王国がおバカなせいで追放されたが、魔族の嫁ができたのでよしとする
名前は迫田湊人。結婚願望があって彼女を作るも、誰と付き合っても長続きしない。俺はその鬱憤を晴らすべく二次元にのめり込んだ。マイブームは主人公が異世界に召喚されるやつ。
とはいえそういうアニメやラノベは好きだけど体験してみたいとは思わない。だってモンスターとか怖いし生き残るための武術や魔法の才能が自分にあるとは思わない。
体験してみたいとは願わなくても俺はそうなってしまった。まぁ、この世界には神も仏もいないということになる。
「召喚が成功した!」
「ようやくか!」
「今度こそまともに使えるんだろうな?」
西洋風の顔立ちの面々。騎士っぽい鎧姿のと、魔法使い風のローブを纏った一団、王座にいるきらびやかな装飾の男性とその横の似たような格好の女性。ここは王の間か。
俺の足元にあるのは召喚用の魔法陣だろうか。何度か踏んでみたが何も起こらない。元の世界に返してくれ。無理か。今日から社会人だったのに。最悪だ、このまま無断欠勤が続いたら。良い会社に入って結婚して幸せな家庭を築いてーって夢があったのに。
「なんと、これは……!」
「凄まじい魔力量だ……!」
「こんな膨大な量は見たことがない……!」
ん?と顔を上げれば、周囲は俺を見て愕然としていた。
魔力量?俺はそんなにすごいのか。召喚された途端に才能が開花した?これからチート的展開になるのはさぞ良い気分に──「ここまでの無能は初めてだ!」……はい?
「なんと嘆かわしい……」
「これほどの弱者など魔族相手にはとても……」
「いっそ処刑してやるのが情けでは……」
侮蔑を通り越して哀れみの目を向けられる。
言われてみれば、目をこらせば一人一人が白いモヤのようなものをまとっている。全員が淹れたての湯呑みから立ち上るぐらいのうっすい湯気並みの魔力なのに対して俺のは身長の七、八倍まで膨れ上がり、濃密な白となってゆらゆらと揺らめいていた。
「無知なる異世界人にも教えてやろう。矮小な存在へのせめてもの情けだ」
いかめしい顔の王様が白いあごひげをさすりながら言った。アンタの魔力、全部かき集めても自分のひげの一束分よりも少なそうだな。
「人は生まれながらにして、無意識のうちに己の魔力の制限ができるようになっている。それは住む世界が異なろうとかかわらず。人や魔族といった自我を持つ者ならば誰でも成し遂げる技。そもそも魔力はその者が持つ生命力そのものであり、それを貴様のように制御もできず垂れ流しでは結果は見えている」
そう言われてみると、納得できなくもない。
「つまり、このままだと俺は早くに死んでしまうのですか」
「と、賢者殿が言っていた。そうだな?エドガー殿」
魔法使いのメンバーは白のローブに身体の線に沿って金の刺繍が入っているが、エドガーとやらはそれに加えて頭には銀の鎖――サークレットというやつか――を巻いており、十字架を首から下げていたり、デカい白樺の杖を持っていたりと明らかに周りと格が違った。フードを深く被っていて顔がわからない。
「その通りです王様」
声は低く聞き取りやすい。男か女かよくわからない。エドガーが本名なら男かもしれないが。
「元の世界では魔力をコントロールできずとも、生まれつき魔力を放出する部位が閉じていたのでしょう。それが召喚魔法という他者の魔力に触れたことで目覚めてしまった。なんとも不運な御方ですが、私の力をもってしてもどうすることも……」
「だ、そうだ」
王様は賢者頼りだが、疑問に思うヤツは誰もいないのか。みんなさも当然のように受け入れている。
「あのぅ、他の可能性や例外とかは……」
「貴様!賢者様を愚弄する気か!」
「なんと無礼な!」
騎士がこぞって怒鳴るので反論できなくなる。
ムカつく。が、多勢に無勢だ。しかもこちらは無能のレッテルを貼られた。何を言っても理解してはもらえないだろう。
「では元の世界に返していただけるとありがたいのですが」
「人間一人を瞬間移動させる魔法は膨大な魔力を使う。賢者殿にそのような無駄な負担はかけられない」
「では先程誰かが言っていたように、処刑……」
「高貴なる我が領土を、劣悪な民草の血で穢すわけにはいかぬ。ただちにこの地を去れ」
淡々と言われた言葉と全員から睨まれ、俺は王国から追放された。
草木の少ない平坦な道を歩く俺の後ろからついてくる賢者。
「やっと二人きりになれましたね」
小悪魔を思わせる口調に、やはりかと思う。
振り向けば賢者はフードを取ってみせた。
