ゴミ捨て場に人だかりができていた話
落とし噺が好きなんです。
「今日はぁ~燃えぇるぅ~ゴミのぉ日ぃよぉ~っとぉ……ったく姉ちゃんもよお。連絡もなしに急に来るってぇだけでも迷惑なのに、『旦那とケンカした! わかれてやる! とりあえず一泊させろ~!』とか。居候すんならするで、宿代代わりにゴミ出しぐらいしろってぇの――て、お? なんだ? ゴミ捨て場に人だかり? ちょいとごめんよ! 通してくんな! ゴミ、出してえんだわ! ……ふぅやれやれ。やっと通れたぜ」
「おうオメェか。きちんとゴミ出しするたぁ感心じゃねぇか」
「あれ? なんで兄ぃが? ここ、オレの町のゴミ捨て場だよ?」
「ああ。実ぁこれ、なんだがよ」
「……あ。女じゃねぇか。ま~ゴミの上で、酒瓶抱えてイビキなんかかいちゃって」
「これな。明け方ぐれぇからずっと喚いてたんだよ。俺ぁここいらの顔役だろ? どうにかしてくれって陳情が来ちまってなぁ。そんてもまぁこれも仕事だしって出張って宥めたんだが……そしたら今度はこれよ。さすがにどうしたもんかと思ってなぁ」
「どうって、起こせばいいじゃないの」
「簡単に言うなよ。ほれ見ろ、こいつを。この辺の人間じゃねえだろ? 起こすってこたぁ肩なりなんなりに触るってことじゃねぇか。ご近所さんならともかく、知らねぇ女に下手に触ってみろ。目ぇ覚ますなり『痴漢~!』とか言われたりしたら、面白くねぇじゃねぇか」
「へへっ、なるほどね……にしてもまあ、こいつよっく寝てるねぇ……この様子じゃあたぶんカレシとケンカでもしたんだろうけど――って、あれ? 姉ちゃん!?」
「は?」
「や、だからこいつ、オレの姉ちゃんだ!」
「えっ!? これ、オメェの姉さん?」
「そうだよ兄ぃ! こいつ、オレの姉ちゃんだよ! なんだよ姉ちゃん! ついさっきまで人のベッド使ってグ~スカいびきかいてると思ったら」
「ついさっきまで? おい。ついさっきっていつだ?」
「ついさっきはついさっきだよ。オレが部屋出た時は、まだいびきかいてたもん」
「あーじゃあ違うわ。俺がこれの相手始めたの、かれこれ1時間も前だしな」
「いや違わねぇって。これ、オレの姉ちゃんだよ。弟のオレが言うんだから間違ぇねぇだろ?」
「いや~、でもよ。俺の知ってる姉さんとは、ちぃとばかし見た目が違ったような気がするんだよなぁ……だってほら。オメェの姉さん、どっちかってぇと顔シュッとしてたよな? けどこの人、結構な丸顔じゃねぇか」
「そりゃあ昨日遅くまで浴びるほど飲んだんだもの。酒飲みゃあ顔ぐれぇ腫れるだろ?」
「でも俺の知ってる姉さんはもっと小柄だった気が……」
「あのね兄ぃ。酒飲むと顔が横に腫れるのよ? だったら、同じように体が縦に腫れたっておかしくねぇでしょ?」
「……なら、ほくろはどうだ? オメェの姉さん、両目の下にほくろ、あったよな? でもこいつには見当たらねぇじゃねぇか?」
「あ~……姉ちゃん泣き上戸だし、泣いたら流れたんだろ」
「……」
「んだよ兄ぃも疑り深ぇなあ。分かったよ。じゃオレ、今から部屋戻って当人連れて来っから」
「は?」
「や、だから。今からオレ、一旦自分の部屋に戻って、姉ちゃん連れて戻って来っから。そんで姉ちゃんがこれ見て、『あ。これは確かにわたしです』ったら、そりゃもう間違いねぇだろ?」
「いやちょっと待て。そりゃさすがにおかしいだろ。オメェの部屋で寝てるのが姉さんで、今ここで寝てるのも姉さんなら、オメェの姉さん、二人いるってことになっちまうじゃねぇか」
「……? あ~……そう言われりゃそうだな……?」
「だろ? だからこいつはオメェの姉さんじゃねぇんだよ。わかったらさっさとそのゴミ、出しちまって――」
「そうか! オレの姉ちゃん今旦那とケンカ中でよ。『わかれてやる!』とか言ってたから、たぶんそれで――!」
「あのな……姉さんが言った『わかれる』ってのぁ、『旦那さんと別れる』って意味であって、姉さん自身が『二つに分かれる』って意味じゃねぇと思うぞ?」
終劇




