運命はお貴族様?
オメガバーズのガールズラブです
一般的?なオメガバ設定です
運命はお貴族様?!
「あなたは私の運命の番よ」
目の前の華やかな美少女からいきなり発せられた言葉に固まった。金茶色の髪と杏色の瞳がキラキラしているのが眩しい!
制服を見ると初等部の生徒のものだった。
――なぜここに初等部の子供が?
びっくりして前髪の後ろにあるメガネがずり下がった。
私はいつものように図書室へ向かう途中だった。
「お姉様?ご存知ないかしら?運命の番っていうのは……」
私が固まったままなので、説明しようとしてくれたらしいのを止めた。
「いや、そうじゃなくて……そもそも初等部の子がなぜここに?」
――しかも私の運命の番??
「今日は初等部の高等部体験授業です。私は来年中等部に入学いたしますレイナ=フォン=ミッドフォードです。お姉様の名前は?何年生?」
――フォン……って、やっぱり貴族だし、ミッドフォード家って、あのミッドフォード公爵家だよね?!
私が150センチちょっとしかないチビなせいか、レイナ様はすでに私より背が高い。160センチくらいの背はこれからも伸びそうだ。それに顔が小さく手足も長い!いかにもアルファの名家です!ってDNAで語ってる。
お貴族様に名乗らせて庶民が名乗らないわけにいかない。
「アメリア=コーツです。この高等部には入学したばかりです」
名前で私が貴族でないとわかり、ほんの一瞬レイナ様の顔がこわばった気がした。
私はアメリア=コーツ。チビで痩せっぽちな庶民のオメガ。髪は真っ黒で勉強し過ぎて瓶底みたいなメガネをかけている地味な見た目だ。前髪は目の下まで伸ばしているので、暗闇で会うと妖魔かと驚かれる事もある。
そもそも髪の毛を切るのも面倒。伸びた時は自分で切っているのでいつもボサボサしている。勉強中はお風呂にも入りたくないくらいだ。(貴族もいる学校なので最低限の身なりをしていないと注意されるから、臭いと言われる前に寮の風呂に入っている)
勉強にのめり込んだおかげで貴族女学校の高等部の特待生枠で入学できた。
入学して1カ月ほど経って、やっと貴族女学校がどういう所かわかった。貴族でなければ人にあらずってことだ。
レイナ様は私が庶民だと知っても何事も無かったかのように微笑んだ。
「アメリア姉様、なぜそんなに前髪を伸ばすの?目を隠しているの?何色か見せてくれない?」
レイナ様にずいっと近付かれると、華やかな甘さの奥にクセになりそうなウッディの香りがした。笑うと完璧な美貌が少しだけ可愛らしくなる。
――も、もしやこの香りがフェロモン??!まだ子供だよね??
心臓が意思に反して激しく動いて、血が逆流するかと思った。正直、命の危機まで感じた。
それでも離れがたいと思えるほどに魅力的なフェロモンの香りに逃げ出したい足が固まる。
これまでアルファだらけの女学校で、香りを嗅いだだけでここまでの反応は無かった。
「アメリア?」
前髪の間から見るレイナ様は綺麗な大人と可愛い子供の間のような顔つきだ。明るい茶色系統の髪色と目の色が華やかな顔立ちをまとめている。
どんどん鼓動が強くなり、顔も真っ赤になっていくのがわかった。
「う、運命なんて……た、たぶん勘違いをされてます!忘れてください!では!」
――このままじゃ、発情しちゃうかもしれない!!
いよいよ危険を感じた私はこれまで走った中で一番早く走れた。
――何あの香り?こわいこわいこわい!
ミッドフォード公爵家といえば、この世で5本の指に入る名門公爵家だ。レイナ様は身分や能力、将来有望な美貌に至るまで、とにかく全ての頂点に君臨なさっていそうだ。
――私、庶民だから!ちゃんと身分の違いは心得てますので逆に踏み越えて来ないで欲しい!
番とか言っていたけど、きっとレイナ様は明日には私の顔さえ忘れているだろう。だって、権力のほぼ頂点の公爵令嬢と庶民の私だもの!
