31.お祖父様からの贈り物
寒い冬が明けて春の温かさを感じ始めた頃、それは届いた。
「お祖父様から? なんだろう?」
両手に抱えるほど大きな箱である。黄色いリボンには手紙が引っかかっていた。
ひとまず箱を机に置き、手紙を開く。ウェスパルの身体を気遣う文から始まってた手紙には、箱の中身と三日後に控えたお茶会について触れられていた。
「なんだって?」
「ルクスさんの服だそうです」
「は?」
「ハウスはシロにあげちゃった代わりに、今度のお茶会に着ていく服を用意してくれたようで」
リボンを解いて中を確認すると、男性用の服が入っていた。
ネクタイは色違いで三本。赤・青・黄と信号カラーである。といっても色味は信号のように明るくはない。服と合わせてシックに出来上がっている。
普段、イザラクが頼んでいる針子に作ってもらったのだろう。どれもルクスさんが気に入りそうなデザインだ。
それにちゃんと尻尾用の穴も作られている。
どうやら芋掘りの際に、イザラクがチェックしていたらしい。全然気付かなかった。何着も尻尾穴を作った私から見ても、サイズ感はちょうどよさそうだ。
「……服ならたくさんあるだろうに」
「まぁいいじゃないですか。とりあえず両方着てみましょうか」
呆れつつも人の姿になってくれる。
本当は私が新しい服を用意してあげたかったのだが、それは今度の機会に取っておくことにしよう。服を手渡し、背を向けて着替えを待つ。
「終わったぞ」
「似合いますね。それに首回りや腕の長さもぴったり」
「我は何を着ても似合う」
「ネクタイどれにします?」
「青」
「即答ですか? 赤も大人な感じですし、黄色だってルクスさんの瞳の色と合っていて綺麗だと思いますよ?」
「そちらも悪くないが、ウェスパルのドレスは青だろう」
「そうですけど、私に合わせちゃっていいんですか?」
「色が同じなら一目で連れだと分かるだろう。他の二本も他の機会に使うから構わん」
色どうのこうの以前に、尻尾が生えている男性を連れてくるような人は私以外いない。
それに基本的に知り合い同士で固まって動くので、初参加でも隣にいれば確実に連れ認定されるものだ。いくらルクスさんの顔が良いとはいえ、今回参加するのは地元の社交界である。注目を集めることはあっても、喧嘩を売ってくるような令嬢はいないだろう。
とはいえ、私も他の二本に特別こだわりがある訳ではない。お茶会には青のネクタイをしていくことに決まった。
お茶会当日。
ファドゥール家の馬車で会場に向かうこととなった。亀蔵はお留守番で、ルクスさんは私の隣。
ギュンタは用意の関係で、昨日には出発したようだ。
用意、とは何のことかと思ったが、よくよく考えてみると、今回の主催はザルザック伯爵家。
スカビオ家の親戚筋に当たる。また私達より三歳年下のザルザック伯爵令嬢は美意識が高い。石けんを大々的にアピールするつもりなのだろう。
伯爵家に到着し、庭園に通される。すでに多くの令嬢・令息が到着していたらしい。夫人自慢のバラに囲まれながら、お茶やお菓子を楽しんでいた。
ルクスさんもすぐ、それらに食いつくかと思いきや、私の横にピタリとくっついている。イヴァンカと二人して「あのお菓子とか美味しそうですよ?」なんて声をかけても空返事である。辺りを見回しながら警戒しているように見える。
ほぼ一年ぶりの社交界なので、少しは緊張していた。
だがルクスさんと周りの人達を見比べているうちに和らいでいく。最後に参加したお茶会は王都だったが、ここは地元である。
全体的にほのぼのとしており、交流はしつつも基本的に仲の良い子同士で固まっている。他の地域がどうかは知らないが、うちの地域は毎回こんな感じだ。
王都のお茶会のように足を引っ張りのし上がる! という気はまるでない。むしろみんなで仲良くのほほんと。
家同士の身分の差だとか、両親の家柄も一切関係ない。私のお母様は平民だったが、平民と結婚する家もそこそこある。
そのおかげで社交嫌いなお母様も、地元で開かれるものは比較的参加しやすいそうだ。シルヴェスターの妻としてやや持ち上げられ気味で、気を遣われるのは慣れないようだが、悪意が全くないそうなのでそこは気が楽だと。
この雰囲気で慣れているので王都のギスギス感は辛かった。
「見てあの髪……」
私の方を見て、コソコソと話している令嬢達の視線も痛くはない。だが初参加のルクスさんには分からなかったようで、不快そうにギロリと睨む。




