5.いざ狩りへ
「明日は一緒に狩りに行こう!」
「いいの!?」
夕食を食べているとお兄様はそう宣言した。
待望の狩りである。嬉しさで机に手をついて立ち上がる。
その衝撃で私の膝の上にいたルクスさんはぐえっと声を上げ、ぼとりと落ちてしまった。膝に載せていたことをすっかり忘れていたのだ。
「あ、ごめんなさい」
「……明日のおやつ半分で手を打とう」
「ありがとうございます」
ルクスさんを拾い上げ、再び席に着く。
だが興奮がおさまったわけではない。なにせ久々の狩りである。記憶を取り戻してからは一度も繰り出していない。
もう少しで連れて行ってもらえると分かっていても、早くて冬の終わり頃だと思っていた。
なのにここにきて突然のチャンスである。
今の実力も知りたいし、火と雷の属性の底上げもしたいし……と欲が一気に溢れ出すのは仕方のないことだろう。
おやつ半分を犠牲にしたって安くつく。
「ずっと行きたがってたんだろ? 俺もあいつが来る前にシロの実力見ておきたいし」
「誰か来るんですか?」
「俺の友達とその弟が遊びに来るんだ」
「おとも、だち……」
浮かれた心に一瞬で冷水を浴びせられる。
領地に招くほど親しい友人がお兄様にできた事は嬉しい。だが嫌な気しかしない。
「シルヴェスター付近の魔物と戦ってみたいんだってさ。良い奴だからウェスパルも気にいると良いんだが……」
「そのお友達の名前って」
「ライヒム=タータス。弟は確かロドリーだったかな? ウェスパルと同い年らしい」
嫌な予感ほど当たるものである。
ロドリー、出てくるの早くない!?
三年かけてお互いを認め合ったっていう設定どこいった!?
それもただ普通に帰省するならともかく、無理いって帰ってきているのに呼ぶとは相当の仲の良さが窺える。その上、弟までつけてくるとは……。
ロドリー兄、もといライヒムさんとの間に急激に仲良くなるようなイベントでもあったのだろうか。
ロドリー本人が直接二人に危害を加える訳ではないとはいえ、ここまで予定が狂えば頭は痛くなる。
「ああ、でも無理して会わなくていいからな。あいつにもそう言ってあるし」
「いえ、是非ご挨拶をさせて頂きます」
それでも目を背けることはできない。
予定が変わってしまったのならそれを受け入れて、変わった部分を知ることが重要なのだ。
ロドリーとライヒムが来るのは三日後。
それまでお兄様はシロの実力を見極め、私は実践でどれだけ力を発揮できるか試すことにした。
翌朝、朝食を終えてすぐに車に乗り込む。
車といっても屋根はない。狩った魔物を積み込みやすいように、リアカーのようなタイプを選んだ。
それもシルヴェスターにある中で一番大きなものを。
お兄様が行くときは決まってこの車を選ぶ。
お兄様は毎回かなりの量の魔物を討伐するので、この車にさえも載せきれるかは正直怪しい。
ちなみにその車を引くのはシロだ。魔獣用の車はすでにセットされている。
お兄様はシロの上に座りながら、進行ルートについての指示を出している。
「では行ってきます」
「かめぇかめぇ」
「亀蔵も来たいの? でも危ないよ?」
「かめ! かめかめか~めぇ!」
亀蔵は置いていくつもりで、すでにお父様とお母様にお世話を頼んであった。
だがお留守番だよ、と伝えても足踏みをしながら何かを訴えている。
私に亀蔵の言葉は分からない。
亀蔵のご飯を手に、お父様も困り顔である。
「亀蔵自身が問題ないと言っているのだから連れて行ってやったらどうだ? それにウェスパルが思うほどこやつは柔ではない。我の爪でひっかいたところですぐに修復する」
亀蔵についてはまだまだ分からないことも多い。だがドラゴンの爪でも大丈夫ならその辺りの魔物からの攻撃でも回復可能と考えて良いだろう。
唯一の欠点であるスピード面はいざとなったらお兄様に担いでもらえばいいか。
亀蔵に激甘なお父様はすでにお兄様の肩に手を載せて「頼んだぞ」と激励している。
そんなわけで二人と三体で魔物狩りに向かうこととなった。
亀蔵のお世話がなくなってしまったお父様は後で車を引いて迎えに来てくれるらしい。手加減をしなくて良くなったとお兄様は喜んでシロに跨がった。
今日の目的地は過去、邪神ルシファーが焼き払ったという荒野である。
魔物が多く潜伏しており、定期的に狩らなければ人間の居住区にやってきてしまうのだ。
特に忙しいのは春先、魔物の繁殖シーズンである。
洞穴や地面にぽっかりと空いた穴は特に怪しい。卵を見つけ次第、焼き払う必要がある。
今回は繁殖シーズンには当たらないので、危険性は低い。
とはいえ、魔物の中には収穫前の芋を狙う者もいるので油断は出来ない。




