愛の印
忍び込んだレイナ様の部屋は私の寮の部屋の何倍も広い。レイナ様を表すかのように全てが華やかだ。置かれている調度品は一つ一つが凝ったデザインで、値段が高そうなのがわかる。画集で見た事がある絵画も飾られている。
ユーマン様に来訪の御礼の手紙を渡してもらった。
どうせ手紙の中身はチェックされる。だから、『民間で流行っているものを知りたい』と公爵夫人から言われていたのを思い出し、流行り物を教えるふりをして暗号文にした。
公爵夫人が気付いてくれるかは賭けだったが、指定した日時と場所に公爵夫人は現れ、何も言わずに私の手を握った。
きっと言いたい事は山ほどあるのを押し殺して来てくれたのだろう。私も黙って固く握り返した。
夫人が去った後、私の手の中にはレイナ様の部屋までの裏ルートが書かれた紙が残っていた。
不敬も甚だしいが、こうでもしないとレイナ様と生涯会えない気がした。
「アメリア?」
フェロモンでわかるのか、足音を消して入ったのにあっという間に目の前に来られた。
レイナ様は首元にフリルの着いた可愛らしい薄ピンクの部屋着を着ていた。何を着ても似合う。
「どうしてここに?」
レイナ様が閉じ込められたと聞いて居ても立っても居られなくなった、とはっきりと言えない。バレバレだろうけど。
口ごもっていると、ふわりとレイナ様が笑った。
「来てくれて嬉しいわ」
「……舞踏会を抜け出した罰で閉じ込めるなんて酷くないですか?貴族様のやる事はわかりません」
「ああ、それは私が運命の番を見つけて、将来を共にしたいと宣言したからよ」
「……は?」
――いやいやいや!何してんの?
「それ……大問題では?」
「うん。みんな運命なんて気のせいだって言うの。でも、私が本気だってわかったら、母が泣き出して……」
「庶民の自分のせいだと?」
レイナ様は部屋着を握りしめて、少しだけ首を上下させた。
私でも自分が庶民なせいで娘に悪影響を与えたと思うだろう。
あの朗らかな夫人を涙させた上に、侵入の手引きまで頼んだ自分の図々しさに愕然とした。
「父も頭を冷やせって……それで自室に閉じ込められたのかな?いつもは味方してくれる姉や兄も今回は否定的みたい……変よね」
――変って?当たり前じゃないの?!?
レイナ様が本当に不思議そうにしているのが怖かった。幼いゆえに何も想像できていないのではない。といって、開き直っているのでもない。
「アメリア、本当は初めてあなたに会った時、庶民だと知って一瞬だけ戸惑ったわ。でも、貴方が私の番なのは必然だと思う」
「必然……?」
「私の母の事はユーマン姉様から聞いたでしょう?」
レイナ様の杏色の瞳が揺らいだ。
「貴族でない母の娘でも、私の家族は平等に……いえ、すごく私を可愛がってくれた。だから生まれを悪く言う声が聞こえた時、より辛かった。見返すために何もかも完璧であろうとしてたわ」
庶民の私がこの貴族学校に入学しただけでも冷ややかな反応なのだ。貴族の中で庶民の母を持つことがどれほどハンデになるか、私こそわかる。
「知ってますよ、すごく努力なさってます」
まだ初等部なのに、天文学や哲学など、分野を問わず難しい本を読んで理解できている。身分に甘んじず、学問に取り組んできたから高等部の私と対等に話せているのだ。
「アメリアは学校で浮いても自分を貫いていて凄いと思う」
「私は好きな事しかしてません。必要だと判断して好きでもない事を努力できる方が凄いんですよ」
厳しくして優秀であろうとしてきたせいだろうか、レイナ様は自分の評価が低すぎるのに気付いた。妙に腹立たしくなった。
「ささやかな事でも手を抜かないで、ちゃんと一つ一つ積み重ねられるレイナ様は本当に素晴らしい方です」
レイナ様はそっと私の手を取った。
