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3.兄、帰還

 そんなわけで、来月には小屋作りに取りかかってくれるそうだ。

 芋の収穫に差し支えないように、私とルクスさん、亀蔵もしっかりとお手伝いするつもりである。といっても子どもが手伝えることなどそう多くもないのだが。


 事前準備が出来るのは精々必要部分の大きさを測ることくらい。メジャー片手に屋敷の裏で採寸を行う。


「亀蔵、サイズ測るからこっち来て~」

「かめぇ」


 なんだか少し大きくなったような気がする亀蔵を呼び寄せ、メジャーを当てる。


 今後の成長も考えて少し広めに確保する予定だ。

 ちなみにドアの形をどうするかはギリギリまで検討予定。亀蔵用に開けたスペースにカーテンのような布をつけるか、木の板でドアを作るかも悩みどころだ。測ったサイズで土のアーチを作ると、亀蔵はノソノソと下をくぐり始めた。


「んー、手の辺りがちょっと狭いか」

「ふむ、それが噂の亀か」

「亀蔵って言うの。ってお祖父様!?」

「俺もいるぞ!」


 振り返れば王都にいるはずのお祖父様の姿があった。

 それだけでも驚きなのに、お祖父様の後ろには満面の笑みで手を振るお兄様の姿もある。


「帰ってこられたの?」

 数ヶ月ぶりの再会で、第一声がそれとは我ながら酷い妹だとは思う。だが心からの言葉だった。


 長期休みに入った頃ならまだしも、再来週には新学期に入ろうかという頃にやってきたのだ。驚きもする。


「前期はかなり頑張ったからな!」

「本当は連れてくる気はなかったが、うるさくてな……。ああ、心配しなくとも私がちゃんと連れて帰る」


 お祖父様の話によれば、今回シルヴェスターに来るのはお祖父様のみの予定だったらしい。

 目的は孫に会うため、ではなくスカビオ領とファドゥール領の変化を確かめるため。本人が気になっていたのはもちろん、イザラクにも行った方がいいと言われたらしい。


 そのイザラクは今回留守番。芋掘りの日をめがけて来てくれるそうだ。

 さすがはイザラク、お兄様が抜けた分の穴の大きさを分かってくれている。


「兄として妹の元気な姿を見ておきたいと思うのは当然のことですよ」

「だからといって脅す奴がいるか……」

「脅す?」

「ウェスパルが気にすることじゃない。それより元気そうで安心した。そっちが邪神か?」


 お兄様なら数日間馬車にへばりついてついてくるとか余裕でしそうなのであまり突っ込みたくはない。何をしたのかは気になるが、スルーできるに越したことはないのだ。


 それよりも新しい家族の紹介が大切だ。


「ルクスさんよ」

「カッコイイな! ドラゴンに亀とは羨ましい。この年でパートナーを見つけるとはさすがはウェスパル」

「私はそんなに……。それにギュンタとイヴァンカは精霊を召喚したのよ。それも複数体!」

「何だと!? 俺一人だけ遅れてるだなんて……。俺もパートナーが欲しい! お祖父様、俺も召喚していいでしょう? いいですよね?」


 お兄様は二年生に上がってから授業内で召喚する予定だった。だが妹やその幼馴染にいると知り、我慢できなくなったらしい。


 お祖父様の肩を持って左右に大きく揺すっている。

 お祖父様はぐわんぐわんと揺らされながらも気にした様子はなく、うーむと真剣に考えている。


 王都でもよくあることなのだろうか。それにしても落ち着きすぎだ。

 やがて考えがまとまったようで、お兄様の手を強引にひっぺがした。


「少し早いが、お前もパートナーが出来たら落ち着くかもしれんしな。許可しよう」

「早速お父様に伝えて用意してくる!」


 そういうやいなや、お兄様は屋敷の方へと走り去った。

 残された私達は皆、背中が見えなくなった方角を見つめる。よほどパートナーが羨ましかったのだろう。


「ある程度予想はしていたが、暴風みたいな奴だな」

「お兄様は我が家で一番アクティブなんですよ」

「……そうか」


 何かいいたげなルクスさんの気持ちも分からなくはない。だがこれが私のお兄様なのだ。困ることもあるが助かることも多い。


 なによりこういう性格なので慣れてもらう他ない。

 笑みを向ければため息を吐きながらも「……そうか」と受け入れてくれた。


「そうだ、お祖父様。長旅でお疲れでしょう? 中に入ってお茶でも飲みませんか?」

「ああ、頂くことにしよう」


 召喚の儀の準備が整うまでの間、薬草茶とお茶菓子を楽しみながら待つことにした。


「私、召喚の儀って初めて見るので楽しみです」

「ああ、そうか。ウェスパルは見たことなかったか。初めて見るのがダグラスの召喚の儀とはついてないな」

「え?」

「おそらく参考にならんぞ」


 お祖父様の言葉の意味がよくわからない。

 召喚の儀は召喚の儀でしょう?

 いくらお兄様とはいえ、そんなルールガン無視で進めるようなことはしないはずだ。

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