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9.タータス兄弟

「はじめまして。俺は君のお兄さんの友人のライヒムと言います」

「はじめまして。ウェスパル=シルヴェスターと申します。そして私の腕の中にいるドラゴンがルクスさんで、足元にいる亀が亀蔵です」

「そうか、君が噂のドラゴンか。この年齢でドラゴンを召喚してしまうなんて、さすがはダグラスの自慢の妹さんだ。俺にも君と同い年の弟がいてね、ロドリー、ウェスパルさん達に挨拶しなさい」

「ロドリー=タータスだ」


 ニコニコと笑みを貼り付けている兄のライヒムさんとは違い、ロドリーは仏頂面である。名前だってライヒムさんに促されてようやく告げたほどだ。よほど嫌なことがあったのか。


 もしかして人見知り、とか?

 乙女ゲームでは攻略対象一のコミュニケーション能力と面倒見の良さを発揮していた彼だが、まだそこまで辿り着けていないようだ。思春期の可能性もある。


 それに確かロドリーは兄を尊敬していたはず。ゲームでもちょこちょこと兄について触れていた。

 そんな兄が久しぶりに学園から帰ってきたと思ったら、友人の家に行くから付いてこいなんて言いだして〜なんて、面白くはないかもしれない。


 訪問される側の私も急な話で驚いた。

 ましてや移動にほぼ丸一日かかるとなれば不機嫌にもなるというものだろう。


 元人見知りの私としては今のロドリーに少しだけ親近感が湧く。


「よろしくお願いします」

 ぐいぐい行くのも相手を困らせるだけ。軽く笑みを付けるだけに留める。


 お兄様達も私とロドリーにそれ以上を求めず、早速シロ自慢へと移っていく。


 私はそれを少し離れたところから眺めるだけ。

 なぜかこちらを睨み付けていくロドリーはスルーしておく。


 亀蔵はともかく、ルクスさんは何か言いたげだが、人見知りはまず相手の観察から入るものだ。何かあれば話しかけたそうな空気を醸し出すので、それまでは触らないに限る。


 というか相手を警戒している状態の時に触らないで欲しい。

 それが人見知りである。


 私は私でロドリー兄を観察する。

 ゲーム内でチラッと登場するものの、名前もビジュアルも出なかったライヒムさんの第一印象はうさんくさそう、である。


 初対面は大切だし、貴族にとって笑みは最大の武器だ。

 だが仏頂面の隣に並べばうさんくささが余計に目立つ。


 正直、何を考えているか分からなくて怖い。

 ずっと背負っている巨大な武器と羊のようでもこもこもふもふの髪のミスマッチも怖さを引き立てている。あんな武器は初めて見た。上下に巨大な円錐が付いている。真ん中の細い棒を持って使うとみた。


 ランスに似ているが、どうやって使うのだろうか。

 魔物を見に来たのなら、あれを使って討伐する姿が見られるかもしれない。

 初めて見る武器に熱い視線を送っていると、隣から声をかけられる。


「なぁ」

 いつの間にか真後ろまで来ていたらしいロドリーはとにかく背が高い。

 私と同学年になるので、今は十か十一のはず。だが彼の身長は兄達よりも少し低い程度。おそらく百六十後半はある。


 乙女ゲームの攻略対象者六人の中でダントツ背が高かった彼だが、あの頃には一体何センチまで成長していたのだろうか。まだ五年もあるのでもっと伸びそうだ。


 すでに成長痛という名の逃げ場のない痛みを体験しているのだろうと思うと、同情してしまう。


「なんだ、その可哀想なものを見る目は」

「何物も得るにはそれなりの代償があるものだなと思いまして」


 眉間に皺を寄せたロドリーだが、それ以上の追求はしてこない。

 代わりにゆっくりと言葉を吐いた。


「俺より強いって本当か?」

「私ですか? 戦ってみないと分かりません」

「だが兄貴と君の兄は俺よりも君が強いと断言した。王都の剣術大会を五連覇している俺よりも、女である君の方が何倍も強いと」

「強いかどうかに性別って関係あります?」

「女は守られる存在だ。男である俺が守られるべき存在よりも弱いはずがない」

「私、別にロドリー様に守られる予定ありませんよ?」

「だが俺は男で、君は女だ」


 嫌みに聞こえなくもないセリフだが、彼が本気でそう信じていることは知っている。


 彼は正義感の強いキャラだったから。

 サルガス王子が常に国のために行動するのなら、ロドリーは常に目の前の人達のために行動する人であった。

 第三部では逃げ遅れた女性と子どもをかばって大けがを負い、左目を失明することとなる。


 そんなロドリーが戦闘中、唯一守ろうとしない女性がウェスパルだった。

 今になって思えば、あれはロドリーなりの信頼だったのだろう。ヒロインはガッツリ守っていたことを考えると少し複雑だが、そこは恋愛感情があるかないかの問題だと思いたい。


 それにウェスパルに転生した今、彼に守られたいとは思わない。

 私があの場に立たされたら間違いなく、自分の身は自分で守るから目の前の敵に集中してくれと伝える。怪我を負うことがあってもそれは自己責任であると、幼い頃から叩き込まれている。

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