表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/175

31.お祖父様からの贈り物

 寒い冬が明けて春の温かさを感じ始めた頃、それは届いた。


「お祖父様から? なんだろう?」


 両手に抱えるほど大きな箱である。黄色いリボンには手紙が引っかかっていた。

 ひとまず箱を机に置き、手紙を開く。ウェスパルの身体を気遣う文から始まってた手紙には、箱の中身と三日後に控えたお茶会について触れられていた。


「なんだって?」

「ルクスさんの服だそうです」

「は?」

「ハウスはシロにあげちゃった代わりに、今度のお茶会に着ていく服を用意してくれたようで」


 リボンを解いて中を確認すると、男性用の服が入っていた。

 ネクタイは色違いで三本。赤・青・黄と信号カラーである。といっても色味は信号のように明るくはない。服と合わせてシックに出来上がっている。


 普段、イザラクが頼んでいる針子に作ってもらったのだろう。どれもルクスさんが気に入りそうなデザインだ。


 それにちゃんと尻尾用の穴も作られている。

 どうやら芋掘りの際に、イザラクがチェックしていたらしい。全然気付かなかった。何着も尻尾穴を作った私から見ても、サイズ感はちょうどよさそうだ。


「……服ならたくさんあるだろうに」

「まぁいいじゃないですか。とりあえず両方着てみましょうか」


 呆れつつも人の姿になってくれる。

 本当は私が新しい服を用意してあげたかったのだが、それは今度の機会に取っておくことにしよう。服を手渡し、背を向けて着替えを待つ。


「終わったぞ」

「似合いますね。それに首回りや腕の長さもぴったり」

「我は何を着ても似合う」

「ネクタイどれにします?」

「青」

「即答ですか? 赤も大人な感じですし、黄色だってルクスさんの瞳の色と合っていて綺麗だと思いますよ?」

「そちらも悪くないが、ウェスパルのドレスは青だろう」

「そうですけど、私に合わせちゃっていいんですか?」

「色が同じなら一目で連れだと分かるだろう。他の二本も他の機会に使うから構わん」


 色どうのこうの以前に、尻尾が生えている男性を連れてくるような人は私以外いない。

 それに基本的に知り合い同士で固まって動くので、初参加でも隣にいれば確実に連れ認定されるものだ。いくらルクスさんの顔が良いとはいえ、今回参加するのは地元の社交界である。注目を集めることはあっても、喧嘩を売ってくるような令嬢はいないだろう。


 とはいえ、私も他の二本に特別こだわりがある訳ではない。お茶会には青のネクタイをしていくことに決まった。




 お茶会当日。

 ファドゥール家の馬車で会場に向かうこととなった。亀蔵はお留守番で、ルクスさんは私の隣。

 ギュンタは用意の関係で、昨日には出発したようだ。


 用意、とは何のことかと思ったが、よくよく考えてみると、今回の主催はザルザック伯爵家。

 スカビオ家の親戚筋に当たる。また私達より三歳年下のザルザック伯爵令嬢は美意識が高い。石けんを大々的にアピールするつもりなのだろう。


 伯爵家に到着し、庭園に通される。すでに多くの令嬢・令息が到着していたらしい。夫人自慢のバラに囲まれながら、お茶やお菓子を楽しんでいた。


 ルクスさんもすぐ、それらに食いつくかと思いきや、私の横にピタリとくっついている。イヴァンカと二人して「あのお菓子とか美味しそうですよ?」なんて声をかけても空返事である。辺りを見回しながら警戒しているように見える。



 ほぼ一年ぶりの社交界なので、少しは緊張していた。

 だがルクスさんと周りの人達を見比べているうちに和らいでいく。最後に参加したお茶会は王都だったが、ここは地元である。


 全体的にほのぼのとしており、交流はしつつも基本的に仲の良い子同士で固まっている。他の地域がどうかは知らないが、うちの地域は毎回こんな感じだ。


 王都のお茶会のように足を引っ張りのし上がる! という気はまるでない。むしろみんなで仲良くのほほんと。


 家同士の身分の差だとか、両親の家柄も一切関係ない。私のお母様は平民だったが、平民と結婚する家もそこそこある。


 そのおかげで社交嫌いなお母様も、地元で開かれるものは比較的参加しやすいそうだ。シルヴェスターの妻としてやや持ち上げられ気味で、気を遣われるのは慣れないようだが、悪意が全くないそうなのでそこは気が楽だと。


 この雰囲気で慣れているので王都のギスギス感は辛かった。



「見てあの髪……」

 私の方を見て、コソコソと話している令嬢達の視線も痛くはない。だが初参加のルクスさんには分からなかったようで、不快そうにギロリと睨む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