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突発事案

“全隊員に通達。こちら訓練本部。これより実戦訓練を実施する。訓練といっても、今回は米軍の協力のもと、初めてオートアーマーを使用した本格的な実戦訓練である。各隊員の気鋭なる動きを期待する”


 隊長らしく的場彰の堂々とした声がヘルメットに聞こえ、指示が終わると次にオペレーター係の女性隊員の声に切り替わった。


“訓練本部から、イーグル・ファイブ各隊員に告げる。現在、A地区においてビースト型キメラ一体出現。全隊員は至急出撃し、現場に向かえ”

「……へいへい」


 装甲を身にまとった稲葉耕介は、ヘルメットの下で気だるそうに返事をした。

 もちろん、訓練が始まるまで無線の送信スイッチは切ってある。演習においては予備役は刺身のツマのようなものであり、後方でもっともらしくつっ立ってくらいしか役割しかない。


「気合い入れる必要もなかったな」


 イーグル・ファイブから退いた身であっても、功名心らしきものが残っていたらしいと、耕介は自嘲気味に苦笑いしながら、望遠カメラで射撃場の奥に設けられている来賓用のテントにレンズを合わせた。

 旧朝霞駐屯地射撃場に設営された軍用テントの数はいつもの倍近くに増え、各テントごとに物々しく武装した自衛隊員があちこちで警戒にあたっている。


 その中で来賓用のテントでは、黒服の厳つい男たちに囲まれて、日本政府の高官らと一緒に、無愛想な軍服姿の老人が腕組みして座っている。

 かつてイーグル・ファイブを“ビーグル・ファイブ”と揶揄した、あのリブ・フライヤー国防長官である。頭髪は真っ白になり前髪が幾分後退したものの、偏屈そうな面構えは、以前テレビで見た時と全く変わっていない。


「やることは済んだし、早く終わらねえかな」


 何となく緊張感も抜けてしまい、耕介の口からあわあわとあくびが漏れた。

 耕介の役目というべき個人訓練は、既に午前中で済んでいる。

 的場がご指名とまで言っていたリブ・フライヤー国防長官が射撃訓練や剣道の見物に来て、耕介自身も良いところを見せようと、米軍から選抜された軍人らと団体試合形式となった剣道では5人抜き、射撃訓練では全弾が射撃板の中心にヒットさせていた。だが、リブは仏頂面なままで、一通り最後まで見物していたものの、何の感想もないまま次の訓練の視察に向かってしまい完全な肩透かしとなっていた。


 あとは、このオートアーマー相手にした実戦訓練が終了すれば、退屈な検討会と義肢調整で訓練の日程は全て終了となる。しかし、先述のとおり、メインとなるのは現役隊員なので、耕介たち予備役には出番がない。

 いつもより大袈裟なイベントとなっただけで、結局はいつもの訓練と変わらないし、本来、予備役は参加しない実戦訓練まで参加させられて、耕介には損したようにしか思えないでいる。


「終わるまで暇だな……」

 あくびを噛み殺しながら、一体のオートアーマーに対して、的場ら5人の現役隊員が向かっていく。的場の指揮の下、見事な連携でオートアーマーを翻弄していた。

 対キメラを想定してアメリカで開発されたというオートアーマーは、キメラと同じように“コア”を攻撃すれば、動きが停止する仕組みになっているという。オートアーマーの両腕をそれぞれ隊員が捕まえて、他の隊員がバランスを崩し、オートアーマーが地面に突っ伏したところでオートアーマーの背後に回った的場が、擬似コア部分をガン・ブレードで貫いた。

 そこでオートアーマーの動きがとまり、両目から光が消える。来賓席からはどよめきと拍手が沸き起こった。


 ――見事な動きだ。鮮やかで無駄がない。


 いかにも訓練らしいと、心の中で、耕介は意地悪い一言を付け加えた。

 所詮は訓練用に仕組まれた動きで、オートアーマーも単調な動作しかしていない。約束動作とさほど変わりもなく、見事な動きになるのも当然と言える。


 後は集合を掛けられ、集まって来賓等から講評をもらう流れとなっている。「集合」の合図がかかると、耕介ら予備役もお相伴で整列に加わらなければならず、新隊員時代に嫌というほど行った駆け足動作で、右手を掲げる的場の下に部隊員が二列横隊で集まった。

 きびきびとした動作できっちり足を揃え、各隊員は二列に並ぶと、顔は正面に向きながら横目で列を整える。

 耕介ら予備役は二列目に並び、耕介は右から三番目の位置で背中を伸ばして列を整えていた。毎度、馬鹿馬鹿しいと思わないではないが、これも仕事のひとつではあるし、新隊員で叩き込まれた各個動作の記憶は、今でも体に染みつくように残っている。

 その横目で見ている視界に、作業班が停止したオートアーマーを回収している光景が入ってきた。

 10tを超える機械の回収には手間取っている様子で、ワイヤーがどうだのクレーンを寄越せだの、さほど声は大きくはないが苛ついている様子が窺えた。


 ――時間が掛かるな。


 耕介が何となくそう考えながら視界を戻そうとすると、不意に紅く光るものが目の端に瞬いた。オートアーマーの方向で見ると、オートアーマーは無言のまま横たわっていたし、作業員も作業に奔走している。気のせいかと一瞬考えたが、また紅く光が視界に飛び込み、振り向くとオートアーマーの両目が紅い光を帯びている。機械の体が震動し、指先が動き出していた。

