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26.古き錬金術師の最高傑作

 軽くめくってみると、すぐに自分のための記録だと気づいた。誰かに読ませることを前提に書かれていない。読み返した自分が分かるように書かれた文字。走り書きや変に省略してあるものも多い。


 錬金術で一番大事なのはイメージであり、レシピを残しているだけマメなのかもしれないが。

 私はその時のイメージと直感を大切にするタイプなので、レシピを一切残していない。


 もしこの本に書かれた内容を正確に把握できたところで、再現できるかと聞かれればノーだ。私とこれを残した錬金術師とでは抱いているイメージがまるで違う。


 だが見ているだけでも楽しい。私にはない発想を与えてくれる。


 その中に見慣れたものを発見した。


「あ、通信アイテムがある! シルヴェスターにあるのと一緒だ」


 形も機能もまるで一緒。

 制作日として記されている年はかなり前のもの。制作した目的は友好国への贈り物とするためで、元々は国同士で連絡を取り合うためのものだったようだ。


 友好国がどこの国を指すのかは不明だが、納得いく性能のものが出来たと書かれている。走り書きの文字からは錬金術師の興奮が伝わってくる。


 今、シルヴェスターにあるものはこれより後に作られたのだろう。さすがに作った錬金術師は別の人だろうけど、シルヴェスターにある錬金アイテムはどれも三百年以上壊れずに残っている。


 意外と本に書かれたもののどれかが残ってたりして……。

 何代かに渡ってメンテナンスをすればいけなくもないのかな。実際、いつ作られたのか分からないホムンクルスが正常に動いている。あり得ない話ではない。


 何かないかな〜とページをめくる。

 すると最後によく分からないものがあった。


「んん?」

「何か変なものでも見つけたか?」


 変な声を上げたからか、ルクスさんも本を置いてこちらへとやってきた。


「今、錬金術師の残したレシピ本を見てるんですけど、これってなんでしょう?」

「石……いや、岩か?」

「ですよね」


 最後のページに記されていたのはどこからどう見ても岩だった。それもかなりの大きさである。

 手持ちに測定器がないので確かなことは言えないが、おそらく本棚ほどの高さがある。


 とても錬金術師が作ったアイテムとは思えないほど適当なビジュアル。だが錬金術師は『我が生涯の最高傑作』と記しているのだ。


 どうやらこれは設置型の記録媒体らしい。『環境の変化を記録して国の中枢に送る』『大規模な災害が発生した際には石が割れ、国全土を覆う結界となる』と記されているが、そんな立派な錬金アイテムが残っているなんて話は聞いたこともない。


 お父様に色々と集めてもらった本にも書かれていなかった。もしやとっくの昔に割れて……と考えて、ふと思い当たる節があることに気づいた。


「もしかしてなんですけど、アンドゥトロワさんの故郷にある石って……」

「おそらくこれだろうな。といっても奴らの様子では管理者ですら錬金アイテムと理解しているかは怪しいものだが。すでに効果も失われているかもしれん」


 どこかのタイミングで伝達ミスがあったのか、はたまた効果が消えた後も大事にしているのか。

 アンドゥトロワさんはもちろん、それよりも上の代から『黒い石』というものを大事にしているようだった。代々大事にしてきたことで、お地蔵さんみたいなポジションになったのだろう。


 彼らが持っていた石はお守りみたいなもの。だが彼らが強調していたように『神』ではない。


 幼い子どもを村の外に出さないために作ったルールが定着した結果と考えるのが無難である。


 それ自体は大人達の工夫と言えるし、最後に防災目的のアイテムを作った錬金術師は偉大だと思う。


 だが『我が国とかの国との中心、民達の避難場所に設置した』と書かれているのが気になった。走り書きされているのはちょっと気になる。我が国はジェノーリア王国だとして、かの国ってどこだろう。


 アンドゥトロワさんの村って確かこの国の真ん中あたりにあったような気がするのだが。


 作ったとされる日がかなり昔なので、大陸内の国の拡大や縮小、消滅があったのかもしれない。前に記されていた友好国というのもすでに滅んでいる可能性もある。



「考え込んでないで、そろそろ外に出るぞ」

「え」

「入ってからかなりの時間が経っている」


 ルクスさんが指差したのは壁掛け時計。振り子がついたかなり古びたものである。あんなものあったんだ。本ばかり見ていて全然気づかなかった。


 すでに針はおやつの時間を過ぎており、授業終了から一時間半が経過していた。

 いつのまにそんなに経っていたんだろうか。ルクスさんに持ち出す本を尋ね、せっせとマジックバッグに詰め込んでいく。


 図書館に戻って適当な本を取り出すのと、イザラクに声をかけられるのはほぼ同時だった。


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