50.第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ました
長期休みに入ってすぐ、私達はみんなをシルヴェスターに集めた。
私のお腹の前には大きな卵がある。昨日の夜にルクスさんが産んでくれた神の卵だ。色はルクスさんの鱗と同じ。艶々としていてバスケットボールほどの大きさがある。ほんのりと温かく、時折小さく動く。
無事に卵が割れるは分からない。
けれど孵化するかどうかはさほど重要ではない。私達にとってはすでに子どもと同じなのだ。
二人で話し合って、卒業を待たずに育て始めることに決めた。
卵の時から様々なものを見て欲しかったのだ。その中には近々行われるコンテストでの亀蔵の優勝だって含まれている。亀蔵もヤル気満々だ。
今日はこの子のお披露目も兼ねている。
やはり初めに見せるのはシルヴェスター。私達の大切な場所と、大切な人達。これからいろんな場所に連れて行くつもりだ。
「ということで、私はルクスさんと結婚することにしました。そしてこっちが私達の卵」
「まぁ何も変わらんがな。我は今後もこの姿のまま。邪神は封印されていることにする」
結婚のことだけではなく、邪神のこともルシフェルーニア神国のことも全て打ち明けた。邪神を撤回するつもりはないが、辺境領の味方であると示すことこそがルクスさんなりの誠意だった。
「龍神ルシファーの過去については儂らが保証する」
「精霊を多く派遣したのもルシファーを助けるため」
ルクスさんと私の言葉だけでは不安だろうと、魔神と精霊王にも証言してもらうことにした。集まってくれた人達はルクスさんのことよりも、二人の神の登場に驚いているようだ。口をあんぐりと開けたり、本物? と首を傾げたりしている。
先に事情を説明していたため、イザラクは非常に落ち着いている。
ロドリーも「やっぱりルクスさんが龍神だったのか~」とのほほんとしている。
正反対に、イヴァンカはかなり動揺していた。長らく隠していたのが悪かったか。幻滅されても仕方がないと俯く。けれど彼女の口から飛び出したのは予想外の言葉だった。
「ルクスさんが邪神ってことはウェスパルとの仲を邪魔する奴がいるかもってこと!? 大変じゃない! 今からでもダグラスさんに弟子入りするべきかしら……」
イヴァンカは完全に邪魔者を潰す気でいる。お兄様も「長期休みでしっかりとたたき込んでやろう」と妙に乗り気である。レミリアさんも一緒に頑張る気満々。頼りがいはあるが、さすがに止めてほしい。イヴァンカはわりと凝り性なのだ。護身術程度では止められない。
だから敵なんていないのだと、早めに否定しておく。
「公表するつもりはないから大丈夫。ただ、ここにいるみんなには伝えておきたいなって」
「そっか、ルクスさんは神様だから死草を焼くことが出来たのか」
私達の宣言に、ギュンタは小さく呟く。腑に落ちたような、スッキリとした顔をしている。けれど隣に立つイヴァンカの表情は先程と一転し、目もとをヒクヒクと動かしている。ギュンタは独り言のつもりだったのだろうが、バッチリと届いてしまっている。
「ギュンタ。死草ってなんのことかしら」
「あ、えっと......その......」
「聞いてないんだけど!」
ギュンタに詰め寄り、なんでそんな大事なことを教えてくれなかったのかと怒っている。この先も隠し通すつもりだった彼はたじたじである。必死で言い訳を紡いでいるが、イヴァンカのお説教から逃れることは難しそうだ。
大事なことを隠されていたイヴァンカには悪いが、ギュンタがその言葉を口に出来るのは生きている証拠。そして彼の中でもあの一件が終わった証明でもある。
そう、死草から始まった悲劇は全て終わったのだ。
ウェスパルはもう闇落ちすることはない。
ようやく私は乙女ゲームから抜け出せる。
ゲームとは全く違う、多くの仲間と笑顔に囲まれながら、私とルクスさんは夫婦としてのんびりと暮らしていくのである。
これにて完結となります。
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