「お前ら、そのオートアーマーから離れろ!」


 耕介が作業員に怒鳴った時だった。突然の耕介の怒号で会場の視線が耕介に集中するなか、オートアーマーの巨体がむくりと起き上がっていった。


「おい、何やってんだ!早く逃げろ」


 呆気にとられて耕介を見ていた作業員は、背後のオートアーマーにまるで気がついていない。機械の駆動音を耳にした一人が振り返って、表情を強張らせた時にはオートアーマーは鉄の拳を振りかざしているところだった。

 刹那、一筋の白い閃光が宙をはしり、高エネルギーを持った光の弾はオートアーマーに直撃した。爆音を轟かせて機体が揺らめいて尻餅をついた。

 

「オートアーマーの様子がおかしい。みんな早く離れろ!」


 再び怒声が響き、人々が声を辿るとそこには左腕にアトミックバスターを装着した耕介が、オートアーマーに照準を合わせて身構えていた。

 コウちゃんと泡を食った声が後ろからした。装甲姿の的場が立っている。


「コウちゃん、いや“デッドマン”何が起きた!」

「わからん。勝手に動き出して攻撃しようとしてやがった」


 耕介が説明する間に再び駆動音がし、オートアーマーが起き上がっていく。射撃場は騒然とし、警護役の自衛隊員たちがオートアーマーに一斉射撃を行っていた。しかし、痛覚の無い鋼鉄の肉体には通用せず、火花があちこち飛び散るだけで前進するオートアーマーを止められないでいる。

 場内が悲鳴と怒号が満ちる中、ヘルメットに的場の声が響いた。


「……“ジェネラル”から“デッドマン”、国防長官を守れ。これより、イーグル・ファイブはオートアーマーを破壊停止する。他の予備役は援護にあたれ」


“了解”という現役隊員たちの明朗な応答が聞こえると、耕介の横を黒い影が駆け抜けていく。

 ガン・ブレードを手にしたイーグル・ファイブがオートアーマーに向かっていく中、耕介はオートアーマーを見据えたまま後方に退いた。やがて来賓席のあるテントの前までくると、オートアーマーを見据えたまま、耕介は喚くようにして言った。


「国防長官。ここは危険ですから、早く退避してください!」


 だが、耕介の呼び掛けにも反応が無い。

 振り返ると、リブはむっつりと不機嫌そうに座ったままだった。政府高官は既に逃げてしまい、残されたリブのボディーガードや、側近は青い顔をしてリブと耕介を見比べている。


「長官、早く……」

「何故、君が戦わない。“デッドマン”だろ」

「え?」

「君がイーグル・ファイブで、もっとも優れた隊員だと聞いていたのだがな」

「長官。今は場合では」

「つまらんな」


 リブは腕組みを解き、ポケットから万年筆を取り出すと、それを弄び始めた。

 火急の際にも動じない。泰然としている姿は大したものだと感心しないでもないが、混乱する現場では動けない高官など、邪魔で足手まといになるだけだ。


「……長官、早く!」

「君の卓越した力が見られるかと期待していたが、一隊長の指示で大人しく引っ込む辺り、君も“ビーグル・ファイブ”の域を出ることができんのか」

「……」


 耕介にはリブの言葉の意味がわからず、戸惑うしかなかった。

 信頼できる人物を警護にあたらせるという、的場の判断が間違っているようにも耕介は思えなかった。突然の事態に混乱しているのかと疑ったが、じっと見据えてくるその青い瞳に、動揺した様子は見られない。


「俺がでなくてもイーグル・ファイブが対応していますから!長官が退避されないと、被害が及ぶのをおそれて、あいつらもオートアーマーと充分に戦えません。ですから早く……」


 そうかとこれでは無理かと、リブは肩を落としてうつむいた。酷く気落ちしたようにため息をつく。


「だが、私は君の力を見てみたいのだ」


 リブは顔を上げると、決然とした口調で耕介を真っ直ぐに見つめてきた。万年筆を握る手に力が籠る。万年筆のキャップをひねったようにも見えた。


 不意に激震と爆音でテントが揺れた。

 視線をリブからイーグル・ファイブに戻すと、濃い噴煙が辺りを覆っていた。風が重い煙りを散らすと、そこにはオートアーマーの紅い両目が激しく発光し、機体からはぬらぬらとプラズマ粒子を放出させて佇んでいる。地面は抉られ、その周りでは的場を始めとしたイーグル・ファイブの5名、そして援護にあたっていた予備役の隊員に数十名の自衛隊員が倒れていた。


「長官、何やってんです!」

「それよりも、こんな危機が迫っているのだぞ。ここが君の力の見せどころだろう」


 他人事のように悠然としているリブを、ぶん殴ってやたい衝動に駈られたが、必死にそれを押さえつけ、耕介は正面を睨んだ。

 爛々と輝くオートアーマーの視線が耕介と合うと、巨体を揺らして猛然と突進を仕掛けてきた。


「このくそったれジジイが!」


 耕介はリブへの怒りを吐き出しながら、ガン・ブレードを構え直すと、迫るオートアーマーへと突進していった。


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