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47.魔王は素材にもなる

「想像以上の大きさね」


 魔界に入るとすぐに魔王城が見えた。

 前世の都心に聳え立っていた高層ビルより高い。一階一階の天井が高いのだろうが、全部で何階建てなのか。広さだって城だけでもジェノーリア王国の王都分はありそうだ。


「魔界では私くらいの大きさの魔獣も多く暮らしておりますから」

「アカくらいって相当大きいのね」


 初の魔界を見下ろしていると、アカを目掛けて複数の魔法が飛んできた。羽を持つ魔獣はこちらに飛んできている。


「アカ!」

「問題ありません。ウェスパル様、私に掴まっていてください」


 鱗の一つにへばりつく。するとアカは羽を大きく動かし、風を起こした。私に配慮してくれているのか、あまり揺れは感じない。小さな地震が起きた程度だ。


 けれどアカの下に集まっていた魔獣には効果抜群。全員揃って吹き飛んでいった。そしてアカはそのまま何事もなかったかのように城壁の上を通過した。


 そのまま城の周りをぐるりと回る。ハウスから出てきてもらった亀蔵も加わり、三人体制で王の間の窓を探す。


 とある位置に差し掛かると、亀蔵が鳴き始めた。


「かめぇ! かめっ! か〜めぇ」

「確かにあの窓の先から強い魔力を感じるな。窓には強化魔法がかけられているようですが、いかがいたしましょう」


 アカ曰く、他の窓には魔法はかけられていないそう。亀蔵とアカの意見が合致したことから、あそこが重要な部屋とみてまず間違いないだろう。


 王の間か執務室か私室か。そこにいるのが魔王でなくとも、有力な情報は得られそうだ。なによりアカが通れそうな窓は少ない。魔王城に乗り込むにはちょうどよさそうだ。


「魔法で壊すから少し止まってて」


 そう宣言してから、自分の目の前に大きな風魔法の球を作り出す。右手には大きめのテニスラケット。大きく深呼吸をしてから、思い切り打ち込んだ。


「いっけええええ」


 風の球は掛け声と共に、窓に向かって一直線。高さの違う音が二回続き、随分と風通りが良くなった。アカはそこに向かって突っ込んでいく。それに合わせて亀蔵が水鉄砲を発射する。おかげでアカも余裕を持って部屋へと入れた。


「お前たち、何者だ」


 窓の先では、紫の髪の人物が私達を出迎えてくれた。玉座から動くことなく、堂々と佇んでいる。もう何年も前にゲーム画面を通して見た顔と全く同じ。頭には二本のツノがあり、真っ黒いマントを羽織っている。


 彼こそが魔王である。

 すぐに見つかってよかった。おかげで城中を探し回らずに済む。


 玉座が鎮座する場所に向かってズンズンと段差を登る。同時に現段階では敵ではないと示すため、名前と目的を告げる。


「はじめまして。私はウェスパル=シルヴェスター。龍神を守りし一族の末裔で、こっちはレッドドラゴンのアカと私の相棒の亀蔵。今日は失踪したルシファーの居場所を聞きに来たんです。知っている情報があるなら全部吐いてください」

「城を破壊し、情報まで吐かせようと言うのか。まったく、我が輩も舐められたものだ」

「そういうのいいので、さっさと話してください。この先どうなるか分からない以上、あなたの角をもぎ取って錬金アイテム作る時間が無駄なので」

「角を、もぐ? じょ、冗談だろう?」


 魔王は目元をひくひくと動かす。だが私は本気である。


 ルクスさんの行き先の心当たりは魔王のみ。なのでここで情報を得られなければ完全に行き詰まってしまうのだ。時間が経てば経つほどルクスさんの足取りは掴めなくなる。


 なのでいざという時はツノだけとは言わず、魔王ごと錬金釜に突っ込む覚悟である。


「あなたの角なら質の高い探索アイテムが作れそうですので。嘘だと思うなら、私達と一戦交えますか? そうしましょうか、時間が惜しいですし!」


 とどめを刺す必要はない。私の本気を見せるだけでいいのだ。


 情報を吐いてくれれば良し。ダメそうなら気絶させて、そのうちに目ぼしい素材を取ってしまえばいい。ツノの他だと羽根とか。お兄様ほど解体は得意ではないが、そうも言っていられない。


 可能な限り、素材を持ち帰るぞ!

 強い意気込みを胸に抱き、ナイフを手に取る。私だけではなく、亀蔵とアカもやる気である。


「待て待て待て待て待て待て! 言うから! 言うから、待って!」

「じゃあ早く教えてください」

「少しは話し合いというものをだな」

「早く」

「……奥の部屋だ。魔神様と共にいる。案内しよう」


 魔王は大きなため息を吐き、一緒にルクスさんの居場所を教えてくれる。その表情からは敵意は見られない。呆れと焦りのみ。


「魔王討伐に来た人間は何人もいたが、素材として見られたのは初めてだ」


 魔王のアイデンティティを傷つけてしまったようだ。

 奥の部屋へと案内する最中もずっとブツブツとぼやいている。アカは「我も初めはそうだった。そのうち慣れる」と達観したような台詞をかけている。だが今は彼らに構っている余裕はない。

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