28.一途に恋して
「出来た!!」
芋掘りが終わった頃には三つ目のマジックバッグが完成した。
ちなみに手を突っ込むと画面が出てくる式である。欲しいものをタッチすると手で掴めるので、あとは引き上げるだけ。
私も本当に出来るとは思わなかった。
だがちゃんと機能している。なんでもやってみるものである。
ちなみに一つは私が王都に行く際に持って行く用。
三つのうち、容量は二番目に多い。主に芋の保管をするためのもの。服や本、錬金術で作ったものなんかも入れられる。
二つ目は魔結晶入れ。
私が留守の間、亀吉とホムンクルス用の魔結晶を保管するために作った。お父様にも使い方はレクチャーしてある。
容量自体は魔結晶ならかなりの量が入るので、春になるまで作りまくるつもりだ。
そして今しがた完成したのはお兄様用である。
そろそろ誕生日なので相当頑張った。ガンガン狩りまくっても中に入れられるようにかなりの大容量である。
これで足りなかったらもう一個プレゼントすればいいだろう。
初めこそ予想外なものを作ってしまったものの、慣れれば難しくないのだ。
とはいえ私がこんなにポンポンとマジックバッグを作っているのは、これだけが理由という訳ではない。機嫌が良いからである。
理由は主に三つ。
一つ目はホームズ一家が芋掘りで大活躍してくれたこと。
速攻でシルヴェスター領に馴染んだ彼らは今やお芋マスターとなりつつある。亀吉も亀蔵と同じくらいの仕事をこなせるようになった。
二つ目は芋小屋の空調も大きな問題がなく、微調整だけで済んだこと。
一つ目と合わせて、来年以降のお芋も安泰である。
そして三つ目。これが一番大きい。
ヒロインことレイミアの力が発現した。
光の魔法が使えるようになったのである。
ゲームでも『入学半年前に力が使えるようになった』とあったので、若干早いとはいえ、想定内ではあった。
そう、ここまでは。
ゲームとは大きな違いがある。
ファドゥールに移住してきたことで、彼女はすでに魔法の制御を覚えているのである。
魔法使いが近くに常駐しているので、不思議な力が使えるようになった後もパニックを起こすことはなかった。
驚きはあれど、勉強の時間が増えた程度だという。
王家への報告も済ませ、つつがなく学園入学が決定した。
手紙の情報だけでは少し不安が残ったので、イヴァンカに頼んで様子を見に行った。だが私の心配は無駄に終わった。
「ファドゥール家の皆さんに恩返しできるように頑張りますから!」
メラメラと燃えており、魔法以外の勉強の成績もいいらしい。
この時点ですでにゲームとは違う。
だが最大の違いは恋人がいること。
同じ孤児院からやってきた少年だ。ソラというらしい。初めて聞く名前だ。ゲームでは名前すら登場しなかった。完全にノーマークの人物である。
魔法の才能はあまりないが、かなり頭が良いそうだ。
ノルマンド商会からの勧めで彼も入学させることになったらしい。
卒業後はファドゥール領に戻り、結婚してからは二人で教師をする予定まで立てているのだとか。私と同じ年ながらすでに将来の夢があるなんて、なんと素晴らしい少年か。
二人揃って憧れの人が私のお兄様であるところだけがおかしい。
家族思いなところが素敵だそうだ。
確かにお兄様は家族を大切にしているが、一体どんな話を聞いたらキラキラした目で語れるようになるのだか。
それはともかく、ファドゥールの未来のためにも、そして私の未来のためにも、是非とも二人で仲良くゴールインして欲しいところである。
そうすれば私の闇落ちも回避される。
幸せはいくら連鎖してもいいものだ。
まぁ攻略対象者とくっつきそうになった時は全力で邪魔するかもしれないが。その時はその時だ。もちろん相手が浮気した時も同じく潰しにかからせてもらう。
二人には一途を貫いてもらいたいものである。
とはいえ、今のところヒロインの学園恋愛フラグの発生確率が低めなことには違いない。
なので私は超がつくほどのご機嫌なのだ。
またスカビオ家も何人か有望そうな平民の入学を決めたのだとか。
両家共に儲かっているので子どもの未来に投資しようと。いい話である。
王都に行く人数が増えれば増えた分だけ移動中の護衛が増えてラッキー! とか、ヒロインが一緒に乗ってくれれば移動中は安泰! とかほんの少ししか考えていない。
精霊もいるし、イヴァンカには加護もある。
いざとなったらそれにお兄様の護衛をプラスしてもらえば良いだけだ。
「よし、ちゃんと画面も出てくるし取り出せる。これでオッケー」
「かめぇ」
「かめかめ」
「これでまた持ち帰ってくる素材も増えるな」
出来たマジックバッグの性能を確認してからお兄様の元へと向かう。
確かアカの小屋を掃除すると言っていたはずだ。
ルクスさんと亀蔵、亀吉と共に外に出る。
するとアカの小屋の方から話し声が聞こえた。
「いいか、家族は一番大事だ。なによりも家族。身内が最重要だ」
「はい!」
「弱き者は家族を守れないからな。気合を入れて取り組むように」
誰か来ているのだろうか。
ちらっと覗くと、そこには見慣れた青い髪の少女がいた。
両手には剣が握られている。どうやらレイミアが剣術を習いにきていたようだ。
まさかの双剣使い。
ゲームでは後方支援がメインだったのだが、私のお兄様に憧れた結果だろうか。
まぁファドゥールで暮らす以上、自衛手段として魔法以外も色々と使えた方がいいが。
「ウェスパル様!」
「ウェスパル? どうかしたのか?」
「邪魔してすみません。マジックバッグができたので渡そうと思って」
「俺の人生でウェスパルが邪魔になったことなど一度もないが?」
「そうです。ウェスパル様が最優先ですから!」
それはそれで心配なのだが、一緒にいる相手が気にしていないのだからいいのだろう。
気にせずに用事を済ませることにした。手に持っていたマジックバッグをお兄様に差し出す。
「お兄様、これ。誕生日プレゼントです」
「ありがとう。ウェスパルが持っているものと色違いだな」
「容量はそっちの方が多いです。狩りに行った時にたくさん持ち帰れるように」
「そこまで俺のことを……」
お兄様は口元を押さえてプルプルと震え出す。そして隣のレイミアも一緒に感動している。
お兄様に憧れるだけあって彼女も相当変わっているのだろう。
「これが家族……私も早く欲しい」
レイミアがしみじみと呟く。
その言葉にハッとした。
そういえば早くに家族を亡くしたレイミアは『家族』というものに憧れていたんだっけ?
シナリオがラストに近づいた頃、そんなことを言っていた気がする。
ならなおさら結ばれるまでに障害の多い攻略対象者より、同じファドゥールで生きようと決めている恋人さんと順風満帆な結婚ライフを行って欲しいものだ。
ソラさんファイト。
会ったことないけど、応援しているから!




