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41.お久しぶりのゲルディ

 基本的に彼らと会うのは昼食時。その前には必ず実技の授業を受けている。だから気づかなかった。他の二人は一緒にいる時間が長かったため、知っていたのだろう。いい香りの正体に大盛り上がりである。見ているこちらもほのぼのとする。


「商会から頼まれて香りが強めのものを何種類か作ったが、そんな使い方があったとは……」


 一方でギュンタは顎に手を当てて考え込む。彼らからもたらされた情報を元に、何かいいアイディアが生まれそうなのかもしれない。


「ルクスさん、私たちも石鹸入れてみますか?」

「いや、いい。このままが落ち着く」


 服にまで香りをつけるとドラゴンの鼻にはキツイのかもしれない。お風呂限定の香りの方が一日が終わった感が強く、リラックスが出来るのは確かだ。


 私も言ってみただけなので、強く勧めることはしない。


 隣の席に移動してきたギュンタと一緒にお弁当を食べていると、脳筋ズがピタリと静かになった。そして脳筋ズの一人が真剣な表情でギュンタを見つめる。


「……なぁ、ギュンタ殿。商会を通さずに不躾な願いとは思うが、香油を作ってもらうことは出来ないだろうか。実は父が結婚記念日のプレゼントにしたいと言っていて……」

「皆さんにはお世話になっていますから。後でご自宅にアンケート用紙を送りますね」

「感謝する」


 ホッと胸を撫で下ろす脳筋ズ。

 だがいつのまにか香油の販売まで……。


 以前ロドリーから聞いた美容コーラといい、スカビオ家は一体どれだけの商品を扱っているのだろうか。そんな疑問が顔に出ていたらしい。


「石鹸の香りが気に入ったお客さんから要望があって、最近オーダーメイドの香油販売を始めたんだ。基本的には商会を通してもらっているんだけど、お得意様や知り合いからの依頼は優先しているからウェスパルも欲しかったら遠慮なく言ってくれ」

「なるほど」


 石鹸からの派生だったのか。

 結構な額で売れるんだと耳打ちするギュンタは商人のよう。彼のやつれた姿は未だ鮮明に思い出せるだけに、逞しい一面を見られたことが嬉しくてたまらない。


 そんなことを話していると、ゲルディ=ノルマンドがひょっこりと顔を出した。


 たまたま通りがかったところに『香油』というワードが聞こえたようだ。スクールバッグの中から分厚いファイルを取り出した。


「香油のアンケートなら私、今持ってますよ」

「一枚もらえるか?」

「俺達にももらえるか? 順番通りでいいから予約しておきたい」

「なら俺も。来年の彼女の誕生日に贈りたい」

「どうぞ」


 笑顔でアンケート用紙を配っていく。私にも一枚くれた。この用紙は注文用紙も兼ねているらしく、左下に金額や引き渡し日を記載するための枠がある。


 今回に限らず、興味がある人に配っているのだろう。ギュンタは幼い頃から商魂逞しかったが、ゲルディに出会ったことでますます磨きがかかったのだろう。


 ゲーム版のゲルディもまた、機会があれば学園内でもここぞとばかりに商品を売り込んでいた。まさに商人の鑑である。


「ギュンタ様も」

「助かるよ。ちょうど手持ちが切れてたんだ。そういえば学園でゲルディと会うのは久々だな。忙しいのか?」

「ありがたいことにスカビオ領とファドゥール領のお陰で取引先が増えまして。最近ではアルファンとソランズィアとも取引を開始いたしまして。といってもどちらも以前からスカビオ領の薬草の需要が高い場所で、我が商会はおこぼれに与っているようなものですが」


 彼の口から溢れた地名が妙に引っかかった。確信があるわけではない。だが胸騒ぎがする。


「あの、それってどの辺りでしょうか」


 地図を取り出し、ゲルディに尋ねる。

 彼は不思議そうに首を傾げたが、すぐに地図の中のとある場所に指を落とした。


「この赤いバツが付いているところのすぐ横ですよ」

「他にも薬草の需要が高い場所ってわかりますか?」

「それならこことここ。それからここも。特に最後の場所は魔物の被害が大きくて、スカビオ領の薬草需要がかなり高いんだ」


 アルファンとソランズィア、それから追加で教えてもらったうちの最後の場所は死草の被害があった場所だった。偶然にしては一致箇所が多すぎる。


 今回名前を挙げられなかった地域について尋ねてみると、一致地域との交流が盛んだと教えてくれた。


「ところでこのマークは一体?」


 ゲルディは地図のところどころにあるマークが気になったらしい。精霊が訪ねてくるようになってからというもの、かなりマークを残してしまっている。


 記録を残すための地図を別に買っておけばよかった。そんなことを思いながら真実を交えた言葉を吐く。


「最近精霊達がやってくるので、属性と出身地ごとにチェックをつけてるんですよ」

「なるほど。ですから何色も使われているのですね。目ぼしい情報が掴めた際は是非我が商会に!」

「ならばここの村で飼っているマダラ模様の牛から取れた牛乳を買いつけるのだ。精霊の話ではかなり美味いらしい」


 ルクスさんはここぞとばかりに自分の欲しいものを売り込む。ついでにその周辺の村で流行っている茶葉も教えることで、ゲルディの興味を引くという技まで使って。


 やっぱり牛乳が飲みたかったんじゃないか、という言葉が口元まで出かかった。だが彼のおかげで有力な情報を得られた。お礼くらいはしないと、とグッと堪える。


 見事にルクスさんの思惑にハマったゲルディは、いい話を聞いたとばかりに手帳にペンを走らせる。そして深く頭を下げて去っていった。

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