7.錬金術で魔結晶を作ろう
「そろそろ魔法を使ってもいいぞ」
倒れてから約三週間。
ここまで長かった。森に散歩に行く許可が出たのだってつい五日前のことだ。
森の歌を大合唱しながら少し長めに。体力の衰えはさすがにどうしようもなかったので、途中途中で休憩を挟んだ。
そしてついに、魔法の使用許可、つまりは錬金術に取りかかる許可が降りたのである。
嬉しくないはずがない。ルクスさんを抱き上げながら、ゆっさゆっさと左右に振る。
「本当ですか!?」
「ああ、これまでよく我慢したな」
「じゃあ早速空調管理アイテムを!」
「魔結晶の錬成法を身につけるのが先だな」
「魔結晶なら錬金術を使わなくても作れますよ?」
「だから錬金術に慣れるにはちょうどいい。釜の使い方もそれで慣れたら、その次は魔核作りが待っている」
「あ、そっか。そっちが先ですね」
「芋小屋もかなり重要だが、まだ生きているからな。亀蔵が錬金獣だとバレた時の言い訳作りが優先だ」
「核は作るにしても、亀蔵の存在は王都の人にも知られちゃってますし、バレた後の言い訳は他に考えないと」
「いざとなったら亀蔵は人嫌いの錬金術師が作り出した錬金獣ということにすればいい。完全に滅びた技術なら問題は生じるが、小娘が数年で習得できた技術なら、他にも習得している者がいても不思議ではないだろう。あの森は人の出入りもほとんどないのだから何とでも言い訳が出来る」
つまり『錬金術を習得出来た者なら魔核を作ることが可能である』ことを証明しろということか。
だが錬金術師がシルヴェスターに居たことにすれば、後々お父様に何かしらの追求が来るかもしれない。
錬金術師は国の宝である。
亀蔵の力はお父様が王都でバッチリと披露してしまったため、どうして秘匿していたのかと責められてしまうかもしれない。
心配はある。だが守る対象が『どこかの錬金術師』ではなく『亀蔵』となればお父様も全力で相手を丸め込んでくれることだろう。
そもそも勝手に大会に参加させたお父様が悪い。国王陛下であろうとも論破して欲しいところだ。
もしもの時はお父様に丸投げすることを決め、釜のセットを開始する。
何かを作り出す際には材料が必要である。これは錬金術に限ったことではなく、料理も一緒だ。だが料理とは違い、中に入れたいもの全てを用意する必要がないのが錬金術である。
ある程度は魔力や釜の力でどうにか出来てしまうのだ。
そう考えると錬金釜がいかに重要かを改めて実感する。
「まずは使用準備からだな。釜の縁に沿って薄い風の膜を作れ」
「はいはい~」
「そこに雷を追加。完全に混ざり合ったのを確認してから釜の三分の一ほどまで水を注ぐ。水面の揺らぎが落ち着いたら釜の下に火をくべろ。ここまで済んだら魔力が馴染むまで少し放置だな」
「そういえばヘラ、用意してなかった。お父様に作ってもらおうかな~」
「それなら待っている間に土魔法で作るといい」
「溶けません?」
「少しずつ中に混ぜていくのが目的だから溶けて良い。といっても簡単に溶けないように強く固めておけ」
「消耗品なんですね、了解です」
今はまだヘラの土にはこだわらなくて良いとのことなので、小屋の前の土を使用した。
大事なのは込める魔力の方だとか。
ただしこの先、質の高いものを作る時はそれ相応の土を用意するようにとも告げられた。
このヘラだが、素材は良質な木でもいいらしい。
木の場合は土と違って溶け出すことがないので、使用する度に土の魔力を込める必要があるそうだ。
本には書かれていなかった内容に、先ほどからコクコクと首を縦に振ってばかりだ。
釜の準備が整ったら、魔結晶作りに取りかかる。
ルクスさんが釜に慣れるため、と言っていただけあって、魔結晶作りはとても簡単だった。
一、釜の上に手をかざして魔力を注ぐ。
二、ヘラでぐるぐると混ぜる。
三、浮上してきた塊をすくい上げる。
以上!
上手く出来ればピンポン球くらいの魔結晶が取れる。
だが注いだ魔力が少なかったり、混ぜ方が足りなかったりすると、小さい石みたいなのが大量に浮き上がってくる。
成功と失敗が一目で分かるというのも、練習に選ばれた理由なのだろう。
ちなみにこの小さいものは力を込めてもくっつくことはない。完全なる失敗品である。
大量に出来たそれをコップで掬いながら、粉末状にして蜂蜜と絡めれば食べてくれるかな? なんて考える。
掬ったものは軽く水を切って、机の上のハンカチの上に広げていく。
この作業、地味に面倒くさい。
特に水を切るところ。小さいものは指とコップの接地面から水と共に落ちてしまう。
取っ手付きの水切りザルが欲しい。ラーメン屋さんが湯切りで使っているあれがあればもっとスピーディーに出来るはずだ。
だがこの面倒くささと若干の苛立ちを感じるから、次はもっと上手くやろうという向上心に繋がるのだ……多分。
少なくともこれのためだけにザルをねだる気にはなれない。
一刻も早く上達したいところだ。




