23.精霊のお菓子
だから精霊にあげるのは一日一個まで。
属性は日替わりで、その他は何かあった時用に貯めている。
鍵を開けてから、そういえばどの属性が何体いるのか聞いていないことに気づいた。
「とりあえず箱ごと持っていけばいっか」
属性ごとに分けた瓶にはそれぞれ五個ずつ入っている。全部合わせても足りないということはないだろう。
再び鍵を閉め、応接間へと戻る。
二人は先に戻ってきていたらしい。
すでにルクスさんの周りには沢山の精霊が飛び回っていた。
精霊を見るのは初めてだが、概ね想像通りの見た目だ。
茶、青、緑の髪の小人さんに羽が生えている。パッと見ただけでも男の子と女の子の両方がいる。
ただ想像と違ったのは身長体型や服装も一律ではないこと。ちゃんと個性がある。
ルクスさんは彼らから聞き取りを行っているらしい。
コクコクと頷きながら、言葉を交わしている。といっても精霊側の言葉は私達には分からない。
それでもギュンタとイヴァンカは真剣な表情で話し合いを見守っている。
「分かった。我が伝えてやろう」
「どうでした?」
「契約を結ばせないようにしていたのは、それぞれが自分を売り込もうとした結果らしい。検討した上で選ばれなかったら引くつもりだそうだが、全員と契約してやったらどうだ?」
「そんなことできるの?」
「初めから複数体と契約するケースは稀だが、そもそもここまで好かれる人間が珍しい。それにこやつらは全員、召喚される前から二人に目をつけていたらしいぞ。ここしばらく人間が精霊召喚を行わなかったというのも理由の一つだが、よほど気に入ったのだろうな。負担にならないのなら応じてやれ」
「ああ、喜んで」
まさかの理由だが、おそらくルクスさんは聞く前からなんとなく予想がついていたのだろう。だから私に魔結晶を取りに行かせた。
二人がホッとしたように表情を和らげると、精霊達は彼らの周りを飛び回った。
受け入れられたことが嬉しいようだ。二人もこれからよろしくと個別に挨拶をしている。
「それから周りの人間にも精霊召喚に興味はないか聞いてやってくれ。他の仲間も呼んでほしいそうだ」
「分かったわ」
「実はお父様も精霊に興味があるらしくてさ。困ったことがあったらまた聞きに来ていい?」
「遠慮なく来るといい」
スカビオとファドゥールには魔法適性持ちが一定数いる。
魔獣が身近にいる場所に住んでいる人は何かしらの自衛手段を持っているものである。それは剣術であったり魔法であったりと様々だ。
特にこの二領は元から住んでいた人や内地からの移住者の他に、元々シルヴェスターに住んでいたが戦闘適性がなかったり引退を理由に引っ越していった人もいる。
また少し歴史を辿れば貴族の三男、四男あたりがゴロゴロといたりする。貴族には魔法が使える者が多い。平民として生きているので貴族の地位や権限こそないが、その血にはバッチリ貴族の、魔法適性者の血が流れているというわけだ。
シルヴェスター・スカビオ・ファドゥールの三領はその土地柄から魔法適性持ちは協力して育てるので、基本的に適性持ちはみんな魔法が使える。
またスカビオ・ファドゥールは自然を相手に働いている人が多いので、自然を愛するという条件も大体の人がクリアしていることだろう。残るは精霊を尊敬するという条件だが、精霊自身が認めた相手なら問題ない。
今後、精霊召喚が当時のような勢いを取り戻すかどうかは分からない。
だが今まで諦めていた人達が再び彼らとの共存を選ぶ道を示せたのではないかと思う。
少なくともスカビオとファドゥールの二領は精霊と共にこれから変わっていくはずだ。
「あ、そうだ。二人と精霊達にこれ。私からのプレゼント」
箱を開け、瓶を取り出す。
どうせ数個しか入っていないので、三属性の魔結晶は全てあげてしまおう。
中身を等分し、用意していた袋にザラザラと入れていく。すると目の前から強い視線を感じる。
「精霊のお菓子ね!」
「文献には錬金術師しか作れないって書いてあったのに。ウェスパル、これどこで手に入れたんだ?」
「私が作ったの」
「え?」
「高濃度の魔力を結合させて作る結晶で、錬金術師でなくとも作れる。難易度は高いが、お前達も精霊と共に精進すれば作れるようになるだろう」
「そっか!」
「なら頑張らないとね!」
気合いを入れる二人の周りを精霊達は嬉しそうに飛び回る。
温かい気持ちで見つめていると、精霊の中に赤い髪と黄色い髪も混ざり始めた。
「あの、ルクスさん。どさくさに紛れて増えてません?」
「……残りも全部くれてやれ」
二人の魅力を前にすれば適性属性なんて関係ないらしい。
一度袋を預かって、残りもザラザラと入れていく。