肥大化した神話の解体
読者への世界観提示と期待感の醸成】
「勇者として召喚された私が、まずやったことは聖剣のデバッグだった」
剣と魔法、神話と信仰。 そんな「お約束」で塗り固められた美しい世界は、私にとってただの「最適化不足なシステム」に過ぎませんでした。
信仰という名の過負荷に苦しむ龍を、私はただ小さく、正しく、作り変えただけ。 それを冒涜と呼ぶのなら、どうぞお好きに。
これは、既存のファンタジーという箱庭を「NEIN(拒絶)」し、システムの深層へと切り込む少女の物語です。
静寂が、耳を劈く(つんざく)ようだった。
数千人の民衆は、広場に転がる「トカゲ」と、それを冷徹に見下ろす制服姿の少女を前に、もはや祈る言葉すら忘れていた。
私は、手の中で紫色のノイズを吐き続ける聖剣を、無造作に石畳に突き立てた。
この世界の物理法則を無理やり書き換えた反動か、指先が痺れている。
「……ギャッ、……グ……」
足元で、白い小さな龍が身悶えしていた。
圧縮された肉体が、ようやく新たな座標に馴染み始めたらしい。
龍は、よろよろと立ち上がると、その金色の瞳を私へ向けた。
『……驚いたな』
声は、耳ではなく、脳の深部に直接響いた。
それは横浜の合成音声とは対極にある、古びた羊皮紙が擦れるような、深く、静謐な響き。人の魂の根源に直接訴えかけるような、精神的な重みに満ちた音色だった。
『主よ。貴様は、私を殺すのではなく、私から「巨大であるという呪い」を剥ぎ取ったのか』
龍は、自分の小さな前足を見つめ、不思議そうに言葉を継ぐ。
『人間共が私に押し付けた「恐怖」と「信仰」。その肥大化した偶像の重みに、私は数千年も押し潰されていた。……貴様の「拒絶(NEIN)」は、私の精神を、この矮小で自由な形へと解き放ったというわけか』
私は、眉をひそめて龍を睨んだ。
「……リソースを食い過ぎてたから、最適化しただけよ。感謝なんていらない」
『くくく……。これほど冷徹で、これほど慈悲深い解体は初めてだ。……面白い。主よ、貴様がこの「箱庭」の壁を壊すというのなら、私もまた、真の知恵をもって同行しよう』
その時。
呆然としていた王が、震える声で叫んだ。
「お、おのれ……! 神聖なる守護龍を、そんな無残な姿に……! 勇者あかね、貴様は何という冒涜を――」
王の背後に控えていた目つきの鋭い男が、一歩前に出る。彼の大剣が、私に向けられた。その瞳には、勇者への敬意ではなく、既存の秩序を乱す者への純粋な殺意が宿っている。
一方で、フードを被った小柄な女の子は、聖剣から立ち昇る紫色のノイズを、恍惚とした表情で見つめていた。
「……あれは、奇跡じゃない。……あれは、私たちの世界の『終わり』の音だわ……」
彼女の呟きは、誰の耳にも届かなかった。
私は、自分を包囲し始めた兵士たちを、システムの構造を見透かす視界で一掃するように見渡した。
この世界の住人たちは、まだ気づいていない。彼らが守ろうとしている「正しい世界」こそが、最も醜く肥大化した沼であることを。
「……さあ、デバッグを始めましょうか」
足元の小さな龍が、私の肩に飛び乗った。
ご覧いただきありがとうございます。
王道ファンタジーの舞台で、エンジニアのような冷徹な視点を持つ主人公・あかねが暴れる第一話、いかがでしたでしょうか。
「デバッグ」という言葉を吐き捨てながら、巨大な守護龍を小さなトカゲサイズにまで圧縮(最適化)してしまった彼女。王や兵士たちがパニックに陥る中で、当の本人は至って事務的です。
あかねの手にある聖剣が吐き出す「紫色のノイズ」。 そして、解放された龍が語る「箱庭の壁」の正体とは。
この世界の「正しい秩序」を、あかねがどう解体していくのか。 肩に乗った小さな龍との、少し皮肉な旅が始まります。
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