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30.精霊王をパシる

「これって斧用の砥石ですか?」

「ああ、そうだよ。このあたりじゃ包丁用と並んでよく売れるからな。お兄さん達は冒険者かい?」


 ロドリーが指差したのはまん丸い砥石だ。私が気にしていたものと同じ。斧用の砥石だったのか。


 シルヴェスター領では斧を使わないから、見るのは初めてだった。

 ロドリーが知っていたのはライヒムさんが斧も使うからかな。じいっと魅入るように見ている。


「はい。近くまで魔物討伐に来ていて」

「ドライフルーツが売っていると聞いて寄ってみたんです」

「そうかい。なら今度はドライフルーツだけじゃなくて、天然砥石もやっているんだって覚えて帰ってくれ」

「天然ものなんですか?」

「元々はこっちがメインだったんだが、そう数が売れるようなもんでもないからな。ドライフルーツを始めたって訳だ」


 天然ものの砥石とは珍しい。


 人造砥石は手早く研ぐことが出来るが、研ぎすぎることもあるのだとか。

 一方で天然砥石は人造砥石に比べて研磨力が弱く、時間はかかるが綺麗な仕上がりになる。料理人さんはこだわる人も多いと聞いたことがある。


「ウェスパル。しばらく見ていていいか? 兄貴の誕生日が近いから、プレゼントしたくて」

「分かった。なら私は先にドライフルーツを買ってくるから、ゆっくり見てて」


 私が近くにいては集中して選ぶことが出来ないかもしれない。幸い、私は手持ちの砥石でも十分。ロドリーに断って店を離れることにした。



 そこからすぐのところにあったドライフルーツ店でじっくりと吟味する。

 ここで取れたものだけではなく、他の地方から入荷したものも多く、紅茶とブレンドして売り出しているものもある。


「悩むなぁ……」


 ドーナッツに入れるならレーズンやクランベリーあたりが無難だ。


 マンゴー・いちじく・オレンジなんかもいい。その他にも桃にアプリコット、林檎、キウイ、レモンにいちごまである。


 サイズも亀蔵のおやつにぴったりで、ついこれもこれもと手に取ってしまう。だがあまり買いすぎるのも良くない。一袋がかなり大きいのだ。


 ドーナッツに入れるならカットして使うので、そんなに量は使わない。亀蔵が気に入るか分からない今、三袋もあれば十分なほど。


「んーーーーーー」


 一人、棚の前で唸る。ルクスさんがいたら相談も出来るのだが、一度入り口まで戻るのも面倒くさい。ロドリーのプレゼント選びも邪魔はしたくない。



 悩みに悩んで、レーズン・クランベリー・オレンジを一袋ずつ買うことにした。結局選んだのはドーナッツセットだった。


 その際、自然な流れで産地を尋ねてみた。


 馬車に付着して死草が広まっていたのであれば、ここで関連性を見つけられると思ったのだ。

 だが一致した箇所もあればそうでない箇所もある。季節によって入荷する場所も変わるということで、あまり参考にはならなかった。


 そう上手くはいかないか。


「何か気になることでもございましたか?」

「いえ、こんなにドライフルーツが並んでいるのが珍しくって」

「うちの店は種類が豊富なのも売りなんです。是非ごひいきに」


 店員さんスマイルで見送られながら店の外に出る。

 購入したものをマジックバッグに入れ、砥石の店へと戻る。そこにはほくほく顔のロドリーがいた。


「いいもの買えた?」

「ああ! 今度の週末に渡してくる。そろそろ長期休暇に入るけど、やっぱり早く渡したいからさ。ウェスパルの方は?」

「沢山あって迷ったけど、三袋も買っちゃった。ドーナッツ、楽しみにしてて」


 二人揃ってるんるんでルクスさんと亀蔵の元へと戻る。

 すでに精霊に話を聞き終わった後らしい。ルクスさんの手に残っている袋は空になっていた。有力な情報が手に入れられたならいいのだが……。報告を聞くのは家に帰ってからだ。


 グリフォンに乗って王都へ戻る。

 ギルドで討伐と採取の報告をして、等分した報酬を受け取る。


「じゃあまた明日」

「うん、また明日」


 ロドリーと別れ、屋敷に戻った後は自室に一直線。バッグを下ろしてすぐにルクスさんに問いかける。


「どうでした?」

「今現在、あの地周辺に死草はないそうだ。今後見つかった際には精霊王を通じて我に報告せよと伝えてきた」

「そんな精霊王をパシるようなことを……」

「あやつは我の活躍により多くの捧げ物を受け取っているのだから、これくらい当然だ」


 捧げ物とはファドゥールのワインを指しているのだろう。スカビオ家も何か捧げているだろうし、イザラクのパンも捧げ物ということになっている。


 イザラクのパンはともかく、ワインはファドゥールの人達が精霊と契約したおかげ。

 精霊の契約はルクスさんがいたからなので、ルクスさんの活躍で捧げ物が増えたって事でいいのかな。


 私からも精霊王に賄賂を、魔結晶を捧げよう。

 手持ちはないが、精霊王に渡すのなら量よりサイズ。大きいものを一つでいい。お風呂上がりに作ることにしよう。


 その他の魔結晶は週末に帰って、錬金釜でまとめて作ればいいか。

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