の制止に走った。


「清水止めるな。彼は間違いなく九頭竜会、もしくはそれに加担する人間だ」


「どうしてそんなことが分かるんですか?」


「刑事の勘だ」


 清水は唖然とした。ここで刑事の勘を使われるとは思ってもみなかったのである。

 陰湿そうな生徒は手を挙げてこちらを見た。その目は大層怯えている様な気がした。


「こっちへ来い!」


 水戸警部がまた怒声を発すると、陰湿そうな男はゆっくりだが、一歩、また一歩と着実にこちら側に来た。

 そして、ある程度近くまで来たとき、陰湿そうな男は大きな呻き声をあげ、ナイフを右手に持ち、こちらを襲ってきた。


「止まりなさい!」


 清水も拳銃をだし、陰湿そうな男に拳銃を向けて、怒声を浴びせた。

 しかし、陰湿そうな男は止まらず、水戸警部に刺しにかかった。しかし、水戸警部はその一撃を難なく避け、彼の右手を後ろに回させ、その瞬間にナイフは落ち、そして倒した。さすが水戸警部、犯罪者を一瞬で行動不能にした。


「さぁ、吐いてもらおうか。どうして襲ってきたのかを!」


 水戸警部の鋭い眼光が彼を襲う。彼が吐くのも時間の問題だと清水が思考した瞬間だった。


「えー、校舎の四階で火災発生火災発生、生徒は先生の指示に従い落ち着いて避難してください。繰り返します―――」


 遅い避難放送に清水も水戸警部も一瞬校舎のほうを見てしまった。しかし、その隙が仇となった。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 大きな呻き声が聞こえる。清水が振り向くとさっきの陰湿そうな男とは別のとてもごつい体型の体育会系の男子生徒が水戸警部の背部をナイフで刺していた。


「水戸警部!」


 清水は怒声を発し、そのごつい体型の生徒のナイフを持つ右腕を狙って拳銃を発砲した。

 銃弾は見事、彼の右腕に命中し、彼は右腕を押さえ、呻き声を挙げながらその場に倒れこんだ。


「は、はは、こりゃあ、油断したな」


 陰湿そうな男を拘束していた水戸警部は彼を解放し倒れこむ。陰湿そうな男は解放されるや否や、そばにあったナイフを水戸警部の胸部に刺した。


「ちょっと!」


 再び清水は拳銃を発砲した。今度も陰湿そうな男の右腕に当て彼を倒れこませた。

 すぐに清水は水戸警部に駆け寄った。


「大丈夫ですか!水戸警部!」


 水戸警部の息は虫の息だった。助かるようには思えない。そう思えば思うほど、この刺してきた生徒たちに殺意が芽生えてくる。


 父親と一緒になるわけにはいかない。


 殺意をグッと堪え、清水は立ち上がった。その瞬間だった。鼓膜が破れるかと思えるくらいの大きな爆音が私たちを襲った。校舎が一斉に爆破されていったのだ。崩れる校舎。

 ちょっと待って、あそこにはまだ避難途中の人が―――。

 現実は甘くなく、無情にも大地震でも起きたかのように校舎全てが崩れたのだった。その瞬間、ひたすら我慢していた清水の何かが崩れ去った。目から水滴が零れ落ちるのをどうしても止められなかった。そして、折角立ったのにその場に座り込む清水。


 私の、負けだ。


「刑事さん、大丈夫か?」


 そう言われて顔を上げる清水。そこには時雨管理官の息子、時雨 隼が立っていた。


「おい、あんた刑事だろ。いつまでも落ち込むなよ」


 時雨君のその言葉に怒りを覚えたが、彼の目が先程と違い涙目になっている事で清水は冷静に戻った。


「ありがとう」


 右袖で涙を拭い、清水はまた立ち上がった。


「どうしてよぉ!時雨ぇぇ!」


 時雨君に飛び掛かった女の子、すごい可愛い子なのに涙で顔が少し崩れていた。


「すまない、蓮。俺が先に他のクラスの説得に行くべきだった」


 時雨君はその蓮っていう子に飛び掛かられコンクリート上に尻餅をついた。そのまま、蓮という子の頭を撫でる時雨君。

 それでも彼は涙ひとつ流さず、彼女を慰めていた。

 彼こそ、私なんかよりも警察に向いているかもしれない。そして、清水も一人一人の生徒を慰めて行った。幾つもの怒声と罵声を浴びて…。

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