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24.神と王

 

『巫女とは生涯神に仕える者なり』

『力を与えられたあの日から、この一生を彼に捧ぐと決めた』


 この本を書いた巫女は誰かに仕えている。一日の過ごし方や時期ごとの祭事についても軽く記されている。


 肝心の仕えている神については書かれていない。ちょこちょこと『王』というワードも入ってくる。王に仕えていたという表記と神に仕えていたという表記の両方があるのだ。


 神の身を清める方法のところに『逆さの鱗』と書いてある。おそらく逆鱗のことだ。

 つまりドラゴンの姿をしている神ーー龍神ルシファーと考えるのが普通ではある。王についての記述に服とあることから神と王は別だと思われる。


 だがルシファーについて記されたものは全て光の巫女によって処分されているはず。

 光の巫女と闇の巫女は一人ずつしか生まれないことから、神=ルシファーと仮定するなら封印以前に記されたものなのは確実。以降ならば別の神に仕えていたことになる。


 闇の巫女はシルヴェスターに生まれるが、光の巫女が生まれる場所は決まっていない。今回の光の巫女、レミリアさんがたまたまジェノーリア王国に生まれたにすぎない。



 ざっくりと読み終わって、ルクスさんの方を見る。

 ルクスさんは一体どんな意図でこの本を選んだのか。単純に巫女について書かれているから選んでくれただけなのか。当の本人は人の姿で椅子にどっしりと座りながら真剣に本を読み進めている。



 立ち上がり、横から中身を覗く。

 ルクスさんの読んでいる本は、神達と信仰の変遷について書かれているようだ。といっても書いてある内容は私が知っているものとさほど変わらない。


 かつて一大勢力を持っていた精霊神信仰だが、今は完全に廃れている。これは魔獣召喚が主流となったことと関連している。なかなか応えてくれない精霊よりも魔獣を相棒にしようとしたのは人間。その頃から獣神を信仰する国が増えてきた。


 それも代替わり、つまりシロに変わったタイミングで徐々に廃れて今に至る。


 一つだけ意外だったのは魔王の誕生について。

 かつて魔界を治めていたのは魔神だった。だがとあるタイミングで魔王というものが誕生している。


 以降、魔王は定期的に代替わりを繰り返し、今に至る。

 てっきり初めから魔神と魔王は別々にいるのだと思っていたが、違ったのか。誕生した時からずっと神として、王として活躍を続ける精霊王とは違うパターンだ。


「一つ疑問に思ったんですけど」

「なんだ?」


 ルクスさんは本から視線を上げずに返事をする。

 だから私も今出来たばかりの疑問を口にすることにした。


「なんで人の神様はいないんですか」


 本には沢山の神について書かれているが、なぜか人の神様だけがいないのだ。


 今まではそんなものかと思っていたが、こうやって並べてみると人だけ除外されているようで違和感がある。前世には人の姿の神様もそれ以外の神様も沢山いたのでなおのこと。


「かつてはどこの国も様々な神を信仰していたものだ。亀蔵に目をつけている人間の国は未だに獣神を信仰しているのではなかったか」

「でも獣神ってあくまで獣の姿をした、獣のための神様じゃないですか。人間はあくまで他の種族の神様を信仰しているにすぎない。こんなにいろんな種族の神様がいるのに、初めから人のための神様っていないなって思って」


 人間だけが様々な神様を信仰している。

 そういうものだと言ってしまえばそれまでなのだが、妙に引っかかった。


 自分でもなぜこんなことが気になるのかは分からない。ルクスさんにシロに精霊王、それから邪神と勘違いされている亀蔵と、神様が身近すぎるからかもしれない。


 とはいえただの疑問ではある。

 ルクスさんの口から「そんなものだ」とさえ言ってくれれば納得が出来た。

 だが彼の反応は予想外のものだった。ピクッと身体を揺らし、言葉を詰まらせる。


「……必要なかったのではないか」

「なんですか、その間は」

「気のせいだ」

「絶対ありましたって。何か知っているんですね?」

「何も知らん」

「じゃあその本、私にも貸してください。私が知りたがること書いてあるみたいなので」

「構わんぞ」


 つまりこの本を読んでも人の神様についての情報を得られないということか。


 だが図書館での様子といい、ホムンクルスを見つけた時の反応といい、今の反応といい、何かがある。ルクスさんは何に強い興味を示し、何を隠したがっているのか。


 だがそれだけではないような気がする。何かの情報を与えたがっているような……。

 意味深な司書の態度を見た後だからだろうか。妙に勘ぐってしまう。


 嫌な予感がする。

 それでもあの部屋の本を読み続けていれば、いつかウェスパルの闇落ちの真相にたどり着けるかもしれない。


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