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ニコライさまは、さりげなく私の荷物を持ってくれた。
「先程の場所では、主に書類作業をしております。こちらの廊下を抜けると中庭にでます。」
「わぁ。」
そこには、大きな女神像が設置されていた。
色とりどりの花に囲まれて、神秘的な雰囲気だ。
「こちらは、一般の方が立ち入ることはできまん。
神殿に滞在されている方や、ご寄付された方などは立ち入ることができます。
こちらの女神像は、一般公開されている女神像とは少し違うのです。
こちらをご覧ください」
ニコライは、女神像の手元を指し示した。
女神像の両手には、花束が抱えられている。
その花の部分は、光が反射してキラキラと輝いていた。
「これは、もしかして宝石?」
「えぇ。綺麗でしょう?
こちらの花束は、ジャクリーンさまよりご寄付いただきました。
マリーベルさまは、ご存知だっかもしれませんね」
「いいえ、初めて知ったわ」
ニコライは怪訝な顔をする。
「そうですか。同じ侯爵家として交流があるかと思ったのですが…」
「まぁ、ジャクリーン様は侯爵家の方でしたのね。」
「え?」
ニコライはまたしても固まっていた。
「ジャクリーンさまをご存知ない? そ、そうですか」
ジャクリーンさま……お会いしたことあったかしら?
「ごめんなさい、私、名前を覚えるのが苦手で。
夜会などでは、いつも侍女のエレナに耳打ちしてもらっていたの。」
「ジャクリーンさまは、何かと目立つことが多いですから。 あの方のことを気にも留めないマリーベルさまは器の大きな方ですね。
では次に、こちらの耳元もご覧ください。
こちらは、レイチェルさまよりご寄付いただきましたイヤリングです。」
女神像の両耳には、大きな宝石がぶら下がっていた。
「レイチェルさまも侯爵家の方ですが、交流
はありませんか?」
「いいえ、レイチェル様とジャクリーン様はご姉妹なのかしら?」
「……?」
「お二人とも、侯爵家の方なのでしょう?」
「レイチェルさまとジャクリーンさまは、ご姉妹ではありません。
その……マリーベルさまはご存知と思いますが、我が国には4つの侯爵家があります。
レイチェルさまは━━」
「まあ、そうだったの?」
気にしたこともなかったわ。
苦手な分野の勉強は、エレナが全部してくれていたわ。
一般教養がないと、ニコライ様に呆れられたわね。
「マリーベル様は……
きっと他にご興味があることが多いのでしょうね。
周りと張り合わない姿勢を貫かれるマリーベル様には、かないませんね」
「いいえ、張り合わないだなんて…」
私を傷つけまいと、優しい言葉を選んでくださるニコライさま。
無知な自分が恥ずかしい。
「ジャクリーンさまより、こちらの花束をご寄付いただいた事が噂になるとすぐに、レイチェルさまがご寄付に訪れました。
寄付という名目で女神像を着飾り、ステータスを誇示されているのですよ」
女神像を改めて見る。至る所に宝石が散りばめられており、様々な方がご寄付されているのが窺える。
「勝手に派手に着飾られて、なんだかかわいそうだわ。
あの、不謹慎なことを言ってしまい申し訳ありません」
「いいえ、お気になさらず。
私も、あまりこちらの女神像は、好きではありません…」
ニコライは、複雑な表情で女神像を見上げていた。
「マリーベル嬢、あなたとは仲良くなれそうです。そろそろ行きましょう」
颯爽と歩き出すニコライを追いかけるようにマリーベルは後に続く。
ニコライ様は、何か悩まれているのかしら。
先程のニコライの顔が、マリーベルの頭の中から離れなかった。
「こちらが、神官長のお部屋です。神官長と話したいことがありますので、少しこちらでお待ちいただけますか?」
「えぇ。」
ニコライはマリーベルを残して、一人で室内へと入室した。
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