③
ニコライ様が、ご自分に対する噂を気にされているのでしたら、悪女と噂されている私はどうなりますの?
私の噂をご存知でしょう?
ふふふ、ニコライ様、実は今回神殿へ滞在することを決めたのは、とても浅はかな考えでしたの。
ある方に人並みになれ、と言われまして、自分の噂を払拭しようとこちらに参りましたの。
ニコライ様は、私のことを噂と違うと言ってくださいましたわ。 私自身を見てくださり、耳を傾けてくださいましたわ。
ここでの経験は、私にとって初めてのことばかりで、とても充実しております。
それは、ニコライ様のおかげですわ。
ニコライ様には、感謝しかありません。
お優しい方です。
ニコライ様がもし、誰かに何か言われたとしたら、私が黙っておりませんわ!
こんな、私では、頼りないでしょうけれど……」
って、私ったら、勢いよくとんでもない発言を……。
思わず手を包むように握ってしまったけれど、
ど、ど、どうしたらいいのでしょう?
い、い、いつ離せばいいのでしょう、
何かおっしゃってくださいニコライ様。
ニコライ様は、ただ黙って静かに座っていた。
ドク ドク ドク と自分の心臓の音が聞こえる。
手を、手を、離しましょう。
マリーベルは、添えていた手を離そうと動かす。
「⁉︎」
すると、マリーベルの手を今度はニコライが握りしめる。
その手の温もりが、嫌ではなかった。
私達は、目を見合わせると、手を繋いだまま、軽く微笑み合う。
「マリーベル様、あなたにお話しして、なんだか気分がすっきりしました。
これで、心置きなく自分の信念を貫けそうです。」
ニコライ様は先程とは違い、とても晴れやかな表情をしていた。
「マリーベル様。私も、あなたが誰かに悩まされるようなことがありましたら、黙っておりません。 例え相手が誰であろうとも。
私が、必ず、あなたを必ずお守りいたします。」
私に真摯に向き合ってくださるニコライ様。
真っ直ぐに見つめてくるその瞳には、とても温かい感情がこもっていた。
その瞳に見つめられると、落ち着かなくなる。
胸がこんなにざわつくのはどうして?
ニコライ様の瞳の中に、自分の姿が写っている。
たったそれだけのことなのに、なんだか嬉しくなる。このままずっと、私を見ていてほしい。
この気持ちは、何なのかしら。
「さぁ、難しい話はこれぐらいにして、ミシェルの元へ行きましょう。
ミシェルも、そろそろ文句を言いはじめる頃でしょう。」
ニコライとマリーベルは、手を繋いだまま立ち上がる。
そうして、手を繋いだまま一緒に歩きだした。