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34.ドライフルーツのドーナッツ

 事件発生からカード発行までわずか数日。

 週末もとい第一回ファンミーティングまでに間に合わせてしまった。


 スカーレット家の屋敷で行われる予定の会には一体何人出席することになるのだろうか。彼らから預けられたお兄様への手紙はかなりの分厚さだった。


 お兄様はなんだかんだで王都に馴染んでいたのだろう。いや、馴染むというより周りを変えていったと言った方が正しいのか。


 カリスマ性というのはどこで発揮するか分からないものである。

 お兄様の影響力のおかげで王都での暮らしも快適、とまではいかないが想像よりも過ごしやすくはある。


 悪意ある視線の代わりに変な視線は感じるけれど、これは目立つ兄を持った妹の宿命として受け入れることにした。



 そんな訳で、あっという間に週末となった。

 張り切ったお兄様が早朝に飛んできたため、お兄様も一緒に朝食を食べることとなった。


 朝食後、外でドライフルーツ入りのドーナッツを揚げる。私が揚げる横でルクスさんとお兄様とアカとシロがパクパクと食べてしまう。


 皆、美味しそうに食べるもので勝手に取らないでとも言えず、仕方なく追加でドライフルーツを刻んだ。


 お土産分は四袋に分け、揚げている最中にやってきたロドリーに託す。


「なんか荷物多くない?」


 依頼を受ける際に私とルクスさんも乗せてもらっているグリフォンの背中には大量の袋が乗せてある。


 羽根はしっかりと避けつつ、飛行の邪魔にならないところにはここぞとはかりに括り付けられている。ロドリーが乗ったらもうスペースがない。


 普通の魔獣なら嫌がりそうなものだが、上空から降りてきた時のグリフォンはいつもと変わらぬ表情だった。


 今はドーナッツに興味津々だ。爛々と目を輝かせている。


「これは全部頼まれもの。商人が持ってくるものは限られてるから、王都に行く時はみんなここぞとばかりに頼むんだ」

「ロドリーは卒業しても王都に通うことになりそうね」

「実は最近、騎士団に興味が湧いてきて。卒業後も王都に残るかもしれない」

「あの三人組はみんな卒業後、騎士団に入るんだっけ?」

「ああ、それで俺もどうかって。今度、見学に連れて行ってもらう約束をしてるんだ」


 脳筋ズは入学前からすでに卒業後の騎士団入りが決まっている。

 騎士の家系なら大体そうで、実技の授業には他にも騎士団入りが決定している生徒が何人かいるそう。


 とはいえ入団試験の筆記と実技をクリアしなければ騎士にはなれない。だから脳筋ズは座学も程々に受けている。ロドリーも辺境組に合わせて座学の授業を取っており、そうでなくともまだ一年の前期なので今から目指しても騎士団入りは夢ではない。


「今日はその話もしてこようかなって思ってる」


 少し緊張したように笑うロドリーの背中をトンッと叩く。


「困ったことがあったら頼って。勉強は私あんまり得意じゃないけど、ルクスさんがいるから!」

「まぁ勉強くらい面倒見てやる」

「二人ともありがとう。行ってくる」

「うん、気をつけてね。ところでこの子にドーナッツってあげても大丈夫?」

「ああ。……俺も食べていっていいか?」

「もちろん」


 私達が話している間、ずっとグリフォンの視線はドーナッツに固定されていた。奥でルクスさん達が食べているのを羨ましそうに見ているのである。それでも勝手に食べにいかないあたり、お行儀がいい。


 ロドリーとグリフォンに一つずつ渡すと、ぱああっと花が咲いたような表情へと変わっていった。


 もぐもぐとドーナッツを食べ終わったグリフォンはロドリーに渡したお土産に目をつけた。だがロドリーに「これはお土産だからダメ。帰ってからな」と言い聞かされ、しょぼんと落ち込んで旅立っていった。


 ロドリー達の姿が見えなくなるまで手を振る。振り向くと、二階の窓からこちらを見下ろす伯父様と目があった。力強い視線は自分の分のドーナッツはあるのかと訴えている。


 お土産分は考えていたが、留守番をする伯父様の分までは考えていなかった。

 すでにドーナッツはお土産分しか残っておらず、視線に耐えかねた私は追加分を揚げることになったのだった。


 伯父様の分と一緒に揚げた追加分は、イザラクとお祖父様の分を避けて残りは使用人で分けて欲しいと渡しておいた。


 受け取る時こそ厳かだったが、振り返ってからの足取りはかなりの早足。少し経ってから「全部で五つあります!」との声が屋敷に響いた。


 ルクスさんも牛乳の入ったコップを落としそうになるほど驚いていた。今度から少し多めに作った方がいいかもしれない。

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