「私をわかってくれるのはアメリアよ。庶民で努力を惜しまないから私をわかってくれるの。だから、アメリアを誰にも取られたくないのは当然よね?」
ふわっとレイナ様の薔薇のような華やかでも凛とした甘さのフェロモンの香りがした。きっと抑制剤を飲んでくれているので発情する程度ではなく、ほんのりと鼻をくすぐる程度だ。
「アメリアに苦労させるとわかっていても、私を選んで欲しい」
このフェロモンには弱い。
少しの香りでもくらくらする。
「ちょっと……、ここでフェロモン出すのずるくないです?!」
「ごめんなさい、アメリア……」
謝っていても確信的にフェロモンを出している。
潤んだ瞳の中は杏色で、金が混じったブルネットの髪色とのバランスも完璧。私の手を握っている手先まで整っている。全てを神様が気合を入れて作ったような美しさだ。美しいものに目がない私のために造ってくれたのだろうかと勘違いしてしまう。
「アメリアだって、さっきからフェロモンが出ていてよ?私だって精一杯我慢してるわ」
「レイナ様……オメガはアルファのフェロモンに反応するって授業で学びましたよね?」
「私が自然とアメリアを求めてしまうのは仕方ないわ」
――で、でたっ!反省なしの上、私が悪いって言い分ですよ。
「そっ、そうなんです……けど」
ピンク色の唇を尖らせたレイナ様は可愛らしかった。
――ずるい!可愛すぎ!!
「色んな障害があるのはわかっていてよ?でも、私はアメリア以外はいらない。貴方に私の横にいて欲しい。そのためならあらゆる努力をするわ」
するりと握っていた手をなぞられて、また心拍数が上がる。このまま上がり続けたら死ねるかも……。
「あの、少し手を離してもらっても良いですか?」
レイナ様は残念そうに目を伏せてゆっくりと手を離した。
私はレイナ様に背を向けて服のボタンを外して胸元に隠していたものを取り出した。
振り返って一輪の杏色の花を差し出した。
「まあ……アメリア」
「私は舞踏会なんて行けません。でも、わ、私の気持ちはわかってください」
顔中に血液が回って暑い。頭から汗が噴き出しているくらい真っ赤になっているのがわかった。
『目の色の花を贈るのは求愛の印』
最初は感じの悪さしかなかった。貴族の傲慢さしか無いと思った。
ユーマン様から生い立ちを聞いてから、劣等感や努力の裏返しなのだとわかった。必死に生きているレイナ様を支えたいとさえ思ってしまったのだ。
レイナ様は涙目になって微笑んで、私の震える手から花を受け取った。
「あなたの目の色の花を私にも贈らせて?」
レイナ様はそっと私の前髪を上げた。
「虹色で魅力的なのに隠しておくのはもったいないわ」
「人目について面倒なので」
覗き込まれたり、目の色だけでさらわれそうになった事もある。
「そうね、アメリアらしいし……その方が私も安心だわ。じゃあ、私はあなたにたくさん花を贈れるのね」
「え?」
「これから、いろんな色の花を贈るわ」
微笑みながら悠然と笑う美しいレイナ様を見て、私の心臓が跳ね上がって、また顔が赤くなって倒れるかと思った。
――死ぬほど……かわ綺麗……っ!!!カッコよく可愛いし綺麗ってなに?!?
「アメリア、かわいい。大好きよ」
愛しそうな甘い囁きに、腰から崩れ落ちそうだった。
杏色の瞳が細められ、頬は薔薇色でふっくら、唇は花のようだ。
私こそレイナ様がとてもとてもタイプなんだと今さらわかった。
今からこんなことでは、成長していくレイナ様に萌え死にさせられるかもしれないとまたしても命の危険を感じた。
最後まで読んでもらってありがとうございます。
本編をここで終わらせて番外編を書いて終わりにしようと思ってます。
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