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8.制服は楽な方がいい

「ルクスさん、ネクタイ緩んでますよ」

「首がキツい」

「今日くらいは我慢してください」


 今日は学園の入学式。

 ルクスさんは人型での参加とドラゴンの姿での参加、どちらにするかかなり迷った。


 ルクスさんとしてはドラゴンの姿がいいのだが、一応学生として登録してあるので人型で参列した方がいいのではないかと。けれど入学前試験とは違い、ドラゴンの姿でも何の不便もない。


 どうしたものかと悩んでいたところに、学園長からルクスさん宛に『人型で参加して欲しい』との旨の手紙が届いたーーと。


 ということで今日は朝からルクスさんは不機嫌である。

 ネクタイを直しながら「帰ってきたら焼き芋作ってあげますから」となんとか機嫌を取っていく。


「この前の揚げたやつがいい」

「揚げスイートポテトですね。アップルパイも付けましょうか」

「うむ」

「なんだか新婚夫婦みたいだな」


 イザラクはのほほんとした顔で待ってくれている。


 馬車の時間まで後少し。ネクタイを結ぶついでに他の部分も確認しておく。気分は完全に小さな子どもを持つお母さんである。


 それから入学式が終わった後すぐにルクスさんがドラゴンの姿に戻ることも想定して、制服を入れるための袋も馬車に持っていく。


「我は学園に到着してから服を着れば良かったのではないか?」

「どこで着替えるんですか?」

「この中で」

「そうしたらルクスさん、ネクタイゆるゆるのままで出てきちゃうでしょ」

「これは難しくていかん」

「ワンタッチネクタイだったら楽なんですけどね」

「ワンタッチネクタイってなんだ?」


 反応したのはイザラクだ。キラキラとした目を向けてくる。


「普通のネクタイは一本になっていて自分で巻くのに対して、ワンタッチネクタイは初めから首の部分がわっかになっているの」

「上から被るのか? それだとズレそうな気が……」

「ううん。首の横に小さな留め具みたいなのがあって、そこをカチッとはめるの」


 前世ではネクタイやリボン付きの制服があった。

 ちゃんと一本になっているところもあるのだが、私の友達が通っていた学校の指定ネクタイはワンタッチネクタイだった。


 シャツの襟で隠れるところがゴムになっており、楽だけど定期的に買い換えなければならないとぼやいていた。


 ちなみにセーラー服が制服の子だと襟の着脱が可能となっていたりと、一概に制服といっても色々と工夫がされていた。


 ただブラウスにジャケットと特に悩みが生まれない制服だった私はそんな苦労してこなかったけれど。


 今世の制服も着るのが簡単なジャンパースカート。すっぽりと被ってチャックを閉めるだけでいい。


 また男子のネクタイと同様にリボンの着用義務があるものの、細いリボンを蝶々結びにするだけ。


 上に着るものがジャケットではなくセーターだったらもっと嬉しいのだが、制服とはいえ着るのは貴族の令嬢ばかり。さすがにそこまで思い切ることは出来なかったのだろう。


 ルクスさんからの恨めしそうな視線は感じるが、昔から男女で制服が分かれているのだから仕方がない。


 前世のワンタッチネクタイだって制服考案時からそういうものがあった訳ではなく、時代と共に変化していった結果。


 今世ではまだそこまでカジュアルな文化を取り入れるのは難しいが、多分数十年後は形が変わっていてもおかしくない。

 男子にしかないニットベストだっていつかは女子制服に取り入れられるかもしれないのと同じだ。


「そんなのがあるのか。……なぁ帰ったらイラストで書いてくれないか? 作ってみたい」

「いいけど、公式の場には不向きだと思うよ? バレちゃうかもだし」

「ネクタイしないよりはマシだよ。それにここから徐々に慣れさせればダグラス兄さんだってネクタイをする習慣がつく」


 首が締まるようなものが嫌いなのだろう。

 ジャケットだって嫌がりそうで、ニットベスト・ノーネクタイ姿のお兄様の姿が簡単に想像出来る。多分第一ボタン、第二ボタンあたりまで開けていただろうことも。


 実家にいるとネクタイなんて着ける機会はない。精々社交に参加する時の数時間くらいだ。それも地元の集まりなら途中から外してもあまり問題はない。


 だがお兄様は爵位を継げば私みたいに領に引きこもってばかりもいられない。外に行く機会だって増える訳で、そんな時はネクタイが必須となる。


 確かにお兄様の分も何本かあったら便利かもしれない。


「そうね……。ところでイザラクって裁縫もするのね」

「資料にあるものを再現するくらいだけど。服くらいなら作れるよ。ルクスさんの尻尾穴も軽くなら修正出来るから何かあったら言って」


 それはもう得意といってもいいのではないか。

 まさかイザラクがここまで何でも出来るとは思わなかった。


 神様関係に特化しているとはいえ、このハイスペックさがゲームではほとんど明かされなかったのかが謎なほど。だがただでさえイザラクは人気キャラだった。そこに色々足すと人気バランスが崩れてしまうから出さなかったのかもしれない。


 ちなみにイザラクの人気ポイントはクールだけど愛情が深いところだった。


 従姉妹の私にはクールなところは分からないが、愛情は確かに深い。

 シルヴェスターとヴァレンチノ家は皆、家族や大切な人へ向ける感情は深く重いのである。私もその一員なので重いな~と感じるところはないけれど。


 今思うとゲーム版のイザラクはわりとさっぱりとしていたように感じる。

 目の前にいるイザラクなら、ウェスパルが闇堕ちしても敵認定することはないと断言出来る。恋愛感情よりも家族愛を優先させそうだ。


 なんだかんだで辺境から離れて暮らしていたはずのイザラクにも変化が起きているのかもしれない。


 ゲームの時にも増して婚期が遠のいていそうな気がしなくもないが、私は今のイザラクが大好きだ。今後、袖がほつれた時にもイザラクを頼ろうと心に決める。


「いいのが出来たら我の分のネクタイを作ってくれ」

「分かった」


 留め具は何がいいかと話しているうちに馬車は学園へと到着した。


 すでに他の家の馬車は何台も止まっており、寮からもわらわらと学生達が歩いてきている。


 その中にひときわ大きなグループを見つけた。

 ファドゥール・スカビオ組だ。人数が多いからか、他の生徒から遠巻きに見られているので非常に目立っている。


 中心にいるのはイヴァンカとギュンタ。

 手を繋いでおり、馬車の窓からでも仲の良さが窺える。二人とも今日も元気そうで何よりである。

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