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33.ダグラス事件③

「レミリアはすっかりシェリリン様と意気投合したのね」


 遅れてやってきたイヴァンカとギュンタは微笑ましそうに彼らを眺めている。二人は発端となった場所に居合わせていたため、ダグラスファンの輪にも全く動じる気配がない。


「シェリリン様は私の知らないダグラス様を沢山教えてくださいますから!」

「私が知っているのは大会での活躍と王都での噂だけですわ。今後とも是非辺境でのダグラス様のご活躍をお聞かせ願いたいものです」

「我々も聞きたいな」

「話す際には是非声をかけてほしい」

「私達は旅先での活躍について話そう。少し長くなるから覚悟してほしい」

「ええ、いくらかかっても構いませんわ」


 すっかり意気投合した彼らは学園の外での約束を取り付けている。

 しかもお兄様のファンはここにいる五人だけではないようで、脳筋ズが「他にも声をかけたい人がいるんだ」と言っているのが聞こえてしまった。


 あの輪に入れるほど濃い人って一体……いや、深く考えるのは止めよう。小さく頭を振って、微かにあったダグラスファンへの興味を消す。


 そしてイヴァンカとギュンタの方へと向き直る。


「イヴァンカ、ギュンタ。私達、週末に実家に帰るんだけど、二人ともどう?」

「行く! 実はそろそろ薬草園の様子を見ておきたかったんだ」

「ロドリーも帰るって聞いたから、私もなんだか寂しくなっちゃってたのよね」


 昨日のイザラク同様に即答である。


 王都に来てから早数ヶ月。

 地元を長く離れたことがなかった二人も思うところがあったようだ。スカビオ・ファドゥールから来た他の子達にも声をかけたが、彼らは課題で忙しいようだ。


 ちなみにレミリアさんは週末の予定が入ったばかりなので、今回は見送りとなった。脳筋ズは辺境行きにとても興味を示していたが、彼らだけ連れて行ってシェリリン様を置いていくのは可哀想だ。


 公爵令嬢をドラゴンに乗せるのはギリギリ大丈夫だとしても、さすがにマーシャル王子を連れて行くのは怖い。


 聞けば王都から半日以上離れた場所への移動する際は主治医同伴とのこと。それもよほど外せない用事のみ。彼の体調を心配した王妃様と第一王子が外出を制限しているようだ。


 積極的に外出させたいサルガス王子とシェリリン様もさすがにドラゴンは……と、私と全く同意見だったため、今回は遠慮してもらうことにした。


 ゲーム版マーシャル王子は他の二人同様、魔王と闇落ちしたウェスパル、邪神の元へとやってくるのだが、どうやって魔界まで移動したのかは謎である。


 ヒロインと共にいるうちに元気になっていき……という流れだったが、特に光の力を使った様子もなかった。


 物語の中で徐々に元気になっていたのかと納得していたが、シェリリン様と王家がかなり力を入れて今の状態まで回復したのだ。自然治癒は考えづらい。


 もしや光の巫女が近くにいると治癒力が高まるのだろうか。だとすればシェリリン様とレミリアさんにはますます仲良くなって欲しいものである。


 いつかマーシャル王子達が辺境に来る時のためにアカに持ってもらう籠でも作っておこうか。まだまだ先のことかもしれないけれど、頭の中で鮮明に思い描けるくらいには叶いそうな未来になりつつあるのだった。



 学園から帰宅後、すでに屋敷に到着していたアカに三通の手紙を託した。一通は私が書いたものだが、残りの二通はそれぞれイヴァンカとギュンタが実家に向けて書いたものだ。


「これがうちで、緑の封蝋がスカビオ家で赤い封蝋がファドゥール家ね。裏に名前が書いてあるから分からなくなったら確認してって伝えておいて」

「かしこまりました」

「それから、亀蔵もみんなと会えるのを楽しみにしているからっていうのもお願い」

「必ず」


 お兄様とお父様は度々亀蔵の様子を見に来ているが、亀蔵だって他の亀たちが心配のようだ。さすがは亀たちのリーダー。


 ドライフルーツのドーナッツは手土産に変更することにした。


 もちろんロドリーにも渡すつもりだ。すでに実家に戻る日に渡しに行くからと伝えてある。実家に持っていくついでにはなってしまうが、ロドリーもといタータス家からは色々ともらっている。いつもお世話になっていますという気持ちも込めて、こちらからも芋以外の何かを渡したいと思っていたのだ。


 私の手作りなのがあれだが、評判はいいのだ。少なくともロドリーは私のおやつを気に入ってくれるので、なんだったら一人で食べてほしい。


 もちろんスカビオ家とファドゥール家の分も作る。別にロドリーと話している時のギュンタとイヴァンカの視線が痛かったからとかではない。初めからちゃんと作るつもりだった。



 ダグラス事件により生まれた『スカーレットの令嬢がシルヴェスターへ嫁入りする!?』という噂は、ダグラスファンクラブの設立と共に消え去った。


 妹として複雑な気持ちはある。せめて私が王都から去った後にしてくれないかとも思う。


 だがマーシャル王子から「早急に噂を否定するためには必要なんだ」と力強い意志のこもった瞳で訴えられてしまえば、私も口をつぐむしかなかった。


 そんな彼はファンクラブ設立の功労者としてファンNo.1の座を獲得した。

 学園でほくほくとファンカードを眺める姿に、彼もまたファンの一人なのだと理解した。

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