26.ロドリーがやってきた
「ウェスパル、ルクスさん、久しぶり」
ロドリーから『またシルヴェスターに行きたい』と手紙が届いたのは十日ほど前のこと。
消印は王都のもので、大会が終わったその日に出したらしかった。いつでも構わないとすぐに手紙を返した。
タータス領までの距離を考えると、私の手紙が届いた数日後にこちらに向かいだした計算になる。数日おいたのは、私が手紙に「迎えを出すから事前にいつ来るか伝えて欲しい」と書いたから。
スカビオ領に到着する予定時刻まで書いてくれたこともあり、迎えに行ってくれたお父様とすぐに落ち合うことが出来たらしい。
お父様はとてもロドリーが気に入ったようで、帰りも送るから声をかけなさい! と上機嫌で屋敷に戻っていった。こちらに来るまでにどんな話をしていたのかは分からないが、帰りも頼むつもりだったのでありがたい。
「久しいな。大会はどうだったのだ?」
「もちろん俺も兄貴も優勝。といっても兄貴はダグラスさんが出られないからこその優勝だって笑っていたけどな」
「出られない?」
「他の参加者との実力差がありすぎるとエントリーが出来なくなるんだ。レジェンド認定って言って、大抵は何連勝かしつづけると認定される。大会に出る奴らの憧れの的で、俺も兄貴もずっとそれを目指してきた。けどダグラスさんは一度も参加せずにレジェンド認定されて、大会始まって以来だってさ。目指す夢が小さすぎたって兄貴は大笑いだよ。多分ウェスパルも同じじゃないかとな」
長年の夢を目の前であっさりと叶えられれば大抵は落ち込むものだろう。
だがケラケラと笑うロドリーが気にした様子はない。むしろ俺ももっとビッグな夢を立てたい! と燃えている。
「ということで今日も遠慮なく叩きのめしてくれ!」
「叩きのめすって……」
「あ、もちろんすぐ負けるつもりはない。この前ルクスさんから教えてもらったところは押さえてきた。この数ヶ月、自分なりに戦い方をかなり見直したつもりだ」
爽やかな笑顔で言うことではないと思うのだが、そこがロドリーなのだろう。
兄も兄なら弟も弟。
どこまでも前向きで、貪欲。
ルクスさんも「なるほど。強くなったか我直々に見てやろう」と乗り気である。
今回のルールも前回同様、魔法は強化のみ使用可。
ロドリーは足や腹などピンポイントに強化を施している。脇や首元への警戒も怠らず、剣の振り方にも変化が見られた。戦い方を見直したという言葉に嘘はなかったらしい。
警戒するのはいいが、それが相手に分かっては意味がない。それに強化ポイントもあからさま過ぎる。少し観察すれば弱点が見抜けてしまう。彼も理解しているらしく、弱点が見破られた際のカバーするために剣の技を磨いている。
だからこれといった決定的な悪い点はない。
どうしても挙げるというなら、この戦い方を身につけて日が浅い点と、まだ彼の身体が成長過程にあるという点だろうか。剣に風魔法を乗せて彼の手を打てば簡単に剣が落ちてしまう。
「おっも、たいな……。もしかして今の、兄貴の参考にしたのか?」
「といってもあそこまで上手くは出来ないけれど」
「兄貴の場合、魔法は強化専門。ほとんどをランスの強化に振ってるから。あそこまではなかなか割り切れない。だから俺も分散させて……そうか、手元にも強化入れておけば良かったかのか」
キャラメイクやステータス配分が決められるゲームではしばしば『極振り』をするプレイヤーが見られた。
極振りとは、ここだ! と決めたところに全てのポイントを割り振ることである。ようは一点特化。
成功すれば一気に伸びるが、それ以外のステータスが他のプレイヤーよりも劣るので、成功にたどり着くまでが大変だ。進行がかなり遅れることもあり、我慢できずにキャラを作り直す者も多いのだそうだ。
だからといって全体を伸ばしてオールラウンダーになったとしても上手くやらなければ器用貧乏で終わってしまうので、どちらが良いとは言えない。
だがどちらもゲームの話である。
現実でも実現できるかと言われると、ロドリーの言う通り、なかなか難しいものがある。
どうしても攻撃を受けた時のことまで考えてしまう。
それにライヒムさんのランスには多くの魔力が込められていることは一目瞭然で、気付いた敵がランスの動きを封じる、もしくはランス本体を破壊すれば、その時点で勝敗が見えてしまう。
おそらくこの欠点についてはライヒムさん本人も理解していて、その上で実行しているのだろう。
お兄様の友人になるだけあって、肝の据わり方から常人とは違うのだ。




