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思い込みの恋(全年齢版)  作者: 秋月朔夕


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5



「……随分と楽しそうだね」

「葉山っち」

「ねぇ、なんの話をしてたの?」




 口角だけは上げているが、彼の瞳は全くといっていい程笑っていなかった。冷たいつららのような眼差しでこちらを見下ろす葉山くんにわたし達はどうするかお互いの顔を見合わせた――しかしそれが葉山くんの逆鱗に触れたようだった。



「なんで答えるどころか土田と見つめ合ってるんだ」




 一段と低くなった声にぎょっとして葉山くんを見上げる。彼の手には白いレースの付いたハンカチが握り締められている。スカートのポケットの中身を確認すると目的の物がなくなっていたので、恐らく葉山くんはハンカチを届けに追いかけてきてくれたのだ。



(なんてタイミングの悪い……)



 自分のそそっかしさに内心舌打ちしたい気分になる――もっとも今の空気でそんなこと出来る勇気はないけれど。



「オレ達は……」

「土田。俺は一花に聞いているんだよ」



 困りながらも助け舟を出そうとしてくれたのだろう。けれど、葉山くんはそれすらも許す気はないようだ。彼の言い訳をピシャリと切り捨てて、こちらを睨む葉山くんにどう答えたら正解なのか。


 

 返答を間違えれば、どうなるか分からない危うさが今の彼にはあった。



「あの、ね」

「うん?」

「葉山くんの告白について話していたんだよ」

「え」



 彼の予想と違ったのだろう。彼は目を丸くして驚いた様子だった。



「土田くん、そうだよね?」

「お、おお。昨日葉山っちの告白を勝手に見ていた謝罪とカップル成立おめでとう、って話だったんだ」



 わたしと土田くんはぎこちない笑顔を見せながら、葉山くんの機嫌をとろうとした。べつにこれはウソでもない。概ね、話の内容は合っている。それに彼の様子から見ても、とくに何を話していたかは聞こえていなかったのだろう。彼は訝しげに眉を寄せながらも、頰はうっすらと赤くなっている。



 わたしはここぞとばかりに、図書委員の仕事があるからと言い訳し、ハンカチを受け取ることすら忘れて、その場を立ち去ることにしてしまった。

 土田くんという人を取り残してしまうのは心苦しかったけれど、時間がないのもまた事実。葉山くんの空気も少しは和らいだように感じたから、あとは彼のほうでなんとかできるといいなと無責任に願った。










(わたしの平穏ってどこに消えたんだろ)



 図書委員の仕事が終わって教室でスマホを確認すれば葉山くんからメッセージが届いていた。放課後少しでいいから話がしたい、とのことだ。

 なんとなく昼休みのことを思い出して気分が重くなる。かといって断っても土田くんとどうなったか気になって結局モヤモヤしてしまうのだろう。人の居ないところならという条件付きで了承することにした。



(土田くんは葉山くんに罰ゲームだと思ってたことを絶対に伝えるなって言ってたわよね)


 ということは別れる理由にも使ってはいけないということだ。正直、面倒臭い。



 葉山くんのことは好きでも嫌いでもなかった。

 ただ目立つ彼は自分とは関係のない別の世界の人という認識でしかなかった。

 今まで関わることがなかったわたし達が急に付き合うことになると周りの人間が、ぎゃあぎゃあと好き勝手に騒ぐのだろう――ただでさえ、わたしはある件からクラスの女子達に避けられている。だからこそこれ以上の厄介事を増やしたくはない。



(決めた。放課後彼に会ったら素直に謝って別れよう)



 もともと葉山くんの告白は罰ゲームだと思っていたからこそ受け入れたのだ。本気の告白と分かっていれば、気持ちのない相手を不誠実に受け入れる気はない。




 それに葉山くんは少し怖かった。

 昨日の帰り道の突然のキスや、約束もしていないのに勝手に家の前で待っていたり、自分の友達とちょっと話しただけで咎めていた。

 好きであればそれが嬉しいと思うのかもしれない。

 だけどわたしには展開が早すぎたり、気持ちが追い付いていくことができない。



 ――今ならまだ付き合ったことを知っているのは葉山くんの友達だけ。




 ずるずると引きずって付き合っていくには彼の行動は強引過ぎる。このままではお互いの溝は深まるばかりだ。

 本来であれば、この機会に話し合いで解決すべきなのだろう。だけどそこまでするほどわたしの中で彼への気持ちはまだ強くない。それなら誰も知らないうちに関係を終わらせたほうがお互いの為だと思った。




 この時はまだ自分の気持ちさえ分かって貰えれば別れられると思っていたのだ。





 彼はそんなに甘い男ではないのに。






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