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4.錬金釜を作ろう

 帰ってすぐに小屋の前に土を広げ、魔力を流していく。

 時間をかけるのは、少しずつ自分の魔力を馴染ませていく必要があるから。一気に流し込むと定着しづらいそうだ。また十分馴染んでいない状態で釜作りを始めれば失敗してしまうとのこと。


 馴染んだかどうかはルクスさんと亀蔵が判断してくれる。

 特に亀蔵はこの道の先輩だ。芋畑、ぶどう畑、たまに林檎園も手伝っているので、かなりの経験者である。


 頼りがいのありすぎる彼らが細かいバランスを見てくれるおかげで、私は魔力を送ることに集中出来た。


 相性が良い。そう自分でも思うほどにぐんぐんと土に自分の魔力が馴染んでいくのを感じる。



 午後にはイヴァンカが持ってきてくれたアップルパイを食べながら休憩して、また再開する。

 以降、食事とおやつ、お風呂と睡眠以外のほとんどの時間をこれに費やすことになった。


 お散歩も休むこと十二日。

 ようやく土が私の魔力と馴染んだ。


 早速釜の形に成形して、細かい模様も入れていく。

 模様といっても難しい模様ではない。亀蔵の背中の模様と同じ、亀甲模様である。私にとっての願掛けのようなもの。今回は各属性の魔力を注ぐ行程が決まっているので、木の棒で少しずつ削って作った。


 小さめの穴の上に釜を移動させ、両手を合わせる。


「どうか上手く行きますように」

「かめかめかめえ」

「心の準備はいいか?」

「はい」


 ルクスさんの指示で釜作りを開始する。

 水魔法を使い、釜の中にゆっくりと水を注ぐ。大体八割ほど。あまり入れすぎるとぐらぐらと揺れてしまうらしい。


 次は火の魔法。釜の下に作った穴にはそこに通じる横穴を作ってある。そこから火の魔法を投入するのだ。


 あまり強すぎず。けれど途中で燃え尽きないように。

 薪や枝などの固形燃料を投下できない上、中の状況が見づらいため、注意が必要だ。

 ルクスさんが知る中でもここが一番失敗の多いポイントだそうだ。


 だが初めから失敗率が高いと知っている箇所をみすみすスルーする私ではない。

 ここをカバーするための特別ゲストとして、ファドゥール領から火の精霊さんにお越し頂いている。


 この二つでしばらく煮込む。

 大体半刻ほど。水が半分になった辺りで次の行程に入る。

 土と水の様子は亀蔵が、火の様子は精霊が見てくれているので、私はその間、しっかりと休憩を取っておく。


 イヴァンカ特製 蜂蜜ドリンクと林檎のマフィンを食べながら、朝から疑問に思っていたことを尋ねる。


「ところでいつの間にタトゥーなんて入れたの?」

 彼女の左手の甲には蔦と葉の模様が描かれている。以前土をもらいにいったときにはなかった。植物に詳しくないので、何の植物を描いたものかは分からないが、生命力を強く感じる。


「ウェスパル達が来た次の日に起きたら出来ていたのよ。精霊達のいたずらかなと思ったんだけどなかなか落ちなくて。でもオシャレだし、いいかなって思ってるの」

「私もイヴァンカによく似合ってると思う!」

「そうでしょ。私も愛着が湧いてきているの」

「それはいたずらなどではなく、精霊王の加護だぞ」

「加護?」

「加護」

「でも加護って、そんな簡単に与えられるようなものじゃ……」

「神にもよるが、精霊王は偏屈なやつだからな。よほどのお気に入りでもなければ加護なんてやらんだろうな。よほど気に入ったのだろう」

「まさか精霊王も胃袋を掴まれて!?」


 加護とは、神がお気に入り中のお気に入りにのみ施す祝福のようなものだ。

 神からの加護を受ける者の多くは神のパートナーであることから、加護を受けた者はその神から寵愛を受けていると判断される。


 だが加護を受けるもののほとんどが神と同じ種族もしくはその神を信仰している者のはず。

 イヴァンカは精霊と共存関係にあるとはいえ、精霊王を信仰してはいない。


 きっかけがあるとすれば先日、彼女が精霊に持たせたアップルパイか。

 加護はさすがにやりすぎだとは思うが、ありえない話ではない。なにせ元神のルクスさんの胃袋はガッツリ掴まれているのだから。


 イヴァンカの愛情たっぷりアップルパイは精霊王にもクリーンヒットしたのか、とウンウンと頷く。だがそうではないらしい。


「アップルパイが美味かったというのもあるだろうが、そもそも精霊王は精霊の神だ。自分と直接関わりのない他種族に加護を与えることは、基本的にはない。あるとすれば、その対象へ加護を与えるに値するだけの貢ぎ物を精霊王に捧げた精霊がいた時だろうな」

「この子達が魔結晶を欲しがったのは、私のため?」

「だろうな」

「そんなことって……」

「それだけ心配で、それ以上に大切なのだろうな。精霊達から愛された証拠だ」


 ルクスさんの言葉にイヴァンカはボロボロと泣き出した。

 心配して集まった彼らを一人一人抱きながら、ありがとうありがとうと繰り返す。

 その姿を見ていると、自然と私の目にも涙が溜まっていく。



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