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7.スライム

「じゃあさっき伝えたところに気をつけて、狩ってこい」

 今度はシロの番だ。

 シロ自身も途中からうずうずしていたようだ。お兄様の指示に「わふっ!」と返事をし、猛ダッシュを決めた。


 まるでドッグランに連れてきてもらったわんちゃんである。


 微笑ましい気持ちで見守りながら、ホーンラビットの額にナイフを刺す。軽く割いて、後は素手だ。

 ホーンラビットの角は装飾品としても武器としても高く売れるので、傷が付かないように慎重に引き抜いていく。


 一方でお兄様は魔犬にザクザクとナイフを突き立てていく。それも魔石があるであろう場所を的確に。魔石を取り出した後の魔犬がどんどん山になっていく。


「これ終わったら血抜きするから。角抜き終わったやつはまとめておいて」

「ここでしていくんですか?」

「思っていたよりも動けているから俺が加勢する必要はないだろう。ウェスパルと亀蔵もかなり倒したからな~」


 そう呟いて、魔犬の山に火をつけた。

 お兄様の足下にはこんもりと膨らんだ袋が置かれている。どうやら魔石を全部回収し終えたらしい。


 車に載ってきたお兄様に水を注いだ桶とタオルを渡す。

 魔石採取同様に血抜きもスピーディー、かつ丁寧に。

 その手さばきはルクスさんも上手いな……と呟くほど。けれどシロの方もきっちりと見ていて、興奮してやり過ぎそうなシロに声を飛ばしていく。


 本当に、我が兄ながら惚れ惚れとする。

 お兄様の手さばきに感動しながらも手を動かし続けていると、ルクスさんが突然バサッと飛び立った。そして車の周りを警戒するように飛び回る。


「どうしました?」

「変な音がする」

「どんな音ですか?」

「ぺちゃぺちゃと、水を舐めるような音が」

 水と聞いて思い出すのはとある魔物である。お兄様はピタリと手を止めて、顔をあげた。


「方向はどっち?」

「北側だな」

「シロ、下がれ」


 布でナイフを拭い、地へと降りる。お兄様は本気モードである。


 おそらく魔物の正体はスライム。前世では最弱魔物としてよく知られていたアレだ。この世界でも大体同じ立ち位置にある。

 土地ごとに細かい性質が異なるらしいが、大陸のどこでも発生する。弱いが大量に湧くために厄介者扱いされることが多い。


 だが一部地域ではとても歓迎されている。

 シルヴェスターもスライムを歓迎する土地の一つである。


 理由はシルヴェスター付近で湧くスライムの魔石は水魔石として非常に優秀だから。


 スライムなら何でも良い訳ではない。スライムの発生地に水が少ないことが重要だ。少なければ少ないほど良い。


 砂漠でもごくごく稀に発生するらしいが、そのスライムから採れた魔石はどんな宝石よりも高く取引されるという。それほどまでに貴重な品なのだ。


「ホーンラビットも大量で、スライムまで出てくるなんて今日はツイてますね!」

 ちなみに砂漠地帯で発生するスライムはかなり強いらしい。比較対象がこの辺りでは生息しない魔物ばかりなので、どのくらいかはピンと来ない。


 ただ水不足の地域で水を溜め込んだ魔物が他の魔物に狩られずに済んでいるところから強いことには違いないのだろう。

 またスライム本体も水不足に陥るそうで、地面や植物から取れなくなったら魔物の血を啜るらしい。


 シルヴェスターでは若干黒ずんだ水のような色をしているスライムが、砂漠地帯では一体どんな色をしているのかは謎。少し見てみたい気もする。


 私が砂漠のスライムに思いを馳せている間に、お兄様は目の前のスライム達に切り込みを入れていく。スライムの攻撃を避けながら、かつ魔石を傷つけないようにサクサクと。そして飛び退くと、三体のスライムを囲むように火の魔法を放った。


 スライムが出てこられないように何重にもアーチ型の蓋を作る。

 これからスライムの水分が蒸発するまでしばらく待機。

 スライムは一定以上の水分がなければ生きられないので、放っておけば絶命する。皮と魔石だけになったら、冷めるまで待ち、手でペリペリと剥がすだけ。


 スライムの魔石採取で最も難しいのは、スライムに傷を付ける際に魔石にも傷を付けないようにするところだ。少しでも欠けると貯めておける水の量がグッと減ってしまう。

 だが傷つけるのを怖がれば、中の水を完全に飛ばすことは出来ない。皮が魔石にくっついて剥がれない、なんてこともある。


 お兄様は簡単にやってのけたが、綺麗に魔石を取れる人はシルヴェスターでも片手の指ほどしかいない。熟練だからこそ出来る技なのだ。

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