さらりと流れる金髪に、青空のような碧眼。俺と同い年か年下くらいの活発そうな顔立ちだ。
なかなか綺麗な顔をしているが、何より驚いたのは、
「……人間?」
「ではないですね」
そうだろうとは思っていたが特に姿かたちを変えていたわけではないようだ。魔族といったら耳が尖っていたり翼が生えたりするもんだがそれもなし。おまけに魔力量は王国の奴らと大差ない。
「彼らが騙されるのも仕方のないこと……私がいるかぎり魔族は一度も王族を襲わなかったし、王国にも攻めてきたことはなかったのですから」
「仲間と口裏合わせてたらそりゃ来ないわな。で、俺についてきたってことはあの王国もうダメだな」
「ふふ、本当におバカな人達で助かりました。おかげで根無し草になった貴方と取引ができるのですから」
断ったら殺すとかか?やだな、殺されるってたぶん痛いじゃん。俺は嫌な汗をかきながら、そのへんにあった木の枝を拾った。
こいつの言葉がデタラメなら、魔力の多い俺はきっと強い。目とか狙えばいけるか?とりあえず睨んで威嚇する。人を睨んだことなんて片手で数えるくらいしかないが怖がってほしい。そんな願いも虚しく、賢者はフッと笑った。
「そんなに怯えなくても痛いことはしませんよ?私は貴方との子が欲しいだけ。より強い種族の魔力と私自身の血を引いた、凄まじい力を持つ子が。そのためなら私はなんだってする」
賢者はローブのボタンを一つずつ外す仕草をすると、鬱陶しそうに前方を大きく開いた。
真新しいブラウスとスカート。その胸元は谷間が見えるくらいにはだけ、スカートはえらく短い。胸はほとんど膨らみがなく脚も細い。
「ガリガリじゃないか。寒くないのか?動きやすさを重視した戦闘スタイルのようだが。力づくで俺を捕らえて人工授精でもさせる気か?」
「全部外れ。全然わかってない。率直にいうと子作りです。貴方が寝て、私が上に乗る。こう言えばおわかりでしょう。言わせないでください、恥ずかしい」
「それのメリットはどこにある。腹が膨れたら戦えなくなるが、わかっていて言っているのか」
「いいから黙ってついてくればいいんです。それとも異世界人がこの世界で野宿でもしますか。武器も魔法も扱えないこの世界で、一人で生きられると?」
そう言われるとぐうの音も出ない。勝ち誇った笑みの賢者が先頭を歩き、俺はついていくしかない。
彼女の家に着くまでに一時間、休憩を挟みつつひたすら歩いた。彼女が言っていた他者の魔力に触れて目覚めたうんぬんは本当だったようで、魔力に目覚めた俺は全然疲れなかった。
途中で魔族が草原や木陰からこちらを覗いてきたが、賢者と目が合うと出てこなかった。そいつらの外見は、自我を持たない動物に近かった。彼女はそいつらよりかは格上なのだろう。
それよりも気になることがある。彼女の家に着いたことだ。
どう見ても個人宅。木材で作られた質素な平屋。魔族の城とかアジトとかじゃない。
「ところで子どもができたらどうするんだ。俺達で育てるのか?」
「当たり前です。それで衣食住が保証されるなら安いものでしょう。もちろん貴方には魔法と戦術を覚えてもらって生活費を稼いでもらいますけど」
つまり彼女は、俺の嫁になるということ。そしてこれは家デートってヤツだ。
えっ、こんなおいしい話がある?嫁になってくれる女性というステータスで、彼女のことが一層可愛く思えた。しかも魔族。人間よりかは体力があるようだ。俺に恋人ができても長続きしない原因はそこにあった。
「名前は?エドガーってのは本名じゃないんだろ?俺のことは湊人と呼んでくれ」
「……エリザ」
俺の顔を見ずに、冷たい声で言った。エリザ。良い名前だと思うのだが。
エリザはリビングのすみでローブを畳んでおき、そこに装飾品をそっと置いて、杖はやたら丁寧に壁に立てかけた。それから彼女はすたすた歩いてさっさと寝室に入った。古ぼけたベッドだけが置いてある。
「あお向けになってください。あとは私が動きます」
「本当にいいんだな?俺が相手で」
「貴方が気にすることじゃない。早くしてください」
「そうか。なるべく優しくする」
「えっ──」
何度恋人を作っても長続きしなかった理由、俺がいわゆる性欲オバケだからだ。
歴代の彼女は皆、もう付き合いきれない!と泣き喚いて去っていった。これでも我慢していたんだが。
ヤワじゃない魔族相手なら遠慮はいらない。終わったあとには、ベッドの上にはシーツを頭まで被ってまんじゅうみたくなってぷるぷる震えている彼女の姿があった。




