タルタル戦争
汝はタルタルを求めるか?
時間は夕飯時、外は暗くお昼を食べてから7時間ほど経っているがために、お腹はちょうどよく空いていた。
目の前のテーブルには美味しそうな料理が並べられていた。ご飯と味噌汁、サラダがそれぞれの席の前に置いてあり、中央には大皿でおかずが置いてあった。
それが今日のメインのおかずであり、夕飯を彩る主役。これが今日の楽しみとも言える品。
それは美しい色をしていた。狐色の服に身を包み、ワンポイントの赤い尻尾が覗く。
そう、今日のおかずは『エビフライ』だった。
エビフライには調味料をかけるのが一般的だろう。タルタルやソース、塩とか醤油なんかをかける人もいる。
この家庭にも調味料が用意されていた。食卓には先ほど挙げたものが並んでいた。
しかし、その中でタルタルだけは少ないように思えた。
使えて1人分だろうという量が残されていた。
それを見ながら2人の女性が話をしていた。
「『タルタル戦争』それは遥か昔から行われているタルタルを巡る熱き戦いである!!
そう、今日もありふれた一般家庭の中でもそれは行われているのであった!」
「なにお姉ちゃん、このナレーションは?タルタル戦争とか聞いた事ないんだけど?てか、別に私タルタル求めてないんだけど?」
「分かる?結局タルタルが最強なのよ!熱々でサクサクの衣につけるなら何?って聞かれたらそれはタルタルしかないわけでしょ?私なら間違いなくタルタルしかないって答えるけどね?」
「待って待って待って!分かんないよ!お姉ちゃんがタルタル好きなことぐらいしか分からない!」
「はぁ、呆れるね。それでも私の妹か君は?熱きタルタルが身体に流れていないのか?」
「流れてないよ!え、何?お姉ちゃんは身体に血じゃなくてタルタルが流れてるの?じゃあ私はお姉ちゃんと別の姉妹どころか別の生物だよ!!」
「へい、マイシスター。悲しいことを言うなよ、私とはタルタルを分かち合ったら姉妹じゃないか!タルタルの誓いはどこへ行ったの?」
「タルタルの誓いって何?私そんなのした覚え無いんだけど?てか、私そんなにタルタルに熱意ないんだけど?そのタルタルはお姉ちゃん使えば良いじゃん。私ソースかけるから」
「いや!それは出来ない!私は知ってるよ。我が可愛い妹はお姉ちゃんの事が大好きだからタルタルを譲ってくれているが、本当はタルタルがかけたくて仕方がないという事は!」
「いや、無いから、そこまでの熱意とか無いから。なんならお姉ちゃんの事が嫌いになりそうだよ」
「まぁまぁ、皆まで言うな、皆まで言うな。お姉ちゃんは分かってるよ?」
「まるで分かってないよ?」
「じゃあ、このタルタルをどっちが使うか早速決めようじゃないか!!そう、『タルタル戦争』でね!」
「だから『タルタル戦争』って何!」
「ふっふっふ、時は戦国時代!まだタルタルが存在しなかった時代!」
「じゃあ戦争起こってないじゃん」
「これから出てくるの!戦国武将達は日々争っていた時代!そんな時代に黒船に乗ってそれはやってきたのだ!」
「黒船は時代違くない?」
「え、そうなの?じゃあ別の海外からの船で」
「適当だなー」
「ゴホンッ!それは海外からやってきたのだ!そう!タルタルがね!これは日本人たちにとっては革命だった!どんな料理にも合うポテンシャル!その美味しさは、たちまち全ての人間を魅了していった!」
「規模が大きくなりすぎだよ」
「だが、ここで悲劇は起こった!タルタルは全ての人々を魅了しすぎてしまったのだ!!そのせいで、全てのタルタルを自分のものにすべく武将達が争い始めたのだ!!そう、それが『タルタル戦争』!」
「全ての武将に謝った方がいいと思う」
「これが現代まで続く人類のタルタルを巡る戦いって訳だよ」
「じゃあ何、今から私たちは殴り合いでもするの?」
「ノンノン!そんな野蛮な事はしないよ!タルタルを前に殴り合うなんてナンセンス!タルタルの神様に怒られちゃうよ?」
「そんな神様なら怒られても困らないと思うけど・・・・・・じゃあ、何するのさ」
「そんなの決まってるよ!タルタルへの愛がどれだけ強いかを語る競技だよ!」
「競技なんだ」
「よしっ!じゃあ私の先行!!私はタルタルを愛している!!!!」
「うるさっ・・・・・・もしかして、この競技声の大きさを競っているの?バカ競技なの?」
「さぁ!君の番だぜ!」
「え、じゃあ、あいしてまーす。はい、これでいいでしょ?」
「くっ、つ、強い!」
「いや、なんで?明らかに愛なかったよね?」
「内から溢れ出るタルタル愛が伝わってくるぜ!さすがは私の妹、手強いね?」
「何そのバトル漫画の主人公のようなセリフは?私、熱い戦いじゃなくてあったかいご飯が食べたいんだけど?」
「さぁ!次は私のターンだ!うおぉぉぉおおお!タルタルの良さはそう、その美味しさ!タルタル単品でも飲めるのだよ!」
「飲まないでね?」
「そして何よりも揚げ物に一番合うのがこのタルタルソースなのだよ!」
「急にちゃんと語る競技になったよ」
「はぁはぁはぁ、さぁ妹のターンだぜ?」
「なんでそんなに疲れているのか、よく分からないよ。えー、タルタルの良さ?まぁ、美味しいとは思うよ。毎日とかはくどいかもしれないけど、食卓にあったら嬉しいよね」
「くぅー、良いこと言うね!さすがは妹!!タルタルの申し子!!タルタルと呼ばれるだけはあるね!!」
「そんな嫌な呼び名で一回も呼ばれたことないんだけど?」
「だが私も、小中高大学でタルタルと名乗ってきた女!!」
「呼ばれてたんじゃなくて、名乗ってたんだ。私、私お姉ちゃんの妹やって20年だけど、初耳だよ?」
「タルタルの力見せてやるぜ!」
「お姉ちゃん自身がタルタルになっちゃったよ」
「タルタルパワー全開!私は、今ここで!スーパータルタルになる!」
「もうわけが分からないよ」
ガチャりとリビングの扉が開く。
「ただいま・・・って、アンタ達またアホな事やってたの?仕事遅くなりそうだから、ご飯先に食べちゃいなさいって言ったでしょ」
「あ、お母さん!おかえりー」
「お帰りなさい。お母さん!私はアホじゃない、お姉ちゃんがアホなだけ!」
「まぁいいわ。ほら、タルタル買って来たわよ。確か少なかったわよね?」
「やったー!タルタルが増えたよ!これで仲良くタルタルをかけられるね!」
「私ソースでいいんだけど・・・」
「ゴホンッ!こうしてタルタルを巡る熱き戦いは幕を閉じたのだった。しかし油断してはならない!どこかの家庭で『タルタル戦争』は日々行われているのだ!!」
「変なナレーションで締めたよ」
「『タルタル戦争』!!!完!!!」
「ねぇ、結局タルタルはかけないの?」
「かけないよ?私はエビフライはソースで食べたいの」
「そっか、じゃあご飯には?」
「かけないよ?」
「じゃあ味噌汁派かー」
「入れるか!!」