私は当然この学校で相手にはされない。ボサボサ頭の気味が悪く、いじめる対象にさえならない空気のような存在。私はそれでいいと思ってる。
生まれながらの勝利者たちにおしゃれだの舞踏会だの話をされても私も困る。舞踏会なんか行けないし、行かない。貴族様だって私に勉学の話をされても退屈なさる。
「こんにちは、アメリア」
忘れるどころか、レイナ様は出会ってから毎日高等部の図書室に顔を出して、私を待ち構えるようになった。
私は図書室で勉強をするのを誰かが教えたのだ。
「あの……もう少し距離取って座ってくれますか?もしもがあっても怖いです」
もしも、とは抑制剤を飲んでいるのに、私がいきなり発情した時の事だ。公爵家の娘のみならず周囲を巻き込んだら……絶対に私だけのせいになる。
隣に座っていたレイナ様はすぐに理解なさって、おとなしく一つ座席を空けて座り直してくれた。
チラリと盗み見ると、大人しく図書室の本を読んでいる横顔は彫刻のように美しい。
――正直、特待生枠にいるために恋愛とかしてる暇はない。出会った時、周りに人はそんなにいなかったし、番だという言葉も聞かれていないはず……
ところが、レイナ様の親衛隊は番発言を聞き漏らしていなかったようだ。レイナ様と出会って程なくして昼休みにクラスに突撃訪問された。
「アメリア=コーツ!返事をしなさい」
レイナ親衛隊は初等部ながらきっと上級貴族の方々で固められている。みんな髪のてっぺんから爪の先まで整えられた華やかな美少女ぞろい。
わざわざ私を探しに来た貴族のお嬢様方の呼び出しに答えないわけにはいかない。
「はい……」
おそるおそる返事をして、教室の入り口に進み出た私を見て、親衛隊からくすくすと嫌な笑いに包まれた。
『このさえないチビが?』と言わなくても伝わってくる。
――私だってわかってます。不相応だと!レイナ様のお隣には誰もが憧れるような方がふさわしいって。
栄養状態のよろしいお嬢様方は私より背が高く体格に恵まれている。そのままお嬢様方に囲まれ、裏庭に連行された。
「レイナ様の言葉を信じてはいないでしょうね」
「はい。信じておりません。失礼ながら勘違いをなさったのではないかと……」
「そうよ!運命の番は巡り会えたら奇跡的と言われている伝説の繋がりよ」
「もし仮にレイナ様の番でも、庶民のあなたを認められないわ」
「奇跡的な出会いでも、貴族でもないあなたが相手なんて……あり得ない」
――はい。全部、ぜーんぶわかってます。
「あのレイナ様が貴族らしからぬ態度を取るのは、あなたがそそのかしたのね?」
「はあ……?」
お嬢様方のご意見に忠実に返事をしていると、やっと予鈴が鳴った。助かったと思ったら、華やかなウッディの香りがして勝手に心臓がドクドクしてる。嫌な予感しかなかった。
「貴方たち、私の番に何か指導でもなさっているの?」
「レ、レイナ様!」
――れ、レイナさま?!ここで登場?しかも、また番って言った?火に油すぎる!
「私たちはレイナ様を思って……その、確認を」
――庶民は近寄るなって確認をな。
レイナ様ご登場に親衛隊長が慌てて説明をする。
この上なく素敵なタイミングのご登場に、普通ならきっとレイナ様に惚れてしまう!けど、私は意思とは無関係に体が反応する怖さを知った。
――香りでさえ反応するんだ。
「確認なんて私は頼んでいないわ」
レイナ様は表情筋の全てを無くしたような顔をしていた。
「でも!こんな庶民のオメガなんて……レイナ様が心配なんです」
親衛隊のリーダーらしい子が食い下がった。
瞬間、レイナ様の温度がすぅっと下がった気がした。
「皆様に伝えてくださる?庶民と話す必要はありませんわ」
ふとレイナ様の美貌に陰りが見えた気がした。
――つーか、レイナ様も庶民呼ばわりするって……。どっちの味方がわかんなくないですか?……きっと貴族の頂点に立つレイナ様は悪気なく無意識に事実だけを仰っているのだろう。
親衛隊の方から方々は嬉しそうに私を見た。
「そうよね、本来なら口をきかない身分ですもの」
あ、またいつもの蔑みの無視のことね。
貴族たちは庶民に話しかけられても返事をしない方もいる。庶民はいないものとして扱うのだ。
「あの!予鈴も鳴りましたので、授業へ行っても宜しいでしょうか!?」
レイナ様はここで私が再び逃げるとは思っていなかったのか、驚いて固まっていた。
年下の初等部の貴族たちから、しっかりと、明らかな、蔑みを受けてから、私は教室まで走った。
抑制剤を飲んでいるとはいえ、香りだけで反応するアルファの側に居続けるのは怖い。
高等部に入学して一ヶ月くらいだけど、もう貴族にアレルギーが出そうだ。
口を開けば噂話か流行の衣装やメイクの事ばかり。女学校でしっかり学ぼうとしている私が珍しいようで、『パンが無いならお菓子を食べればいいじゃない』風に不思議そうにされる。
こいつら貴族が私たち庶民が働いたお金を吸い上げているかと思うと腹立たしい。
――あんた達のドレス代でどんだけ本が買えると思ってる?!
そう言っても通じないのが虚しい。
単なるやっかみだと笑われて終わりだ。
「マジで貴族ってクソだわ」
明るい陽射しが白磁の壁と廊下を照らしていた。
この設備は貴族様たちからの献金のおかげ。
その献金は……庶民の税金。
正論で世の中は回ってないという正論を教えてくれたのは、この学校だ。
読んでもらってありがとうございます。
まだ第1話ですが、
『面白い』『続きが気になる』等、思ってくれたら
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