20.サポートキャラ
「イザラク君」
今日も朝からしっかりと授業を受け、三人で馬車乗り場に向かおうとした時のこと。
イザラクが先生から声をかけられた。
私達が受講している教科を受け持っている先生ではないが、入学式の際に壇上脇に立っていた。
確か学園長補佐、教頭先生のような立ち位置だった気がする。入学式以降も何度か見かけたことはあるが、イザラクに何の用だろうか。イザラク本人も不思議そうだ。
「なんでしょう」
「生徒会について話したくて。少し時間をもらいたい」
「生徒会!? すごいね、イザラク」
生徒会なんて簡単に入れるものではない。枠が少ない上に、一度所属したら卒業まで続ける。毎年空いた穴を補う形で人員を補充していくのである。
乙女ゲーム攻略者は全員優秀だったが、生徒会に所属していたのはサルガス王子ただ一人。
ゲーム同様に優秀な彼は去年スカウトを受けて生徒会入りを果たし、今は会長職に就いていたはず。……とここまで考えてなるほどと納得した。
「サルガス王子ですね」
生徒会の多くは推薦や入学試験の記録を元に選抜される。
家格には左右されないが、学園内外問わず生活態度は重要視される。また身辺調査を行い、学園が用意した規定をクリアする必要がある。
真偽のほどは分からない。だが二代前の生徒会長は歴史ある子爵家の四女であったことから、根も葉もない噂という訳でもないのだろう。
イザラクなら入学試験の結果もよく、生活態度にも問題はない。
ただ本人には、という話であって、公爵家には毎日ドラゴンが飛んでくる。身内とはいえ、あれはオッケーなのか。
些かの不安が残るが、そこは生徒会長推薦のパワーでどうにかしたのだろう。
「ああ、そうだ。承諾がもらえるか分からないと聞いているが、説明だけでも聞いて欲しい」
「ですが……」
光栄な話だが、イザラクは心配そうにこちらに視線を投げる。
「そういうことなら行ってきなよ。私とルクスさんなら図書館で時間を潰しているから」
「ごめん」
「いいって。元々図書館には行ってみたかったし、気にしないで」
「うむ。美味そうな料理を探しておく」
受講科目を合わせてくれるイザラクだが、そこまで私達に気を遣ってくれなくてもいいのだ。興味があるものがあれば遠慮なくそちらを優先して欲しい。
ルクスさんの言葉に背中を押される形でゆっくりと頷くイザラク。そして先生と共に生徒会室へと向かった。説明はそこで行うらしい。断りづらくする作戦のような気がするが、イザラクのことだ。嫌なら嫌だときっぱり断ることだろう。
「本を見に行く訳ではないのだろう?」
「はい。別に彼自身がどう動くかはあんまり関係ありませんが、一応確認を」
図書館には乙女ゲームのサポートキャラの司書がいる。
現在の好感度やステータスを教えてくれる他にも、訪れるタイミング次第では占い師として、攻略者達の好みや今後有効なアイテムのありかを教えてくれる。
司書が占い? とは思うが、他の生徒相手にも占いを行っており、モブキャラの会話でもそんなような内容があった。おそらく司書の仕事の傍らで学園での悩み事相談も兼ねているのだろう。
司書よりも好感度把握・お助けキャラの印象が強いが、光の力の情報を与えてくれるのも彼だ。
闇の力とは違い、光の力については沢山の情報が残っているので特におかしなことでもない。ステータスを確認するのも測定器を使って。測定器自体は構内の各所に置かれている。
図書館に置かれているのはおそらく自習室のような側面もあるから。新しい分野に手を伸ばそうと思った際に自分の適性や現状の実力を確認しておけば便利だ。
乙女ゲームの都合に寄せた感は否めないが、実際置かれているのだから何かしらの理由があるはずだ。
ーーと、特にサポートキャラに不審な点はない。あくまでも司書の活動とその延長に留まる。
だが乙女ゲームに関連するキャラクターであることは確か。優先度は低いが、適当なタイミングで確認しようと思っていた。
ルクスさんと共に図書館に入り、ギュンタとよく似た色合いの髪を探す。
腰まで伸びた長髪をポニーテールにしているので遠目からでもかなり目立つはずだ。
「あ」
いましたよ。
そう声をかけようとした時だった。腕の中のルクスさんがぷるぷると震え始めた。




